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第67話 交流

 そうして皆が一時間目の準備をする中、ふと窓の外を見ると、急激に雲行きが怪しく雨が降りそうになってきていた。

 なんだか神羅の気分と天候が共鳴している気がする。


 ポツポツと雨が降り始めた。窓が開いていたせいで机に滴が当たって跳ねる。

 雨の日は悲しい匂いがする。決して嫌いじゃないが、今日という日には似合わないと思った。


 だから、片頬を微かに吊り上げて言った。


「金城、悪いけど晴らしてくれないか?」

「あ? なんでだよ、必要ねぇだろ」


 前に座っていた金城がロープを掛けた肩越しに振り返ってガンを飛ばしてくる。怖っ。やっぱり堅気の威圧感じゃない。でも本当は優しくて良い奴だって知っているんだぞ。


「頼むよ。晴れの日の気分なんだ。な、神羅?」


 そこで右隣の神羅と目を合わせる。

 すると神羅も、察したように微笑み返した。


「そうね! さぁハゲ、晴らしなさい!」

「ハゲじゃねぇ、俺はスキンヘッドだ! 絶対やらねぇからな!」


 そう抵抗していた金城だったが、やがて教室の皆から不満の声が上がると、金城は面倒臭そうにそれでいて満更でもなさそうに「チッ、仕方ねぇな」と言ってベランダから飛び降り、天空の雲を薙ぎ払って眩い日光を呼び寄せた。


 近くの教室の生徒達が皆ベランダに出て、吊されるハゲと晴れゆく空を見物する。神羅と天使も一緒にベランダに出て、興味深そうに照る照る坊主を見て笑っていた。


 そんな様子を自分の席から見守っていた俺の元へ、巨漢の安部が歩み寄ってきた。


「式上、一昨日は殴ってすまなかった。動きを見るに式上も何か格闘技を習っていたのか?」

「ああ……いいんだ、気にしないでくれ。むしろこっちこそ悪かった、巻き込んじゃって。格闘技は色々かじってみたけど、独学だし基本だけの素人だよ」

「そうか。良かったらボクシング部に入らないか? 部員が少なくて困っててな」


 まさかの勧誘だった。

 入部時期を過ぎた今でも歓迎してくれるのは嬉しいが、今は格闘技をやる理由がないのも事実だし、なんとも答えにくいところ。


 どうしたものかと返事に悩んでいると、長髪の伊藤がスッと会話に入りこんできた。


「おい式上……。本当に……プリコレやってるのか……?」

「あ、ああ。リセマラもしたけど一番欲しかったクロエちゃんが出なくてさ」

「…………あとで、ガチャ回してやるよ。課金の準備しておけ」


 そう呟くと伊藤は俺の返事を聞かずに自分の席へと戻り、安部はテニス部の次にボクシング部を見学しに行くと約束すると満足して教科書を取りに廊下へ出ていった。


 改めてクラスメートと交流できたことが嬉しくて、口元を緩ませて窓の外を眺める。


 そんな俺の元へ、今度は薄い苺色の瞳に剣呑な光を宿すシコリンが近寄ってきた。

 何の用件かと身構える俺へ、彼女は脳が蕩けるような快美な声音で言った。


「おはよう式上君。連絡先を交換する気になってくれたかしら?」

「あぁ……完全に忘れてた。悪いけど、また今度でいいかな」


 今はとても清々しい気分だったから交換しても良かったのだが、やはり後が怖いのでやんわりと断っておく。

 すると、シコリンがグイっと顔を寄せて耳打ちしてきた。


「交換してくれたら、万象さんと只野さんの回数を毎日教えてあげるわよ?」

「…………ま、前向きに考えておくよ」

「そうしてちょうだい。フフ、フフフフフ」


 佐々木しこり、恐ろしい女だ。

 彼女こそ俺の人生におけるラスボスなのかもしれない……。

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