表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/69

殿下より初めての。

今回は、ギャグ要素が強いです。

しかし、意外な展開にアナベルがモンゼツします。

 テラスでの朝食を終えて、私はトレーシーから渡された詩集のページをめくる。優雅に時間をやり過ごすのも、淑女たる者のつとめ……それは、さて置いて。


 コホン……有り体に申せば暇なのよ。

 だって……『現代日本』とは、全くもって事情が違うンゴゴゴゴーーーー。


 トリスタニア王国だと殿方の身支度は、基本的に女性は立ち入らない。文官なら書生、武官は従卒が受け持つしきたり。


 殿下は『聖ベネディクト騎士団』の名誉顧問だから、当然ながら後者になるわね。

 要するに、妻だろうが母だろうが姉だろうが愛妾だろうが、淑女の出番はナッシングざまーす。


「はー」


 ため息混じりに、まったりと過ごす私の耳元で、

「妃殿下」

 トレーシーの声が届く。

 次の章に移ったばかりの詩集を閉じて、

「分かりましたわ」

 彼女にそれを手渡した。


「それでは」


 おっと。いつの間にやら、ご登場なさった執事さん。

 彼の所作に合わせて、私はおもむろに立ち上がる。外の荒れ模様に、私の心がほんのりとざわめいた。大丈夫よ。殿下は強いお方だわ。


「行きましょう」

「はい」


 先導役の執事を追うべく、私達はテラスを後にした。



 エントランスから外に抜けた先では、馬車がすでに横づけされていて、扉の手前には殿下の後ろ姿が視界に飛び込む。


 ピンと伸びた背中も、とてもセクシーなのよ。

 おおっといけないわ。私の背後には、十を超える使用人が控えているのよね。


「アナベル」

「はい」


 殿下と見つめ合う時間が、もう少し続いたらいいのに。気恥ずかしさを打ち消したくて、私はどうしても顔を上げることが叶わない。


 そんな私をあざ笑うように、一陣の風が前髪を凪いだ瞬間、そそそそそ、来たのよ。


 殿下からのキキキキスがぁーーーーーー(ただし、唇ではないので残ぬん)。

 公衆の面前で、そのような真似など、なされることではなくてェエエエエ。


「なるべく早く、仕事を切り上げて来るよ」


 殿下からのテラまぶしい笑顔と決め台詞に、私の心は千々に乱れた。


「行ってらっしゃいませ」


 どうにかこうにか。正気を保った私の目の前で、御者のふるう鞭が音を立てる。滑らかに車輪が、石畳の上を動き出した。

 私の視界から馬車が消える去る。私は時間が許す限り、その場で立ち尽くした。


「妃殿下」

「分かっていますわよ」


 みなさんに申し上げておくけど、殿下が恋しくて突っ立った訳ではないの。そこ、間違えないでくれるかしら。


 クスクスと笑う使用人達の前を歩くのも、とてもじゃないけど気後れしそうになる。そんな私の心を、片隅に咲く花々が慰めてくれた。


 そう言えば、あの黒百合は咲いていないのね。不自然に視線を動かすことなど、はばかられてしかるべきだから、見つからないだけかもしれない。


 私の預かり知らないところで、黒百合との因縁が蠢こうとするなんて。この時はまだ、知るよしもなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