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第56話 判明

 枕元にあるベッドサイドチェスト上の、円柱型和風ランプのスイッチを入れて暖かい色の光を点けると、俺は天使とベッド上に並んで壁に寄り掛かった。


 天使は脱いだ服を着ず、体育座りで掛け布団に包まって下着姿を隠している。さっきは胸も完全に見えていたし、今更恥ずかしがられると逆にこっちも意識してしまうんだがな。


 天使は表情には出さないが、何かを思い悩むように口を結んでいた。


「普段は神羅ちゃんって呼んでいるのか?」

「…………さっきは、思わず昔の呼び方をしてしまっただけです」


 気恥ずかしそうに口を尖らせてジト目で睨んできた。普段からそうやって表情を崩さないのには理由があるのだろうか。


「幼馴染み、か」

「はい。私と……神羅ちゃんは、物心つく前からの関係なので」

「様呼びに変わったのは神羅が恥ずかしがるからか? 天使からは神羅ちゃんって呼んであげた方が親しみがあって喜ぶんじゃないか?」

「それは、できません。【私乃世界】の力で、私達は……友達ではなくなったから。神羅ちゃんの前では、私の言動は制限されてしまうんです」


 どういう意味かと問いかけると、天使が言った。


「神羅ちゃんの【私乃世界】は先天性の常動型ではありません。本当は、後天性で発動型の【可能性】なのです」

「…………」


 予想外の言葉だった。

 神羅と教室で出会った時の説明では、常動型で嫌でも愛されてしまうと言っていたはずだ。今までも常に効力を発揮している状態だったし、コネクト通話で訊いた際にも先天性だと答えていた。


 俺の懐疑心を悟ったのであろう天使が、こちらを見上げて言う。


「意識するだけで効力を発揮してしまうので常動型に近いですが、【私乃世界】は発動型です。だからこそ任意の人物に好きなように命令ができますし、神羅ちゃんが眠って意識を失っている間は効力が薄れ、拘束力の弱い私はこうして自由に行動できるんです」


 天使は遠い目をしながら「少し昔話をします」と前置きし、語りはじめた。


「神羅ちゃんのご両親は大企業の社長夫妻で、今の彼女程ではありませんが、とても裕福な家庭でした。しかしお二人とも仕事に熱心でしたので、複数人の使用人に家事と娘のお世話を一任していました。その中の一人が私の母です。私の両親と神羅ちゃんのご両親はとても仲が良く、自然と私達は毎日一緒に遊んで過ごすようになりました」

「じゃあ親の代から今みたいな関係だったのか」

「はい。私と神羅ちゃんは本当の親友でした」

「良い話じゃないか。幼馴染みと今でも仲が良いなんて……羨ましいよ……」


 俺は机の上で暗影を帯びる写真へ視線を流して言った。


「良い話では、ないかもしれません」


 てっきり天使は胸を張って誇るものかと思ったが、その表情は昏かった。 


「神羅ちゃんは知っての通り誰よりも綺麗な容姿をしていますし、幼い頃は両親の期待に添うよう勉学に励んでいたので成績も良く、家庭は億万長者で、何不自由ない生活をしていました。そんな完璧な存在が目の前に居れば、羨ましく思い、妬み、嫌がらせをする者もいます。精神の未熟な子供のうちは、仕方のないことだったのかもしれません」


 つまり――虐めを受けていたということか。

 俺自身が子供の頃に虐めを目の当たりにし、標的とされていたこともあり、その光景は容易に想像できた。


「神羅ちゃんはこう思いました。両親は仕事一筋で自分に構ってくれず、教師は話を聞いてくれず、家政婦はお金のために良い顔をしてきて、いつも傍に居る私は親に利用されているだけだと。味方など居ないと勘違いした神羅ちゃんは、自分には存在価値が無いと、自分は誰からも愛されていない忌むべき存在なのだと、そう思い込んで心を閉ざしてしまったのです」

「その頃【可能性】が判明したのか」

「はい。小学三年生のある日、ある出来事がきっかけで判明した神羅ちゃんは【可能性】によって他人に愛されるようになり、愛の力で他人を操れるようになりました」


 後天性の判明者の多くは、感情の昂ぶりによって【可能性】が判明する。きっとその頃の神羅にも、何か心を揺さぶる大きな出来事があったのだろう。

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