第15話 連絡先
翌日。朝のホームルーム前。
早めに登校した俺は、友達百人計画を実現すべく教室前方の席に座る【照照坊主】の金城へと話しかけてみた。
「――じゃあ常にマイロープを持ち歩いているのか」
「ああ、これは俺のアイデンティティだからな」
強面の金城が不敵に微笑みを見せ、肩に背負っている極太のロープを指差した。
体格が良くてスキンヘッドで耳にピアスを沢山つけた厳つい制服姿の男がロープを持参している。なんて怪しさだ。
スキンヘッドなのは雨を晴らす際にいちいち髪が濡れるのが嫌だからとのことだが、絵面的には不審者でしかないぞ。
いや、外で男が吊られていたら髪の有無に関わらず不審者だけど。
「それに、俺は晴らし屋もやってっからよ」
「恨みをか……?」
「天気をだ!! 天気を晴らし屋だ!!」
びっくりした。どこぞの本舗の一員かと思った。
「運動会やコンサートやデート、晴れ男を望んでる奴はそこそこ居るからな。いつでも出張サービスしてるってわけだ」
そう言ってスマホの画面をドヤ顔でこちらに見せつけてくる金城。
画面には、自分の【可能性】を活かして知識や体験を売買できる有名フリーマーケットアプリ『ボクダケ!』というサイトが表示されている。
金城はゆるキャラのような可愛いてるてる坊主のアイコンをプロフィールに設定していて、本人とのギャップは最早詐欺レベル。依頼主が彼だなんて絶対に知りたくない事実だ。しかもサービス説明欄には『よう、今から晴らすぜ!』なんてキャッチコピーが書いてある。細部まで凝っていて仕事熱心な奴だ。
値段はかなり良心的で後払いも可能らしい。
金城のように【可能性】は職業にできるものもあり、一部の判明者は自分に最適な天職を見つけやすいのが利点だ。
この晴らし屋なんて、まさに金城にしかできない仕事と言える。
自然現象に影響を与えるなんて一体どんな原理なのやら。ようはバタフライ・エフェクト的なものなのか。いや、結局は意識や認識の問題とも言えるのかも……?
まぁ【可能性】に原理や理屈なんて考えるだけ無駄か。
「子供がロープに吊されてる金城を見たら怖くて泣きそうだ」
「ああ。何回警察に通報されたか分からねぇ。だから今はちゃんと布で姿を隠してる」
それはそれで怖ぇよ。
「出張てか出血サービスだな……。晴れ男なんだし空に祈るだけで晴らせればいいのにな」
「世界の何処かにはそんな【可能性】の奴も居るかもしれねぇが、現実は甘くねぇからよ。止まない雨がない以上、俺はいつまでも吊され続けるぜ」
そんな会話をし、「三割引してやるから晴らしたい時はいつでも依頼してこい」とサムズアップをする金城と無料通話アプリ『コネクト』の連絡先を交換した。
やはり初見での印象に違わず金城は話してみると爽やかな人格者だった。
見た目が厳ついのでクラスメート達は敬遠がちだが、やがて人柄が知られて慕われるようになるだろう。
俺のこともだが、人を見た目で判断しないでほしいものだ。
人間関係、意外と第一印象が悪い奴とのほうが良好な関係になって長続きするらしいし。今までの人生じゃ殆ど人間関係なんて無かったから真偽は不明だけど。
すると、そこで不意に名前を強く呼ばれた。
「ちょっと、結人っ!!」
振り返ると、教室最後方の窓側にある三連結された席に、さっきまで居なかったはずの神羅と天使が既に登校していた。輝かしい金髪で室内のハイライトだ。
そんな神羅はどこから調達したのかティーカップで優雅にミルクティーを召し上がっていらっしゃるし、天使に髪の毛を櫛で梳いて整えてもらっている。随分なご身分だ。
神羅の場合は、見た目は最高なのに第一印象は最悪のパターン。
今後も印象が悪化することはあっても好転することはなさそうだが……。こいつとの関係はどうなることやら。
