第35話 確認
原っぱの中心に立つ大欅の前へ来ると、当時の会話内容が鮮明に思い出せた。
俺は半ば強引に二人を引き入れて四人で遊んだんだ。
黒髪の子は意外にも運動神経抜群だったけど、金髪の子はバトミントンでは空振り、フリスビーを追いかけてはずっこけ、キャッチボールをすれば顔でボールを受け止めていた。
それをからかうと彼女は顔を真っ赤にして怒ったけれど、結局はとても楽しんでくれて、沢山笑いあったものだ。
そんな金髪の少女は俺達と同い年で、学校では虐められており友達が一人もいないと言っていて「なら俺達が友達になるからこっちの学校に来なよ」なんて無茶な誘いをしたんだった。
――思えば、あの出会いこそが全ての発端で、少女は全ての元凶とも言える。
あの少女と出会ってしまったが故に俺の幼馴染みは感情が昂ぶり、それが原因で【可能性】が判明した。それから俺達二人の幸せな人生は狂ってしまった。
なのに、あの日から色々ありすぎて、すっかり忘れていた。
いや、思い出すと辛いから、自ら記憶に鍵をかけていたのかもしれない。
「あの子の名前……なんだったっけ……」
フルネームを教えてもらったが、何かしらの理由で名字は嫌だから名前で呼んでくれと言われて、名前で呼んでいたはず。なのに、どうしても思い出せない。
「…………まさかな」
神羅の瞳の色は紅だし、読書するような知的な性格でもなければ、全人類から愛されているから学校で虐められるなんてこともありえない。
だから、あの少女と神羅は別人で間違いない。
でも、どうしても引っかかる…………。
「直接聞いてみるか」
俺は日課だったメッセージでのやり取りではなく、今日は通話をすることに決めた。
欅の木に寄りかかり通話をかけると、数回コールした後に神羅の裏返った声が聞こえてきた。
『も、もしもしっ!?』
「俺だけど、いきなりかけて悪いな。今話せるか?」
『だ、大丈夫だけど……ど、どうしたの、急に』
「特に深い理由はないんだが、どうしても神羅の声が聞きたくなってな」
『そ、そう……私の声を……』
急に声が遠くなる。
やはりあの少女の声までは思い出せず、聞いても分からなかった。
「そういえば訊きたい事があったんだけどさ、神羅って先天性の判明者なんだよな?」
『え……? そうだけど……な、なんで……?』
「いや……なんでもない」
やはり、別人だったようだ。
俺はゆっくりとまばたきをして気持ちを切り替えた。
「それより、今日は楽しかった。行って良かったよ」
『で、でしょ? 私の家、凄かったでしょ? 住みたいなら私を愛しなさい!』
「住みたいならって……。神羅はそんなに俺のこと好きなの?」
『は、はあああぁ!? そ、そそ、そんなこと言ってないでしょ!? 勘違いしないでよね!?』
「してない。俺達って……もう友達だろ」
『友達……? そう、なのかしら……?』
京子さんに言われたことを反芻して、言葉を選んだ。
「ああ。俺は友達として神羅に尽くしているつもりだ」
「友達……」
神羅がぽつりと呟いたのを聞いて、俺は木から離れた。
満点の星空を仰ぎながら公園の入り口へと歩んでいく。
「にしても、神羅は本当にゲームが弱かったな。そっちこそ本気でやってくれよ」
『今日は運が悪かったのよ。次は負けないから……だから……また遊びに来なさいよね』
「いつでも相手になるが、また京子さんに送迎してもらうのは申し訳ないな」
脅しは怖かったが、乗っている時間はこれ以上ない程に心地良かった。ただ、彼女にとって仕事とはいえ、神羅と無関係である俺の送迎なんてそうそうやらせるわけにもいかない。
自力でも神羅宅へ行けるように後で経路は確認しておくとするか。
『とか言って本当は嬉しいくせに』
「え? なんで?」
予想外の返答に一人で首を傾げる。
『帰ってきた京子が「私のこともエッチな目で見てきました」って言ってたわよ』
「冤罪だ! お前が変なことを吹き込んだんだろうが、ふざけんな!」
『結人のスケベ。京子は超強いんだから、襲っても返り討ちにされるだけよ』
「襲わねぇよ!! むしろ襲われたいよ!!」
『へ? どういう意味?』
「……なんでもない。言い間違えた。気にするな」




