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今度は王宮へ。

 お茶会から三日が過ぎた朝、自室の窓辺で戯れる小鳥らが青空めがけて飛び立とうとしている。外の空気を味わうこともなく、私は鏡台の前に立たされた。

 王宮へ登城するべく、身支度を整えなければならないの。

 

 でもね。でもね。今、身にまとう礼服だけど、色合いを抑えたこの雰囲気が、何となく喪服を連想させるような気がしなくもない。


 これって、私への嫌がらせではないよね。


 鏡の前でため息をつくと、

「妃殿下。よろしいでしょうか」

 執事の問いかけが耳に届く。


 ちらりと、置時計に目を向ければ、出発まであとわずかしかない。


 内心、あわてふためく私の側で、

「よろしゅうございますわ」

 トレーシーが扉越しに返事する。


 うん。彼女の答えからして、嫌がらせの線はないみたいだわ。


「それでは妃殿下」

「参りますわ」


 メイド達がいつもの通り、横一列に並ぶ。彼女達の前を、私は静かに歩いた。


 後は殿下のエスコートを受けて、大階段を一歩ずつ降りて行く。外の穏やかな陽射しに加えて、頬をなでる風も暖かい。ポーチを歩く合間に、王家の馬車が門前に乗りつけた。


 相変わらず、金細工の装飾が目に染みる。まばゆい光をはじく馬車を前にして、私は思わずたじろいだ。


「私の手を取りなさい。アナベル」

「殿下?」

 

 扉口で身を翻す殿下が、私に手を差し伸べて下さるなんて。慣例に従うならば、一台の馬車に王と后は同乗を許されないはず。


「さあ」


 殿下の催促に対して、手を取るべきなのか迷ってしまう。でも、グズグズしてはいられない。私は震える右手を、殿下の掌の上にそっと乗せた。


 車輪と蹄が交互にすれ合う音が、座席を下から上へと突き動かす。殿下と二人きりの道すがら、何をお話していいのか分からない。


 まっすぐ走る馬車の速度も、衰え始めたタイミングで、

「おそらく、兄上は退位を考えているかもしれない」

 殿下が言葉を発した。


 元王太子の末路を知らされてから、何となく予感めいたものを感じていたけど。私に王后の役目が、上手に務まるかしら。


「それで、私達はどうなるのでしょうか」

 

 私の問いを受けて、殿下が面を上げる。熱を帯びた眼差しから、逃れる術などないわ。


 しばらくの間、沈黙が続いた後、

「入れ替わりで、王宮へ入るかもしれないな」

 殿下の口から憶測がこぼれた。

「その場合、お屋敷に仕えるメイド達の処遇はどうなりますか」

 せっかく、心を通い合わせることが出来たのに、彼女達を置き去りにするなんて。


「ああ、それなら心配ない」

「殿下」

「元々、王宮で仕えていた者達だから、そのまま連れて行っても構わない」

「そうでしたか」


 万年塩対応のトレーシーから離れられなくて、残念がる子達もいるだろうけど。

 そこは、我慢してもらうわ。


「どうしたのだい。急に笑い出して」


 ついつい不作法にも、もの思いにふけてしまったわ。恥ずかしいったらありゃしない。


「お……お見苦しいマネを……」

 

 うつむき加減で謝る私の耳元で、

「そう言う時のキミ。とてもカワイイよ」

 殿下の熱すぎる息吹が。


 クスっとこぼれる声により、私はより一層、肩をすぼめることしか出来ない。お願いだから私の心臓よ。これ以上、速くならないでっ。


 殿下との時間が過ぎゆく中で、馬車は王宮へ続く通りに突入した。

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