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第42話 誘い

 神羅とテニスをした三日後の土曜日。


 毎週末の土日は俺の「愛を抱くには一人の時間を持つのが重要なんだ」という虚言のアドバイスにより神羅と関わることがなくフリーだったので、毎週末の習慣である墓参りを済ませた後、友人達と楽しそうに過ごす学生達を横目に帰宅し、夜まで自室でまったりと過ごしていた。


 ベッドに横になり見飽きた映画を流して、呆然とソシャゲのプリコレをプレイ。


 もう二十二時。

 この時刻は今まで毎日俺から神羅にコネクトをかけて雑談していたが、今日はまだだ。


 テニスをした日以降、神羅とは少しギクシャクしていて、なんとなく通話し難かった。あの日の俺の発言のせいだろう。

 なんだか神羅がボーッと俺を見てくることが多くなったし、話しかけても上の空だし、コネクト通話してもよそよそしい感じだ。


 だが、あの日伝えたことが俺の本心。

 神羅はアホで我が儘でどうしようもない程に愛されたがりな美少女だが、既に自分にとって彼女は一人の友だと言える。


 神羅がこれ以上『全人類に愛されたい』という一心で、俺の気を引くために形だけのアピールをしてくるのは嫌だった。

 それになにより、俺は一刻も早く普通の高校生活を送りたかった。


 だが、もし神羅がまだ満足してくれていなかったら……?

 まだ足りないのなら、こうして漫然と無駄に消化している休日も有意義に過ごすべきだ。


 俺は明日の日曜、高校最寄りの明麗駅近くにある大型ショッピングモール内にある映画館へ一人で行く予定だったので、友達として神羅を誘ってみることに決めた。


 早速コネクトで電話をかける。


 普段は二、三回コールすると直ぐに神羅が出るが、今日は違った。

 十秒程の少し長く感じるコールの後、神羅が応じた。


『も……もしもし……?』


 何かに怯えているような印象を受ける元気の無い声だ。眠いのかもしれない。


「起きてたか。中々出ないから、もう寝たのかと思った」

『ね、寝ないわよ……。子供扱いしないで』


 そう反論してくる声に、いつもの力強さはない。

 どうしたのだろうかと少し気にはなったが、俺は早速本題に入ることにした。


「神羅、明日暇か?」

『え? な、なんで?』

「明麗駅前のショッピングモールにある映画館に新作の『ハット』を見に行くんだけどさ、良かったら一緒に行かないか? 確か神羅も前作を見たって言ってたよな?」


 これまで学内やコネクトで俺の映画鑑賞の趣味については話していたが、世間知らずな神羅でも人並みに映画は見ているようで、そこそこ会話が成り立ったのは印象深い。


『そ、それって、デートしたいってこと?』

「…………まぁ、一応そうなるな」


 その肯定を聞いた神羅は何を思ったのだろうか、突然無言になった。


 黙って返事を待っていると、向こう側で神羅と天使が小声で何やら話す声が聞こえてきた。教室で二人が俺に愛させるための作戦会議をしている時と同じ空気を感じる。


 そうして待つこと三十秒。通話に戻ってきた神羅が、


『い、いいわよ! 行くわ!』


 と大声で答えた。唾が飛んでくる錯覚を受ける程の声量で耳が劈かれる。

 眠気が失せたのか、急に普段の元気な神羅に戻っていた。


「そうか。午前の回なんだけど、十時に明麗駅前の時計下に集合で大丈夫か?」

『ええ! いつでも大丈夫よ!』

「じゃあ席を取っておくぞ。天使も来るだろ?」

『いえ、天使の分はいらないわ! じゃあ、私はもう寝るから! おやすみ!』

「あ、ああ、おやす……って、おい」


 言い終わる前に通話が途絶えた。

 凄いスピード感だ。そんなに眠かったのだろうか。情緒不安定な奴だ。


 相変わらず何を考えているのか分からないが、それでも無事にデートの約束はできた。


「デートか……」


 休日に同級生の女子高校生と二人きりで遊びに行く。

 そんなかつてないイベントを前にした俺は、気づけば箪笥とクローゼットから部屋着以外の恥ずかしくない服をピックアップしてベッドの上へ並べ、姿見と見比べながら小一時間ほど悩むことになった。


 そして何度も服のチェックをし、アイロンをかけ、靴まで磨いてしまっていた。

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