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第63話 一言

「それでも、俺は真澄を愛していたし、真澄も俺を愛していた。けど、時間が経つにつれて真澄の俺への愛情は強くなっていってな」


 真澄からの愛の形は自然と変化し、次第に癒やしを求めて肉体関係を迫られるようになった。毎日のように迫られ、時には夜這いされ挿入されそうになったこともあった。

 二十四時間一緒に生活して、一緒に風呂に入り、一緒に寝て……よく一線を越えなかったと思う。


 神羅は話の向かう先を察したのだろう。紅の目に涙が浮かび、更に赤くなっていた。


 俺は自分への懺悔と、真澄に言えなかった想いをここで告白するつもりで、言った。


「真澄は俺に完全に依存するようになった。俺の周囲に近寄る人を傷つけて、俺の行動を制限して、俺を独占しようとした。俺も真澄のことを心の底から愛していたから、それでも良かったんだ。俺が傍に居るだけで真澄が笑顔になれるのなら、全部受け止めてあげようと思った。けど……俺は……自分だけを愛してほしいって言う真澄へ……なにげなく、言ったんだ」



 ――――重い。



 たった一言。

 悪意なんてなかった。ほんの、冗談交じりだったんだ。


 今後も真澄を見放すつもりなんてなかった。俺の人生の全てを彼女に捧げると決めていた。


 真澄は高校へは進学させず判明者用の生活保護で暮らさせ、俺は中学卒業後は学歴の要らない肉体労働の仕事に就いて、家を出て、同棲して、いずれは肉体関係をもって、結婚して、式はあげず、子供は作らず、二人きりで、幸せに、一生一緒に…………。


 でも――


「それで、真澄は自殺した」


 真澄は死んだ。

 俺が殺した。その一言で。


 結局、俺は自分が可愛かったんだ。

 【絶対拒否】を持つ自分を特別な存在だと勘違いし、優越感に浸り、被害者面をして、真澄の唯一無二の味方である自分に自惚れ、不幸な身という立場に酔っていただけなんだ。


 真澄を愛していながら、彼女に寄り添う自分こそを愛していたんだ。


 本当に彼女を自分よりも愛していたなら、あんな軽率な発言をするはずがなかった。他人に何をされても無視して、真澄だけを見て、きっと今でも二人で一緒に居られたはずだ。


「そして死後の今も、真澄は忌むべき存在として、記憶にある人達から憎まれ続けている」


 葬式は行われなかったし、誰も墓参はせず、真澄の家族は娘の影を感じる土地から離れ、彼女を話題に出す際には誰もが憎しみを込めて呼ぶ。


 幼い頃から真澄に憬れ、実の姉のように慕っていた妹の美結ですら。

 美結はあの写真を撮った日、「真澄お姉ちゃんと同じ髪型にして」とお願いして真澄に髪を結んでもらい、あの日から異常なまでに髪型に執着するようになったというのに。


 今では誰もが真澄の写真を捨て、彼女の生きた証しを持っていない。

 だが俺だけは真澄の遺品を持ち、写真を部屋に飾り、毎週彼女の墓前で祈り、毎日彼女を想っている。真澄が生きた証しと共に生きている。


 俺の記憶には、魂には、皆に愛されて笑顔だった彼女の姿が刻まれているから。

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