に
十話以内には終わります。
まず目をつけたのは男主人公ことノワール・フラウア。彼もとい彼女は、男爵令嬢だった母と共に、好色親父として有名な侯爵に引き取られたのだが、女と知られたら間違いなく手を出されると思った母親が、ノワールを男と宣言して育て上げた。ノワールも、母親から『貴方は男なのだけど、病気で胸が膨らんで、あるべきもの(※一物)を失ったの。他人から見られたら酷い目に遭うから、絶対人前で脱いじゃ駄目よ』と洗脳され、自分は男だと思って生きていたのだった。
ちなみに、好色侯爵は母と共に事故死。現フラウア公爵家は義姉であり学園の非常勤講師でもある、白百合の花言葉《高貴》モチーフのジェシーラ・フラウアが継いでいるので、女と知られても問題ない。
私は弟の伝手で(クラスメイトだった)ノワールを屋敷に招き、和気あいあいとお茶会をしていた際、手が滑ったと見せかけて紅茶を掛けた。
淹れたてのあっついお茶を掛けられたノワールを間近で見てしまったリゲルは大慌てで彼女の服を脱がし――胸元にキツく巻かれたコルセットを白日の下に晒したのだった。
秘密を曝されたノワールは初めこそ怒り、泣き叫んでいたが、膨らんだ胸元と股間に一物がないことが女の証であることを教え、病気でも何でもないことを教えてあげるとめちゃくちゃ驚いていた。
でもいまいち信じきれていなかったようなので私の部屋で、私の裸とノワールの裸を比べさせて、ようやく納得してくれた。
ジェシーラに事情を話すと、彼女自身めちゃくちゃ驚いていたが、「ずっと妹が欲しかったの」とすぐに受け入れてくれた。
クソゲー内では、男爵家の血を引いた義弟を「侯爵家を狙う薄汚いネズミ」と公然と語って毛嫌いしていたジェシーラの掌返し具合には少し驚いたけど、その時は『まあ、中身は呪いで女になった男なんだもんな』と思っていたんだけど、これは実はそうじゃないことを後から知る。
んで、ノワールが令息ではなく令嬢として学園に通い出したと思ったら、リゲルを除く、薔薇側攻略対象の五人が全員ノワールの虜になってしまった。
確かに、男装時代から可愛い感じだったけど、本気出してメイクアップドレスアップしたら……なんというか、天使とは正に彼女のことを指すんだろうね。
ちなみにそれぞれの設定は、白薔薇《純粋》モチーフの優しい王太子、赤薔薇《情熱》モチーフの堅物騎士団長息子、黄薔薇《友情》モチーフの幼馴染モテ男公爵子息、ピンク薔薇《上品》モチーフのクール宰相息子ね。
あとリゲルを入れたこの五人は、学園の生徒会役員として一目もニ目も置かれ、五本の指で順位を行き来するようなイケメンとして持て囃されていた。
そんな彼らを、ノワールの周りには必ずと言っていいほど見かけるようになった。
イケメンに追い掛けられ、ノワールは喜んでいた……ということは無い。
寧ろ逆で、今まで友情を育んでいた男たちの掌返しに恐怖し、彼らから逃げ回るようになった。まあ、幾らイケメンでも、意志感情を無視してくる輩はストーカー以外の何者でもない。
最終的に、ノワールは傍から離れなくなった。
きっかけは多分、用事があるからと嫌がるノワールをお茶に誘っている四人に「男の風上にも置けない貴方方の無様な姿、各々の婚約者にどう思われているでしょうね」と、彼らの婚約者を引き連れてったからだと思う。
あいつら、婚約者がいるってのにノワールに手を出すってマジで男としてどうなんだろうね。幾ら私が描いたキャラクターたちでも、浮気者は無理。地獄に落ちろ。
まあ、そんな感じで無事彼らを撃退した私が守ってくれるって認識したんだろう、なにかと私の側にいて、奴らを見掛けると背中に隠れるようになった。
まあ、私も女だとバラした負い目が無くもないから、いいけどね。
それに、「ミレイヤお姉様」と慕ってくる可愛い子に頼られるのは悪くない。……まあ、たまに講師としてやってくるジェシーラの視線はかなり怖いけど、来るのはたまにだから問題ない。
暫くそんな感じでノワールの盾になっていたら、四人は婚約者を無碍にし、女の尻を追っかけ回して仕事を放棄する人間性に問題ありということで、いつの間にか失脚して姿を見せなくなっていた。
ノワール、マジサンクス。
一気に四人の物語を崩壊させられて、手間が省けてこちらとしては大助かり。
そうそう、リゲルは、四人のように追っかけ回したりせず、寧ろ初心な少年のような態度で接していたお陰で、ノワールから嫌われずに済んでいた。
本人は「紳士的に接して良かった!」と嬉しそうだったが、ノワールから「ミレイヤお姉様の大切な弟君だから、仲良くしようと思います」と苦笑いで言われたことは、墓場まで持って行こうと思う。
そんな訳で、薔薇側のストーリー崩壊は大体一月程で大成功で終わった。
お次は百合側なのだが、実はこちらへクソゲーとの差異が二つほど生じている。
まず一つ、女主人公ノエル・フルール子爵令嬢が学園にいないのだ。
ノエル・フルールは初め孤児として教会で育てられていたが、実はフルール子爵と平民の母の子で、十五歳の頃に実父と再会。子爵家に引き取られるが、義母と義姉からは嫌がらせされ、学園でも平民の血が混ざってるからといじめられ……まあ、王道パターンを踏んでる勝ち気なシンデレラタイプの主人公だ。
時期的に、もう学園で過ごしていてもおかしく無いはずなのだけど……どういうことなんだろう?
