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よく分かんない作品集

後輪に絡まっていた髪の毛

作者: 七宝

 当時高校生だったMさんはその頃、時間も忘れて友人数人とオヤジ狩りをしていたため、毎日家に帰るのが午前様になっていた。


 その日もいつものようにオヤジ狩りをしていたMさんだったが、その時はなぜか胸騒ぎがしたそうで、まだ午後10時だったのにも関わらず胸ぐらを掴んでいた手を離し、オヤジの顔に唾を吐いてその場を後にした。


 夜でも明るい自信作のデコチャリを20分も漕げば家に着くので、恐らく10時半前くらいになるだろう。


 そんなことを思いながらMさんはデコチャリに(またが)り、口で「パラリラパラリラ〜」と言いながら走り出した。


 しばらく走っていると、横断歩道で信号待ちをしている女性が目に入った。露出の多い服装に、長く綺麗な髪が光っている。


 またしばらく見とれていると、突然女性がくねくねと動き始めた。まるで軟体動物のように、手足をくねくねと動かしているのだ。


 不気味に思ったMさんは、「信号はよ変われ」と念じ続けたという。

 再び女性を見てみると、なにやら口から大量の液体を出していた。


 やがて信号が変わった。


 Mさんはやっと離れられる! と喜びながら自転車のペダルに足をかけた。

 その時だった。


 女性がMさんのほうに倒れてきたのだ。頭部が後輪に直撃し、Mさんは大きくバランスを崩した。


「ゔぁうあぁ〜〜〜」


 ゾンビのような低いうめき声をあげる女性。怖くなったMさんは倒れた女性にかまわず走り出した。


 重い。信じられないほどにペダルが重いのだ。「ここで逃げ出せなければ自分は呪われる」と思ったMさんは持てる力を全て使い、ゆっくりとペダルを漕いだ。


「ゔぁうあぁああああああ〜」


 漕いでいる間、ずっとあの女の声が聞こえていたという。


「あああぁぁぁあああ〜〜〜」


 振り返ってはいけない。連れていかれる。絶対に振り返るな。そう自分に言い聞かせ、必死に走った。


 それから2、3分ほど走ったところで急にペダルが軽くなり、女性の声も聞こえなくなったという。心が軽くなったMさんだったが、油断してはいけないと思い、そのまま全力でペダルを漕ぎ続けた。


 こうしてやっとの思いで家までたどり着いたMさんは、家に入ってすぐに布団にくるまったという。


「早く帰ってくるのはいいけど、あんなとこに自転車置いといたらお父さんが帰ってきた時邪魔になっちゃうでしょ! 早くどけなさい!」


 Mさんの母親が布団にくるまるMさんを布団叩きで叩きながら言った。


 仕方なく自転車を移動させに外に出るMさん。その時、自転車に違和感を覚えた。暗い中じっくり目を凝らしてみてみると、後輪に大量の長い髪の毛が絡みついていることに気がついた。


 それを見た瞬間Mさんは鳥肌が立ち、血の気が引いたという。

 これは、なにか良くないことの前触れなのではないか。そんなことを考えていると⋯⋯


「かえ⋯⋯せ⋯⋯」


 どこからか声が聞こえた。


「ゆる⋯⋯さない⋯⋯」


 その声は低かったが、なんとなく女性の声に聞こえた。


「ゆるさ⋯⋯ない⋯⋯!」


 声がこちらに近づいてきている。足音も聞こえるようになってきた。


 やがて足音は速くなり、走っているような音に変わった。自分の動悸が速くなるのを感じ始めた頃、目の前の暗闇から血にまみれた女性の顔が現れた。


「やっど⋯⋯みづげだぁ⋯⋯!」


 女性はそう言ってMさんに飛びかかった。Mさんは柔道3段なので、女性を軽々と投げ飛ばしたそうだ。


 Mさんが警察に電話しようとしていると女性がMさんの腕を掴んでこう言ったそうだ。


「返せーーーーっ!」


 あまりの恐怖に固まってしまったMさんだったが、女性の顔をよく見ると、帰りに見たあのくねくねしていた女性だということに気がついた。


「あ、あなたは!」


「やっと気づいたか!」


 ハッとするMさんに女性が鬼のような形相で言った。


「お前に髪を巻き込まれて、しばらく引きずられたんだよ」


 それを聞いたMさんはようやく自分がしたことの重大さに気がついた。


「本当にすみませんでした!」


「全く、酔いはさめるし髪の毛引っこ抜かれるし頭から血が出るし、最悪だよ!」


 怒りが収まらない様子の女性。それだけのことをMさんはしたのだ。許されなくて当然である。


「あの、これ⋯⋯返します」


 後輪に絡まっていた髪の毛を手渡すMさん。


「いらねぇよ!」


「返せって言われたから返したんだけどな(ボソッ)」


 Mさんは小さな声で文句を言った。


「聞こえとるぞ! もう許さん! 一生許さんからなぁ!」


 こうして取材をさせてもらっている今も、Mさんの後ろにはずっとガミガミ怒鳴っている女性が立っている。


 彼は「許されないことをしてしまったので、仕方がないんです。僕が悪いんですから、ははは」と悲しそうに笑っていた。


 お風呂にも一緒に入るし、夜も一緒の布団で寝ているのだという。Mさんが彼女とデートする時もいつも一緒に来るそうだ。銭湯も男湯に入る。彼は「生きた背後霊なんです」と言っていた。

 なんだこの話( ˙-˙ )

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― 新着の感想 ―
[一言] 勢いに笑いました(*´艸`*) 面白かったです。
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