不安に駆られながら俺は自分の席へと戻った。
「おはよう。なんだ? 何か用か?」
「お、おはよう……。別に用ってわけじゃないけど……わざわざ朝早く来てあげたんだから、ちゃんと私に構いなさいよ。そして私を愛しなさい!!」
今まさに髪を弄られているし、飛び起きて急いで家を出てきたように見える。
天使はこちらを見て無言で小さく会釈。
「よく起きられたな。夜九時には寝て昼まで涎を垂らしながら爆睡してるイメージだった……というか実際そうだろうに」
「また馬鹿にして……! お子様扱いしないで」
ニヤニヤしながら言うと神羅は「ぐぬぬ」と顰めっ面で睨んできた。
そこで天使が満足げに自分の席へと戻った。奇矯な女に振り回されて苦労人だな。
「天使以外にメイドは雇っていないのか?」
「勿論いるわよ。たしか今は……何人だっけ?」
「私を含めて十人です。学内へ同行しているのは私と運転手の二人だけですが」
「運転手ってことは自家用車で登校しているのか」
それはルール上は何も問題ないし、むしろ【可能性】次第では学校側が推奨しているくらいだが、神羅の車はどんな高級車なのだろうか。今度見せてもらいたいものだ。
なんて思っていると、「ねぇ」と神羅が声を掛けてきた。
「さっき、あのハゲと何を話してたの?」
ナチュラルに人をハゲ呼ばわりするな。心の中だけにしておけ。
「連絡先を交換してたんだよ」
「へ、へぇ~! ふ~ん、連絡先をね~!」
視線を斜め上に逸らし、なんだか上擦った声を出す神羅。
「そ、そういえば、私もスマホを持っているわよ。ほら!」
言いながら、スカートのポケットから淡い紅色の高級そうなケースを付けたスマホを取り出して、これ見よがしに見せてきた。俺と同じ最新機種のようだ。
それを確認して視線を上げる。
神羅は何か言ってほしそうな顔でこちらを見ていた。
どうしたんだろう……。
さては、きっと最近スマホを手に入れて、誰かに自慢したくて仕方がない時期なんだな。昨日はスマホのことを携帯電話とか言ってたし、間違いない。
気持ちは分かるぞ。
「俺と同じ機種か。多機能だし防水だし使い易くて良いよな、それ」
取り敢えず褒めてみた。『女は取り敢えず褒めておけ』って親父が昔言ってたし。
「で、でしょ? 昨日の午後、わざわざ買ってきたんだからね!」
「そうだったのか。前のが壊れたとか?」
「いや……そうじゃないんだけど……」
「……?」
「だから……その……」
もごもごと下を向いて何かを呟いているが、要領を得ない。
予想が外れた俺は、神羅の意図が理解できずに眉を顰めた。
すると僅かに間を置いて、我慢できなくなったかのように天使が言った。
「神羅様は昨日、初めてのスマホに結人さんとお揃いの機種を選んで購入してきました。なので、コネクトを交換して毎日連絡を取ってください。そして神羅様を愛してください」
「コネクトを?」
すると顔を真っ赤にした神羅が無言で悶えながら天使の両肩を掴んで前後に揺さぶった。無表情のメイドが首振り人形のようにツインテール頭をぶんぶんと振られている。
今までスマホを持っていなかったのが余程恥ずかしかったらしい。
二人の単純な思惑は理解できた。
可愛い女子と毎日コネクトなんて年頃の男子にとっては願ってもいないことだし、嫌でも意識して好きになってしまうことだろう。
所詮男は勘違いしやすい馬鹿な生き物だからな。俺は例外だが。
しかし、これまでの様子を見る限り神羅には友達なんて一人も居ないはず。
他人と連絡を取り合う機会なんて無かった少女がお前のためにお揃いの機種を買ってきたなんて言われたら、無下に頼みを断るのは気が引ける。
毎日連絡を取るだなんて面倒だが、大人しく承諾するしかあるまい。断ったら天使が率いるメイド部隊に存在を抹消されそうだし。




