プロローグ~夢~
初オリジナルです。
延々と降りしきる雨の中、十数人の集団がゆっくりとした速度で移動している。
大半が質の悪い布で作られた1枚の服を身に纏うだけで、両手首は鎖で縛られ、冷たい雨によって寒さで震えおぼつかない足取り。
その集団の中で、紅髪の少女もおり、彼女も同様に同じ服装をさせられ、下着もつけられず寒さに震えながら歩く。また、前の男に巻かれた鎖が彼女の手首を縛る鎖と繋がっている。
彼女は自分の指の先端が軽い火傷になりながらも炎を起こし、その鎖を断ち切り、逃げる。
「おい待て!」
その集団の外で鎧を着て槍を持つ護衛を行っていた兵士らしき男が声を上げる。
その声によって他の兵士も気づき、全員が少女を追った。
少女は必死に逃げるが、寒さによる体力の低下で足取りが覚束なく、段々と距離が近くなる。
1人の兵士が弓を射り、矢を放つ。
その矢は偶然にも少女の右足に当たる。
「ぐぁぁっ!」
彼女は悲鳴をあげると共に躓き、そのまま膝を打つ。
「良くやった!捕らえろ!」
兵士たちの中で最も位が高いと思われるの声が聞こえ、兵士達は彼女に近づき、足に命中した矢を1人の兵士が強引に引き抜く。
少女は引き抜かれる際に悲痛な声を上げながらも逃げようとするが、左足を踏まれ動けない。
「奴隷のくせに逃げるな!おい、こいつをどっかに押さえつけろ!!」
男の声によって彼女は持ち上げられ、近くにあった木の幹に押さえつけられる。
「いや……なんで……」
「オラァ、黙れや!」
彼女は声を出すも、それを聞いた兵士によって顔を殴られ、言葉を発することすら無くなる。
───なんで──こんな───
───みんなは──逃げてるのに───
───なんで、また──自分だけ───
彼女は虚ろな目をし、現実から逃避したかったが、兵士から再び殴られ意識を引き戻される。
彼女の思いとは裏腹に、兵士は彼女の服を捲りあげ、背中を晒す。
服1枚を除けば彼女は何も身に付けていなかったが、彼女の心は恥ずかしさよりも恐怖が勝っていて、震えていた。
背中の右端には黒く滲み刻まれた痕があり、自然にできたものでは無いことは誰もの目にも明らかだった。
1人の兵士がある棒の先端に火を宿す。
その棒は刻印を付けるための棒であり、それを見た彼女の心は恐怖に染まる。
「ギャハハハハ!こいつ震えてやがる」
「こいつは今回で2個目か、3個刻まれれば後は俺達の慰め物になって、どんな目にも会っても従順に奉仕するしかないのにな、なんで逃げようとするんだ?」
「さあ?自分から性奴隷になりたいんじゃ?」
恐怖で震える彼女を兵士達は思い思いの言葉で嘲笑する。
彼女の背中にある焼印は奴隷になって逃げた回数を表し、彼女は既に1回逃げて捕らえられている。
焼印をつける棒の先端には粘性の炎が宿されており、かなり高温であった。
焼印を刻む役割の兵士は間違った場所に付けることが無いように慎重に狙いを定める。
そして、押し付けた。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」
背中の肌が「ジュッ」と焼ける音がすると共に彼女の悲鳴が響き渡る。
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紅髪の少女は勢いよく起き上がる。
少女は汗だくで目尻には涙すら溜まっていた。
「夢……なんでこんな夢を……」
少女は顔を俯かせ、手で頭を抑えながら涙を流す。
「もう見たくないっ……どうしてあんな"前"の事を思い出さなくちゃいけないのっ」
少女は身体を震わす。
ふと思い出し、少女は左手で服─夢に出てきた自分が来ていた服装ではなく、しっかしと下着も肌着も身につけている─を捲りあげ、空いている右手で刻まれた遺物に触れる。
触れると、少女は顔を苦痛に染める。
高温で焼かれた肌は身体の自然回復では治すことは出来ないと医師に言われていた。
「3つ……」
少女は後ろにある鏡で焼印を映し、手鏡でそれを見て呟いた。
少女の背中にある焼印は2つではない。焼印は3つあった。
「……」
沈黙する間に少女の目から涙が溢れる。
「もうっ……いや……!」
それは自分に対してか、また過去の境遇に対してか、彼女自身もつい出た言葉に驚きながら泣き続ける。
彼女の名前はレリア・プレモール。
多くは語れないが、彼女は絶望によって精神をすり減らされ、トラウマを抱えてしまった事だけは断言できた。
「そうだ、日記を書かないと」
そう言うと彼女はベットから降り、席に座って日記を開く。
だが、彼女はペンを手に取れなかった。
悪夢を見てから、彼女の過去の出来事が頭に浮かび、目から次々と涙が流される。
「どうしてっ……こんなに思い出しちゃうの……止まらないよっ……!」
そう言いながら、彼女は書こうとしていた日記を閉じ、泣きながら頭を抱える。
「お姉ちゃん、泣いてるの?」
その時、その声で彼女はハッとする。
声の主に振り向いて、妹が起きた事に気づく。
妹の名前はリーナ・プレモール。レリアとは違う、緑髪の少女だった。
「……うん。分かんないんだけどさ、悲しくてっ……」
「来て」
「!」
リーナは姉を誘った。
彼女は妹の誘いに頷き、妹のベットに座る。
すると、リーナは姉の体を抱きしめる。
「やっぱり、お姉ちゃんの体は暖かいね。ねぇ、髪の色も違ったりさ、お姉ちゃんに色々聞きたいことあったんだけどさ……お姉ちゃんが経験してきた、私が知らない事いっぱい教えて」
「え……」
レリアは妹が尋ねてきた事に言葉を失う。
そして、彼女は"辛い過去"を妹に教えてもいいのかと悩んだ。
「いいの?……多分、リーナが思ってる以上に……辛いよっ……」
レリアは泣きそうになるのを堪えながら聞いた。
「いいよ、お姉ちゃんが泣くんだから、私だって泣くよ。そんなの分かってる。けどさ、お姉ちゃんが苦しんでるのを見るのはさ……辛い…から……私にスッキリするまで話して」
リーナも涙を零しつつ答える。
そんな妹の答えを聞き、レリアは自分の左足の義足を見て決心する。
「わかった。話すよ」
これは、レリア・プレモールが経験してきた約8年間の壮絶な過去の記憶を回想する物語。
予告的な話にしました。
これから少し年を遡ります。