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第45話 映画鑑賞

 なんだかんだと喋りながら三階にある映画館へ到着。丁度良い時間で、もう間もなく上映だ。


 日曜日だけあって映画館は混雑していた。


 ロビーで上映を待つ人や売店に並ぶ人でごった返している。ロビーのソファーは満席になっていて、映画館外の通路にまで上映を待つ人が溢れている。


 俺達と同じく新作の『ハット』を見に来た人々も沢山いるだろう。


 それでも俺達には他人が近寄らないし、誰の目にも止まるはずの美人な神羅が通り過ぎる人々の視線を一切集めないのは、『デート中の神羅様の邪魔をしない』という愛を以ての気遣い故だろう。


 こういう時は便利だし、そう考えると【私乃世界】は神羅には不可欠な【可能性】である気さえしてくる。


 スクリーン入場口の上には巨大モニターがあり、映画の開場時刻が表示されている。やがて『ハット』の開場を伝えるアナウンスが響き、モニターの表示が切り替わった。


 それから売店の混雑を確認して、神羅に問いかける。


「せっかくだしポップコーン食べるだろ?」

「そうね。じゃあ貰いに行き……じゃなくて買いに行きましょ」


 俺の手を引いて動こうとして、ふと止まった。


「どうした?」

「な、なんでもないわ。やっぱり、列がなくなったら買いに行きましょ。ほら、私が行くと順番を譲られちゃったりして面倒でしょ。少し遅れても予告編だから大丈夫だし」

「あ、ああ……そうだな」


 目から鱗だ。気を抜いたら涙が零れてきてしまいそうだった。


 神羅は成長していた。初めて一緒に食堂に行った時とはまるで別人だ。自分の【可能性】の上に胡坐をかかず、他人を思いやる心を忘れずに世間のルールを遵守している。


 それが嬉しかった俺は、繋いでいた天使の手を強く握りなおした。


 俺達は人が減ってから売店へ行き、ポップコーンとドリンクを購入した。

 たとえ大富豪が相手でも、遊びに来た女子に払わせるわけにはいかないという男のプライドで俺が金を出した。


 そしてスクリーン内へ行くと、案の定『ハット』はほぼ満席だった。


 俺達も指定席である最後方中央に並んで着席する。学校と同じく俺が左で神羅が右で。


 だが、おかしな点が一つあった。

 予告が終わり照明が暗くなって映画泥棒に関する注意喚起が流れ始めたというのに、俺達を囲む左右と前と斜め前の六席が空席のままだった。


 神羅へ顔を寄せて小さな声で問う。


「なぁ神羅。俺達の周りだけ人が居ないのも愛の効果なのか?」

「いえ、周りの席を買ったのよ」


 神羅も声を潜めるマナーを守りながら、さらりと言った。

 みずみずしい林檎のような赤い唇が、俺の頬に触れそうになる。


「昨日天使が、結人が取ってくれた席を調べて周りの席を確保してくれたのよ。映画を見る時に他人が近くに居ると気になるだろうからって」

「それは同感だが、また豪快なことを……。てか既に埋まってなかったのか?」

「ハッキングして座席を変更させたって言っていたわ」


 サラッと何をしているんだあの犯罪者は。


 だが、あくまで神羅と俺の事を思っての行動だし、クラスを出て行かせてまで席を奪った過去を思えば、席を変えた程度なら許容範囲か。


 俺の中で常識感覚が狂ってきている気がする。


「今まではいつも借り切りの状態で見ていたけど、それはダメでしょ? 後から来た私の一声で満席の全員を予告編で帰らせるの、凄く爽快なんだけどね」

「おい」

「も、もうやらないわよ……。ともかく、今日は周りの席を取る形で対応したの。これなら文句ないでしょ? 感謝しなさい」


 ほぼ満席なのに、自分達の周りだけ結界が張られた状態の映画館というのも新鮮だ。

 こんな金使いの荒さは神羅レベルの税金泥棒ガチ勢でないと不可能だし、一応は映画館のルールに則った手段を選んでくれたのは素直に嬉しい。


 場内の照明が全てオフになり本編が始まる直前、俺は呟いた。


「変わったな、神羅。お前達の作戦が成功しそうで困る」

「え……?」


 暗に告白しているのと同じような言葉が、自然と口から漏れていた。

 神羅はしおらしく「ありがとう」と言い、俺の言葉を噛みしめているようだった。


 映画が始まった。


 暗い劇場内で超絶美少女と隣り合って二人きりになるというのは、なんとも変な気分にさせられる。周りに人は居ないし、最後方だから視線もないし、映画の大音量で声も漏れない。嫌でも意識させられる環境だ。


 そんな俺の葛藤も知らない神羅は、シリーズ好きな割にはホラー耐性が低いようだった。

 爆音が鳴るたびにビクリと体を跳ねさせ、じわじわピエロが迫ってくるシーンでは身を縮め、残虐なスプラッターシーンでは泣きそうになっている。そんな怯え顔も可愛い。


 もう偽の好意でもいいから陥落されてしまいたいと思えた。

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