第48話 心変わり
完璧メイドの補助を失った神羅は相変わらずの調子だった。
服屋では試着の概念を知らず気に入った店舗の服を全種類購入して神羅家の倉庫に発送させ、ゲームセンターではクレーンゲーム機でクマ君の縫い包みが取れずにクレーン機ごと買い取ると言い出して俺が取ってやり、初めての百円ショップでは無邪気な子供のように目を輝かせ、嬉しそうにクレープを頬張ってはクリームを鼻に付け――。
知識に疎くて常識知らずで破天荒でお子様な神羅だが、無理して取り繕っていた午前中よりもずっと生き生きしていて、笑顔が絶えなかった。
神羅が満足してくれないと言うのなら、友人として、こんな風に彼女と二人きりでの青春を送る形もあるのかもしれないと、そう思えた。
クレーンゲームで取ったクマ君の縫い包みは大きくて神羅の麦わらバッグに収まらなかったので紙袋に入れてもらって俺が持ち、三階建てのショッピングモールを全店制覇する勢いで巡回していると、あっという間に夕方に。
入る店も無くなって歩いていると、神羅がチラチラと腕時計を確認しているのが目に入った。時計に視線を落としたかと思えば周囲を見回す、それを繰り返していて挙動不審だ。
流石に疲れてもう帰りたいのかもしれない。
「そろそろ帰るか。もういい時間だしな」
「ま、待って! まだ見てないお店もあるし、もうちょっと見て回りましょうよ」
繋いでいた手を引いて出口の方へ促すと、どこか必死な様子の神羅に引き留められた。
まだ物足りないのかと言おうとしたそこで、懐かしい声に名前を呼ばれた。
「結人!」
振り返ると、人々が行き交うモールの通路に、私服姿の薫が立っていた。
薫だけではない。
ボクシング部で巨漢の安部やスキンヘッドの金城など男子達、薫と仲良くしているグループを中心とした女子達――クラスメートの半数程、二十人弱が私服で集まっている。
見るに、クラスの親睦会でもやっていたみたいだ。シコリンは居ないみたいだが、俺と同じく彼女もハブられているのは残念ながら当然だろう。
それは良いとして。
薫は何故俺の名を呼んだんだ?
何故俺を認識できている?
全人類には、俺に関わるなという神羅からの命令が下されているはずだ。
訝しむ俺へ、神羅は申し訳なさそうに言った。
「もう、あの命令は解いたから……。他人と関わってもいいけど、私を愛しなさい」
「…………」
心変わりした神羅に感動し、何も言葉が出てこない。
これまでの俺の行動は無駄では無かったようだ。
まだ完全に愛を実感して納得してくれたというわけではないみたいだが、神羅は変わった。人として成長してくれたんだ。
クラスメートの手前、神羅と手を繋いでいるのは小恥ずかしかったので離そうとしたが、神羅に恋人繋ぎをされて拒否された。細い指を強く絡められる。
反応に困る俺の元へ薫が歩んで来た。
「奇遇だね結人。それに神羅さんも。何してるの?」
話しかけてくるということは神羅への非干渉の命令も解けているようだ。
久々に神羅達意外と会話することになり、俺は少し違和感を覚えながらも声を出した。
「俺達は映画を見に来たんだが……。そっちこそ、大人数でどうしたんだ?」
「クラスの皆を誘って遊んでたの! 本当は結人達も誘いたかったんだけど、タイミングがなかったんだよ、ごめんね」
タイミングがなかった、か。
都合良く認識が書き換えられているみたいだ。
「これからボーリングに移動しようって話なんだけど、結人達も来ない?」
願ってもないお誘いだが……。
もし肯定しようものなら再び神羅が激昂して「二度と私達に関わるな」と命令を下しかねない。ここは残念だが神羅を第一に考えて断るとしよう。
「いや、俺達は遠慮して――」
「いいんじゃない?」
同じ過ちを繰り返すことを危惧して断ろうとしたら、神羅に遮られた。
「行ってみましょうよ」
「でも、神羅は嫌じゃないのか? 無理するなよ」
「べ、別に、たまにはいいかなって思ったのよ! だから、私達も行くわ!」
神羅が勢いのままに言うと、薫は笑顔で「うん!」と快諾した。




