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こうして、サンドリッジはサンドイッチになった?

 礼拝堂での洗礼式の後、私達は外の風情を堪能する。木立の並ぶ中庭の中央には、小さな四阿があつらえてあった。

「あそこへ行こうか」

 指で示す殿下に向けて、

「はい」

 私は素直に従った。


 舞い上がる風が、礼服の裾裳を持ち上げようとする。これを抑えながら、歩くのって難しいの。

 前世で履きなれたスラックスを、女性が身につけていけない法律があるなんて。


 不自由極まりないったら、ありゃしないじゃないの。


「ゆっくりでいいのだよ」

「ありがとうございます」


 うっかり、私の毒づいた声がもれたら大変。静かに静かに、私は柔らかな草の上を歩いた。


 屋根をくぐった先は、陽射しを遮るだけあってひんやりとしている。小鳥の鳴き声に耳を傾けて、私達はほぼ同時に腰をつけた。


「もうすぐしたら、彼らがやって来るよ」

「殿下」


 高級レストランでしか見ないシチュに、私はきちんと律しているだろうか。こちらの心配を存ぜぬとばかり、給仕役は目の前に料理を並べた。

 

 小腹のすく音がならないか、ものすごく不安になる。殿下と二人きりのささやかなランチが、台無しになったら困るわ。


 でも、お互いに何を話すべきなのか。上手くきっかけがつかめない。


「ねえ。アナベル」

「はい」

「君は『サンドイッチ』の語源を知っているかい」


 予想すらしない質問のせいで、私は目を見開いてしまう。下手に答えたりしたら、この世界の住人ではないと、殿下に看破されたらどうしよう。


 とりあえず、陶器の縁から口を離して、

「それは、どのような由来にございますか」

 私は知らないふりを決め込んだ。


「元々は、コレを『サンドリッジ』と言ってね……」


 殿下の切り口に、私はええっとなる。サンドリッジって言葉だけど、現実界にあったかしら。

 初めて聞くキーワードに、思考が追いつかない。


 しどろもどろな殿下の説明が初々しくて、図らずも笑い出しそうになる。

 何のことはない。賭博好きのサンドリッジ伯爵が、手を汚さずに食するために考案されたのだと、殿下は得意げにおっしゃった。


 あれ? これは、前世で聞いたサンドイッチの由来と代り映えしないわ。


「つまり、『サンドリッジ』が『サンドイッチ』に変化したのですか」

「そうなる」


 空目を遣いながらも、殿下はサンドイッチを頬張る。普段は余裕綽々なのに、意外な一面をお持ちなのね。

 『サンドイッチ』と最初に言い出した方が、私と同じ転生者なのか否か。ひとまず、置いておくことにするわ。


「アナベル。もっと、食べたほうがいい」

「ありがとうございます」


 生ハム、ピクルス、をはさんだパンを、私はじっくりと味わう。優しい野風が、木々の間をすり抜けた。


 目の前にいる愛しい方は、普段通りに微笑みを絶やさない。

 この時の私は、殿下が抱える秘密を知るよしもなかった。

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