第十一節 SIDE-バルト-
目を覚ましたらテントの中で毛布に包まれていた。
確か鉄塔で電力を生成して送り込んでいたはずだけど…?
「おう、バルト!目が覚めたみてぇだな」
「オグマさん!」
「あぁオグマさんだ!なんでも昨日は大変だったみてぇだな。それにお前は大活躍だったそうじゃねぇか!」
同室のオグマさんがにこやかに僕の背中をバンバンと叩きながら褒めてくれた。
大活躍だったかどうかは分からないけどお役に立てたなら良かったと思う。
「ちょっと、痛いですってオグマさん。それにしてもここまで戻ってきた記憶が無いんですけど…」
「俺も良くしらねぇんだけどよ。昨日鉄塔で魔力切れになって気絶したらしいぜ?んで、誰かにここまで運ばれてきたらしいんだ」
「運ばれてきた『らしい』?」
「途中で『指輪外せ』とか『ネックレス外せ』とか言われて起されたけどよ、それ以外はグースカ寝て何があったのか、まったく知らねぇんだわ!」
オグマさんはそういう言うとがははと笑いまた僕の背中をバンバンと叩いた。
その騒動の中、寝ていられるって相当すごんじゃ?
僕の中で尊敬半分、呆れ半分の感情が出来上がった。
そんな会話を続けているとテントの前に誰かが立つ気配がした。
「バルト殿に伝令!総司令官より出頭命令です!」
「はっ!私バルトは総司令官の命により出頭します!」
反射的に立ち上がり、命令を受領した事を復唱によって伝令兵に伝える。
一応、僕とオグマさんは旦那様のお付という事で軍属ではないけど士官相当として従軍している。
その為ほかの兵士と違い上官という者が存在しない。
結果、直接的な命令権は旦那様にしかない。
仕官相当としての従軍のお陰でテントによる個室はもらえるし食事も食器付きの温食だ。
なんかお客さん扱いされているようで疎外感を感じるけど。
「それじゃ行ってきます」
「おう、旦那様によろしくな」
僕はテントと外を隔てている幕を開けると外に出た。
用事は済んだというのにそこにはまだ伝令兵が立っており、僕の頭の上に疑問符が浮かぶ。
伝令兵は僕の顔を見るとにっこりと笑い、握手を求めるように右手を差し出すとこう言った。
「昨日の騒動はバルト殿が止めてくれたんですよね?小官も被害にあっておりました。あなたのお陰で無事に今日を迎えることができました。本当にありがとうございます!」
僕は求められるがままその右手を握ると伝令兵はブンブンと大きく上下に振る。
そして敬礼の後、颯爽と立ち去った。
なにがお客さん扱いだ。なにが疎外感だ。
壁を作っていたのは僕のほうじゃないか。
僕は、はにかみながら貴族のテント郡の脇を抜けて旦那様のテントへと急ぎ走り出した。
「お待たせして申し訳ございません!バルトです!」
「入れ」
ん?大旦那様の声?
