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第41話 ヘタレ

「もしもし?」

『結人さんに伝えておきたいことがあります』


 電話を掛けてきたのは、天使だった。

 雇い主を捨て置いて一体何をしているのだろうか。

 

「天使……お前、いつの間にどこに行ったんだよ。伝えておきたいことってなんだ?」

『現在その保健室周辺は厳重に人払いをしておきましたので、多少の嬌声が響いても問題ありません。教師もあと二時間は保健室へ戻ってこないように手配してあります。しかし、性交時はなるべく避妊をお願い致します。ゴムは薬品棚の二段目の――』


 ガチャッ。


 流石に切った。

 居た堪れなくなりそうで、最後まで聞いていられなかった。


 あの小娘はしっかり説教しておく必要があるようだ。


「どうしたの?」

「いや……天使がな。用事があるから神羅様をよろしくって」

「そう。でもあの子はどこにも居ないように見えても呼べば直ぐに来てくれるからね」


 それって、もし神羅と事に発展したら全部聞かれてしまうってことじゃないか。


「平然と瞬間移動したり、ここの内線に割り込んできたりしてるのも驚きだけどな」

「それくらい当然よ。なんたって私の天使だからね」


 自分のことのように誇らしげだ。心の底から彼女を信頼しているのだろう。


 天使に変なことを言われたせいで意識させられた俺は気が気でなく、ベッドに腰掛けると理性を失う気がしたので、パイプ椅子を引っ張ってきて神羅と向かい合って座った。


「幼馴染みって言ってたよな。いつからの仲なんだ?」

「話してあげても良いけど……。先ずは結人が何か面白い話でもしなさい」

「地獄みたいなことをサラッと要求するな!」

「ふーん、結人は傷ついてる女の子一人楽しませられないつまらない人間なのね」

「クッ……」


 悔しかったので、入学当初に友達ができたら話そうと思って用意しておいた会話のストックを一つ引き出すことにした。

 神羅は自分を卑下していたし、ここは俺も自虐エピソードを話して相殺してやるとしよう。少しトラウマで俺が自分の【可能性】を嫌いになった原因でもある話なんだけどな。


「じゃあ俺が占い師に逆恨みされて命を狙われた話でもするか」

「何よそれ、面白そうじゃない」

「小学生の頃、手相を見ることでその人物の過去と未来を見られるって【可能性】を持つ話題の占い師がいてさ。テレビの生放送を妹達と一緒に見に行ったんだよ。それで観客の中から一人占いますって話になったんだが、運悪く俺が指名されて――」


 そんな懐かしい過去の記憶を語ると、神羅は屈託の無い笑顔で笑ってくれた。

 結局、天使との馴れ初めは教えてくれなかったが。それはまたの機会に聞くとしよう。



 その日の夜も、俺は毎日の義務で神羅とコネクト通話していた。


『まだ傷が痛むわ。結人のせいだからね』

「全部神羅が自滅しただけじゃ……。挑発したのは悪かったけどさ」

『許すから、私を愛しなさい!』

「…………」


 彼女の口癖を聞いた俺は、今一度真剣な口調で彼女へ思いを伝えてみることにした。


「言ったろ、俺は他人を愛したりはできないって。でも友達として神羅を大切にしているつもりだ。これ以上、俺はどうすればいいんだ?」

『そ、それは……だから……』

「全人類に愛されないと満足できないと言うなら、もう満足していいんじゃないか? これ以上無理して俺に好意を抱かせるように接してくる必要はないし、俺の他人との接触を許してくれないか? それでも俺は神羅の傍に居るし、今後も変わらないと約束するからさ」

『…………少し……考えさせて』


 そこで通話が切断され、その日のコネクトは早々に終わった。


 俺はその後、連絡先を交換してから初めて、天使にコネクトメッセージを送った。


『天使、お前に言いたいことがある』

『ヘタレ童貞野郎に言われたいことはありません』

『そういうネタを言うなってことだ! 俺の性欲を煽るようなアドバイスを神羅にするのも、もうやめろ。笑えない冗談だし、神羅にとっても迷惑だろ』

『そんなことありません。神羅様を抱いていた結人さんはとても幸せそうな表情をしていましたし、このままお二人は結ばれるのかと思いました。肉体的な意味で』


 こいつ、隠れてちゃんと見てやがったか。


『結ばれてたまるか。てか、あの時どこに行ってたんだ?』

『お二人の写真を撮っていました。結人さんは神羅様にデレデレでした。今送ります』


 デレデレなわけねぇだろ。

 俺は至って平然とした態度で…………。

 

『これは誰にも見せないでください。お願いします』

『それは結人さん次第です』

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