よくわからなかったけど、まあ、いないならいないで越したことはない。居ないということはノエル・フルールのストーリーも崩壊しているってことだと思って、存在確認が出来てる奴の相手をしよう。
前世での知識を元に、百合側攻略対象に呪いを掛けた張本人――魔女クヴィエチナの元に乗り込んだ。
魔女クヴィエチナが彼らに呪いをかけた理由は、百合側攻略対象に玩ばれ、捨てられたからというものだったのだが、実際は魔女クヴィエチナの惚れっぽい性質のせいであり、ちょっと優しくされたらコロッときて、ちょっと冷たくされたらカッとなってしまったのが真実である。
魔女の隠れ家にやってきた招かれざる客として、バチバチったけど、これまた前世の知識を利用して、魔女を弱らせるアイテムや武器やらを駆使して難なく撃退。
白旗を揚げた魔女クヴィエチナに、「貴方はちゃんとすれば可愛いのだから、自信を持ちなさい。他人の言葉に左右されるようでは、本当の愛は得られず、利用されるだけ利用されて惨めに死ぬだけ。そんな未来、貴方に迎えてほしくない」と伝え、彼女の顔を覆うボサボサの黒い長髪を掻き分けると、切れ長の瞳と整った目鼻立ちの、ぶっちゃけ超絶美人。
なんせキャラクター考案したのは私だ。
地面に付くくらい長く、手入れを一切していない黒髪を持ち、黒いボロボロのドレスを着込んだ魔女クヴィエチナの中身は、黒い髪と瞳を持つ清楚系和風美女として描いていたのだ。
もし、あのクソゲーがクソゲーじゃなかったら、魔女の中身は実はこうなんです! と公表するつもりだったのだが……泣く泣くお蔵入りにした可哀想な子なのだ。
ついでに言えば、制作会社に使うだけ使われて切り捨てられた私とリンクしている気がして、ちょっと同情心が芽生えていた。
私の心の籠もった言葉により、魔女クヴィエチナは改心し、百合側攻略対象にかけられた呪いを解いてくれたのだ。
んで、ここで差異二つ目が発覚。百合側の攻略対象だが、呪いを掛けられてる者と掛けられていない者がいた。
男主人公の義姉にして講師である白百合《高貴》モチーフのジェシーラ・フラウア侯爵、女主人公の親友の黄百合《陽気》モチーフの男爵令嬢、男装の麗人であり先輩のオレンジ百合《華麗》モチーフの王妹辺境伯令嬢は生まれも育ちも女。
ツンデレ後輩の赤百合《虚栄心》モチーフの成金公爵令嬢と、学級委員とエロ不良と二つの顔を持つ《ピンク百合》モチーフの伯爵令嬢は男だったのだ。
魔女クヴィエチナを玩んだ(と魔女が勝手に思ってる)男は、学園にはこの二人だけで、あと何人かは国の何処かで女として暮らしているらしい。
でもまあ確かにクソゲー内でも百合側攻略対象は女にも男にもされてるから、そういうことなんだろう。
んで、なんやかんやし魔女クヴィエチナ改めただのクヴィエチナを連れて帰ったら、弟には「姉さんは馬鹿なんですか!?」と怒られ、ノワールから「お姉様が無事で良かった!」と泣かれた。
本人の強い希望で、クヴィエチナは私の侍女として側に置くことになったが、気が付くとノワールとよく話し込んでいる姿を見掛ける。「二人共美人さんだから、すぐ仲良くなったのね」とリゲルに言うと「仲良く……!? 姉さんにはあれがそう見えるんですか……!?」と言われた。
いやだって二人共ニコニコ笑顔で話してるし。仲良くしてないわけないよね。あ、もしかしてリゲルのやつ、クヴィエチナがノワールになにかするんじゃないかと穿って見てるから、二人の関係を疑ってるんじゃないのかな。今度説教しとこ。
後日、一体何処で知ったのか、呪いが解けたのが私のお陰と知った赤百合とピンク百合が示し合わせたかのようにわざわざ会いに来て、感謝を伝えられた。
その際、礼がしたいからと後日外出しないか誘われたが、影の薄い美貌の両親とリゲル、ノワール、クヴィエチナと、周囲から一斉に「駄目です」と言われ、私自身攻略対象と深入りする気も無かった為、丁重にお断りした。
そうか、あの時駄目と言われたのは婚約者がいたからなんだ。
危ない危ない。もう少しで浮気者の仲間入りするところだった。
お読みいただきありがとうございました♪