僕は旦那様のテントに到着すると入室許可を得る為、外から声をかけた。
中から帰ってきたのは旦那様の声ではなく、大旦那様の声だった。
疑問に思いながらも入室の許可が出たので、入り口の幕をめくり中に入っていく。
僕たちのテントとは違い作戦会議も出来てしまいそうなほどの広さを持つ内部には四人の人物が居た。
一人はテントの持ち主である旦那様。
一人は先ほど入室許可を出していただいた大旦那様。
一人は旦那様の後方で浮遊している美和様。
そして最後の一人は…
「ひ、ひ、姫さっっっごふっ!!!」
僕は最後の一人を視界に納めると思わず叫び出しそうになった。
しかし、その叫びは大旦那様から投擲された剣によって遮断される。
鞘がついていたのは温情か抜く手間を省いたかは分からないけど。
それでもそれなりの重量を持つ剣が高速で飛来して先端が腹部に刺されば相当のダメージを負う。
恐らく魔族である僕じゃなくて一般人であったら重傷は免れないことだろう。
結果、僕は入室したのも束の間、剣の衝撃によって再び外へを舞い戻ることとなった。
室内の衝撃的な光景と腹部に受けたダメージによって仰向けのまま暫くぽかんとしてしまった。
「入室前に忠告しておくべきだったな。すまない」
戻ってこない僕を心配してか室内から大旦那様が外までいらして僕に声をかけていただいた。
「いえ、取り乱してしまい申し訳ございません。次はもう大丈夫です」
まだ痛む腹部を右手で擦りながら立ち上がると大旦那様に向けて一礼する。
そんな僕の行動に満足したのか大旦那様は一つ頷くとテントの中へ戻っていかれた。
僕もその後に続いてテントの中へと這い入る。
居ると分かっていてもやはり身構えてしまう。
そんなオーラを放つお方に、まさか戦地で再会することになるとは思わなかった。
「誰かと思えばライコフではないかえ?息災か?」
「お久しぶりでございます。この場でその名を呼ぶことの出来ない無礼をどうかお許しください」
その場で深くお辞儀をして礼を取るが膝を付くことは無かった。
姫様はそんな僕の態度にもこれといって不満を露わにすることなくただ静かにニッコリと微笑む。
「それと、私の名前は『バルト』です。以後よろしくお願い申し上げます」
「なるほど『バルト』か。あいわかった」
全てを見透かすような瞳の奥に少しばかり、怒りの炎が宿るのを感じた。
恐らくこの場では僕しか分からない程度の揺らぎ。
長く一緒に居たからこそ理解できる程度の感情。
つまり、これは僕に宛てたメッセージだ。
そんな秘密の手紙も真正面から受け止める。
そうでなければ『バルト』としての僕の存在意義をなくしてしまうような気がした。
周りから見ればただ静かに見詰め合っているだけに見えたことだろう。
何故か美和様だけは何を勘違いしたのかドン引きだったけど。
きっと勘違いされているだけだから気にしない。
ゴミを見るような視線だけど気にしない。
ごめん、嘘。ちょっと泣きそう。
そりゃ姫様の見た目が僕のどストライクなのは認めるよ!?
だけど身分の違いもあるし、そもそもそういう場じゃないことくらい僕にもわかりますよ!?
だからお願いですから犯罪者を見るような目は止めてください。
口パクで「通報しました」とか言うのは止めてください。
ただでさえお腹が痛いというのに、それ以上に心を抉ってくるのは止めてください。
「どうやら顔見知りみたいだね?」
そんな美和様の手前になっている旦那様から僕に向けて問いかけがあった。
「はい、旦那様に雇って頂く前の『仕事』で何度か」
「ほぉ?妾との時間が『仕事』であったと?あんなにも仲睦まじい時間が『仕事』であったと?」
僕と旦那様の会話に姫さまがにやにや顔で割り込んできた。
しかも特大の爆弾を放り込む形で。
お陰で美和様だけでなく大旦那様や旦那様までも僕に蔑むような視線を送ってくる。
これってアレだよね。四面楚歌ってやつだよね!
「ご、ご、誤解です旦那様!僕はただ魔族になる前の知識を教えていただけで!」
必死に弁解するも、ますますどツボに嵌っていく様子はさぞ滑稽であったことだろう。
美和様に至ってはお腹をかかえて爆笑している。
「ま、まぁ趣味趣向は人それぞれということで」
「そこだけは!そこだけは誤解したままにしないでください!!」
「バルト、一旦落ち着こうか」
「えっ、はい…」
これ以上、弁解しようにも旦那様の視線がとても冷ややかなものに代わりつつあったのでどうしようもなく諦めた。
いつか必ず誤解を解いてやろうと心に誓った。
「それでバルト。君に一つ特命を下す」
「はっ!」
「この方を無事に送り届けて欲しい」
「畏まりました!」
ん?送り届ける?
「既に使いを出してここに馬車を寄越すようネイアにはお願いしてある」
なんだろう嫌な予感しかしない。
こういう時の勘って当るんだよね。自慢じゃないけど。
「一つ、ご質問をよろしいでしょうか?」
「なんだい?」
「どちらまでお送りするのでしょうか?」
「そりゃ決まってるじゃないか」
あぁ出来ればその先は聞きたくない。
でも、悲しいかな主人の命に従うのは従者の務め。
数秒の溜めの後、本日最大の爆弾は旦那様の手によって投下される。
「魔族領さ」




