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第36話 体育

 神羅の家で人生ゲームをした翌週の水曜日。早いもので入学式から既に三週間。


 朝、スクールバスに乗ると薫が座っていた。今日はテニス部の朝練はないらしい。

 入学式の日を思い出しながら「おはよう」と声を掛けて隣に座るが、薫は案の定何の反応も返してくれず、視線すら向けずに完全無視でスマホを弄っている。


 他人との接触を禁じられてからはずっとこの調子だから慣れた光景だが、やはり心に来る物がある。もしかしたら、もう二度と彼女と会話することは叶わないのかもしれない。それでも、神羅宅へ遊びに行ってからというもの、俺は今まで以上に神羅に優しく振る舞うように心がけていた。消されるのが怖いからな。


 今日も俺は居ない存在として授業を受けつつ、神羅の勉強を見てやり、昼休みには三人で学食へ行って周囲に人の居ないテーブルで昼食を食べた。


 水曜の最後の六時間目は体育。

 判明者の三クラス合同授業で、グラウンドに集合だ。


 クラスで唯一体育を心待ちにしていたであろう薫が、憂鬱そうな顔をするクラスメート達の背中を押して教室を出て行く。俺はそんな皆を横目に神羅へ声を掛けた。


「神羅も一度くらい体育に出たらどうだ?」

「嫌よ、疲れるだけだし。パフェでも食べて待ってるわ。結人もたまには一緒に行きましょうよ。どうせ授業にはまともに参加できてないんだから」

「それは誰のせいだよ」


 神羅の命令の影響で、俺は体育に出席しても名前順に並ぶことはできないし、準備運動で相方が居なくて佇むことになるし、団体競技に参加もできない。長距離走の時は一緒に走っているが、それ以外の種目の時は自主ランニング後に見学するしかない。端の方に座り、青春の汗を流す皆を羨んでいるだけだ。


 体育なんて一切参加せずに空き教室から外を眺めていた中学時代を彷彿とさせられるのは悲しかったが、少しでも皆に交ざって体を動かす時間は良い気晴らしになっていた。


 俺をそんな現状に追い込んだ犯人の神羅は、体育の時間はいつも学食横のテラスでグラウンドを見下ろしながらスイーツを頬張る至福の時間を過ごしているらしい。


 俺はその満喫っぷりが癪に障ったのもあるが、全く運動などしていないであろう神羅の体調を心配したこともあり、相変わらず更衣室へ向かう素振りも見せない彼女へ言った。


「残念だ。神羅は体操服姿も似合って可愛いと思うんだけどな」

「へ!?」

「じゃあ、また後でな」


 そう言い残し、頬を赤く染めて硬直する神羅を置いて教室を出た。


 神羅と別れた俺は、更衣室で着替えてグラウンドへ向かった。


 グラウンドの横にはフェンスで囲まれたテニスコートやバスケコートがあり、近くには校舎とは別の第二保健室がある五階建ての厚生棟が建っている。万が一スポーツ中に怪我をしてもこの距離なら直ぐに保健室へ運べるため安心というわけだ。


 俺の場合はもし怪我をしたら誰も助けてくれないからそのまま朽ちて骨になるけどね。殺生な仕打ちだよ本当に。


 まだ漠然としか覚えていなかった立地を再把握するうち、チャイムが鳴った。


 体育教師の声に従って出席名簿順で並ぶが、俺は居場所が無いので端っこに佇む。


 同級生達にハブられた状態で準備体操を済ませ、アップで走る皆の最後尾を追いかけ、授業内容の詳細な説明へ。今日は体力テストを行うらしい。


 男子は入学式で俺のことを引き摺った上に叱ってきた厳つい男教師達に、女子はバレーボール選手のような高身長のムッチリとした女教師達に牽引され、それぞれの種目場所へ移動する。


 測定してもらえない俺はその場に立ち止まり、どうしたものかと考えながら、移動する女子の方へ視線を向けた。


 やはり神羅と天使の姿はない。結局サボったみたいだ。

 そう思ったのだが、


「ゆ、結人っ!」


 後ろから名前を呼ばれて振り返ると、向こうから体操服姿の神羅が歩いてきた。

 横の天使は相変わらずのメイド服だ。なんでだよ。天使の体操服姿こそ見たかったのに……。

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