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君の世界を巡る旅  作者: 天崎 剣
【13】結託

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9. 水鳥と香草

 アーネストは眉を顰め、佑の手をじっと見ていた。

 田舎侯爵と名乗った佑の正体は、半分以上見抜かれているかも知れなかった。

 けれどここで怯む訳にはいかないと、笑顔のまま手を出し続けた。


「シャルル……湖畔の。水鳥の生息で有名ですな」

「ええ。あの辺りに生息する水鳥の羽毛は、特に質が良くて。羽毛布団に最適なんです。宰相閣下もご愛用だと伺いましたが?」


 これはライオネルに聞いた話。

 ガリム公国領の端にあるシャルル湖は、豊かな自然と水資源に恵まれていて、観光地としても有名だそうだ。

 シャルル湖は細長く、オットー国やセプタス、セイス辺境伯領にも面しているが、特に南部のガリム公国領付近は森が深く、野生の水鳥の生息環境として最適らしいのだ。

 実際その付近を治めているのは無名な子爵や男爵で、大公一家とは縁もゆかりもないのだとライオネルは言った。どうせ無名なのだから、架空の侯爵がいても気付かれないだろう、と。


「ええ、愛用していますとも。ところで最近、庶民の方から、規格外の羽毛について……どうのと、話題になっている件についてはどうお考えか」


 エナの町の防具屋での話だ。

 佑は咄嗟にそう思った。

 あの日会話を繋ごうと話したことが話題になっているのだろうか。

 ダウンジャケットなんてこの世界にはないのだし、仮にアーネストが話の出処を知っているとしたら……、迂闊なことは言えない。


「そうですね。処分していたものを買い取ると言うのですから、こちらとしても有り難い。捨てるにも金がかかりますので」

「水鳥は、それでも捨てる部位の少ない優秀な素材では?」

「ええ。肉も食べ応えがあって美味いですよ。特に香草焼きとか。それから、鶏ガラも良いダシになります。残った部位も、細かく砕いて肥料に出来ますしね」

「香草焼き……」

「死んだ妻の得意料理です。香草と岩塩の割合にコツがあるらしく……、なかなか味を再現出来ないので、もう幻の味ですが」

「ほぅ。侯爵家の奥方が厨房に立たれていたと……?」

「うちは大公殿下と親戚だというだけで爵位を頂いたような田舎侯爵ですから、一家総出で何でもやりますよ。それに、料理は妻の趣味でもありました。香草の栽培にも凝っていまして、庭中草だらけでしたよ」


 言葉を選んで言うと、アーネストは眉根を上げてフフッと笑い、ようやく佑の手を取った。


「ソルザック侯爵。面白い方だ。ライオネル殿下が見込んだだけのことはある」

「閣下こそ、噂通り慎重な方ですね。どうぞよろしくお願いします」


 互いに力が入ったのだろう、強めの握手に、二人ともニヤリと口角を上げていた。


「どうだ、アーネスト。なかなか面白い男であろう」


 エクシア王は二人のやり取りを面白く感じたらしく、ご満悦のようだ。

 アーネストも、エクシア王に合わせてニコッと顔にシワを作って笑う。


「全くですね。流石はエクシア王陛下。お目が高いのは、幾つになってもお変わりにならない」

「はっはっはっ! アーネストよ、お主のそういう所もな! 良い縁だ。心ゆくまで語られよ」


 豪快に去っていくエクシア王を尻目に、佑も竜樹も、そしてアーネストも……、緊張感を崩せずにいた。

 嘘だと悟られないよう、設定は忘れないように話したし、本当のことも織り交ぜた。

 営業トークに普段から自分のことを加えて話すようにしているのが役に立った感じだ。

 まずは無難に話をしてみたが……、アーネストはなかなかの食わせ物だ。


「それにしても」


 アーネストはギロリと竜樹を睨んだ。


「随分……目鼻立ちの整ったご子息ですな。貴殿には……、あまり似ていない」

「そ、そうですか。似てるって言われるけどな……」


 困惑する竜樹に、アーネストがグンと迫った。

 仰け反り躱そうとするが、アーネストは顎を擦りながら、まじまじと竜樹の顔を覗き込んでくる。


「私よりも、死んだ妻に似たんです。とても美しい人だったので」


 佑はわざとらしく“死んだ”を連呼した。

 アーネストが何を考えているのか知りたかったのだが、全く表情を崩さない。


「そんなにお美しかったのでしたら、是非お顔を拝見したかった」

「そうですね。残念です」


 懐に隠したスマホには、紗良の写真どころか動画まである。見せつけて、お前が殺したのかと襟元に掴みかかりたいが……、今は我慢だ。


「ところで貴殿の亡くなった妻とやらは……、一体どちらの出か」


 アーネストは佑のそばまでやってきて声を潜め、ついに本題を切り出してきた。

 勘づいたのか。

 確信を持ちたいのか。

 トビアスにやられても、ブレスレットの持ち主が怯むことなく堂々と晩餐会に現れたのだとしたら……、それはそれで恐ろしいとでも思ったのだろうか。


「妻は、アラガルド王国の出ですよ、閣下」


 アーネストの眉尻がぴくりと動いた。


「……妻は、この王国で育ちました。美しく、強く、愛くるしい……、ただの平民の少女を、私は嫁に貰ったのです」


 にこやかに堂々と。

 何も後ろめたいことなどないのだと訴えるように言い放った佑が、アーネストにはどう見えたのか――。

 少なくとも佑には、アーネストが少し興奮気味に顔を紅潮させ、鼻息を荒くしているように見えていた。

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