表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/159

第七節 SIDE-アレク-

 美和さんの宣告により絶望的な表情を浮かべているバルト。


 俺はそのバルトから捨てられた子犬のようなオーラを受けながらも勤めて無視した。


 ここで相手にしたら最悪、俺が代わりに電力供給し続ける羽目になりかねない。


 バルトには申し訳ないけどここは人柱になってもらうほかないと判断した。


「な、なるべく早く解決するから頑張れよ!!」


「だ、旦那様~~~~」


 俺に見捨てられて今にも泣き出しそうなバルトを置いて、カイン様の元に走った。


 周りの兵士たちは必死に抵抗しようとしていたのか、電気信号が切れると同時にその場にへたり込んでいた。


 先ほどまでの剣戟音はなりを潜め、いまは荒い息遣いだけが周りを支配していた。


 いや、かすかに剣を交える音が聞こえる。


 これは…カイン様の居る方角じゃないか!?


 美和さんもその音に気が付いた用でお互いに顔を見合うとを頷き、走る速度を一段階上げた。


 近づくにつれて段々と大きくなる音に俺はカイン様が戦っているのだと確信した。


(もしかしたら、さっきまでの騒動は囮だったのかもしれませんね)


(と、言うと?)


(最初から軍のトップを狙ってきたんじゃないでしょうか?以前、領都が襲われた時に話したやつですよ)


(えっと、確か『軍は司令官を落とせば残りは烏合の衆』ってやつですね)


(そうです。それです)


(でもそうなるとカイン様が軍のトップだと帝国軍に認識されてるってことじゃ…)


 急に美和さんからの返信が途絶えた。


 表情を確認しようにも視線を向けたらあからさまにそっぽを向かれた。


 えぇ!分かってますよ!自分が将の器じゃないことぐらい知ってますよ!!


 ちょっとだけ泣きそうになったのは内緒にしておこう。


 そんな馬鹿話で緊張を解すとカイン様のテントが視界に入ってきた。


 そこではやはりカイン様が戦闘状態にあった。


 いや、正確に言おう。戦闘のような状態だ。


「ほれ!どうした!その程度ではわしに一撃を入れることはできんぞ!」


「くっ!いい加減に当れ!!」


「はっはっはっ!そんなもんか!ほれほれ!!」


 遊んでました。それはもう盛大に遊んでました。


 セイルほどの身長の女性と思わしき人影が右に左に高速移動をしながらカイン様に迫り来る。


 しかしカイン様はその太刀筋を見極めると正面から受け止めるのでは全て受け流していた。


 恐らくカイン様はその場から一歩も動いていないであろう戦場は小さな足跡で一杯だった。


 既に何回も同じ結果であったのかその小さな人影は肩で息をしており、悔しさからか口元からギリィと食いしばる音が響く。


「ん?どうしたもう終わりか?」


 それでも煽るカイン様に怒りが天元突破したのか小さな人影は少しの溜めの後、今まで以上にスピードを上げて突っ込んだ。


 しかしカイン様はそんなものはものともせずに自らの腹に向けられた切先に対して手に持つ剣を沿わせるとそのまま大きく上へと凪いだ。


 バキン!と大きな音を立てて根元から折られた剣が二本。


 突然のことに目を白黒させて驚く小さな人影。


 作戦と言うなのイタズラが成功した事を満面の笑みで表現するカイン様。


「これで終いだ」


 折れた剣の根元で死に体で突っ込んでくる小さな人影の首元を強く打ち据えた。


 打ち据えられた方は堪らず「うっ!」と小さな悲鳴を残し、その意識を手放した。


 意識を失い無防備になった小さな体を片手で受け止めると、こちらに視線を送ると一言。


「アレク君。捕縛をお願いできるかね?」


 とりあえず俺はカイン様を怒らすのだけは絶対にやめておこうと心に誓うのには十分な出来事であった。


 俺はいつものようにワイヤーを生成すると誤ってスパッといってしまわぬように慎重に縛り上げた。


「ところでアレク君。こやつに見覚えはあるかね?」


「いいえ、始めて見る顔ですね」


「ふむ、そうなると私怨の線は薄いか。となるとやはり…」


「頭を潰して来ましたか」


「そうだろうな。わしも開口一番に総指揮官か問われたのでな」


 やっぱりなー


 カイン様の方が総指揮官っぽいもんなー


 まさに『大将!』って感じだもんなー


 自信無くしてきた………


 俺の心の声が漏れ出したのか、カイン様は笑いながら「そう気にするでない」と言ってはいただけたけど、そう簡単に割り切れるものではない。


 そりゃ初陣ですし?若年者ですよ?


 それにしたって敵にもそう思われてるっての地味に効いてくる。


「冗談はさておき、これをどうみる?」


 カイン様は縛り上げて地面に寝転がされている小さな人影を指差した。


 いや、正確には小さな人影の頭に付いている『角』を指しているのだろう。


 そう、襲撃者は魔族だった。


 ここ最近、帝国軍は魔族を多用しているように見受けられる。


 もう隠す気が無くなったのか、はたまたそれほどに切羽詰っているのか。


 恐らく前者だろうな。


 攻め手が切羽詰るってどういう状況だよと。


 そうなれば答えは一つ。


「隠す気が無くなったんですかね?」


 俺のあえて主語を言わない返答にカイン様は苦笑で答えた。


「もしかしたら今回の主導は帝国なのでは無いかもしれないな」


「と、申されますと黒幕が別に?」


「あくまでも勘だがな。それにしても周りが静かになったな。下手糞な人形劇は終演かね?」


「いえ、あくまでも暫定的な処置です。今はバルトが頑張ってますが、魔力が尽きれば元通りです」


「そうか。まだまだ問題は山済みということか」


「はい。取り急ぎ問題となる発信源を探ろうと思います」


「ではわしはこの娘の処遇ともう一つ別に気なることがあるので、そちらを調査することにしよう」


「それでは失礼します」


「あぁよろしく頼む」


 俺はカイン様に一礼するとバルトの元へと走った。


 この程度で魔力切れになるような奴ではないけど一人残して置くのは気が引けたので少しだけ急ぎ足で。


 あの泣き出しそうな顔を思い出しつつ苦笑を浮かべて走った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