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第二十節 SIDE-美和-

 楓ちゃんの案内で、陰陽局までやってきた私たちは何故か門兵と言い争いをする羽目になりました。


 アレク君の「響さんに取り次ぎを」発言に対し門兵は「そのような者は当局にはおりません」の一点張り。


 何度かやり取りしている間に門兵が苦虫をダース単位で噛み締めるような苦悶の表情を浮かべ始めたので、何かあったと読み一旦離れることに。


 すると、門兵は身振り手振りで裏手に回るよう伝えようと必死に頑張っていました。


 私はなんとなく理解が出来たので念話でアレク君に伝えました。


(南条家で何かあったようですね。門兵が裏手に回れといっているようですしここは指示に従いましょう)


 全員でぞろぞろと歩いて行くのも悪目立ちしてしまいますので二手に分かれることにしました。


 裏手に回るのはアレク君、ミリアさん、私の三人。


 残りはその場に残ることにしました。


 私たちは裏手に回る為、長い外壁に沿って歩いていると一つ目の角を曲がったところで桜花さんに出会いました。


「響様がこちらでお待ちです」


 屋敷からは離れる様に案内され、気が付けば何件も連なる長屋にたどり着きました。


 桜花さんはその長屋のうち一番奥に当る部屋で立ち止まると特徴的なリズムで木戸を叩きました。


 そして木戸を半分だけ開き、私たちに入室を促します。


 アレク君、ミリアさん、私の順番で部屋へと入って行くと部屋の中央に響さんが鎮座しておりました。


「こんなところまで来て貰って悪ぃな」


 いつもの装いで胡坐を掻いて座っているので、下着が全開放されており色気を感じるどころか寧ろ男気を感じてしまうほどでした。


 因みに身に着けていた下着はなぜか褌でしたが。


 アレク君もミリアさんも褌が下着だと理解できていないのかあまり動揺することなく進められるがまま響さんの前へと着席しました。


「他の人たちはどうした?」


「南条家の門前で待機しています」


「そうか。桜花、悪ぃけど他の人も連れて来てくれ」


「はっ!」


 短い返事を残し、退出していく桜花さん。


 視線をアレク君たちに戻して話始める響さん。


「で、こっちの話だけどよ。早い話が南条家を勘当されて、陰陽局も解雇された」


「どういうことですか!?」


「まぁ最後まで聞いてくれてや。あたいはあの後、西条家との一戦も視野に入れて南条家が保有する戦力を集めるために実家に帰ってに奔走してたんだ」


 響さんは一度言葉を切るとその時の情景を思い出しているのか遠い目をしながら少し悲しい顔になっております。


 うっすらと目尻に光るものを感じましたが無視をするように瞳を閉じるとふぅーと息を吐き、自らを落ち着かせると続きを話し始めました。


「そしたら父上が現れてな、いきなり『お前は勘当だ。もう親子だと思うな!』だってさ。もう何がなんだか分からなくてな。あたいは何度も説明を求めたさ。それでも梨の礫。で、しぶしぶ陰陽局に向かうと今度は『貴女は解雇されました』だもよ。もう踏んだり蹴ったりだよ」


 そこまで語ると堪え切れなかったのか静かに一筋の涙が頬を伝いました。


「すまねぇ、情けないところを見せちまって。父上に勘当されたのもショックだけどよ、それよりも陰陽局にとってのあたいは『南条』であって『響』として必要なわけじゃなかったのかと思うとどうしてもやるせなくてな」


 袖でごしごしと目元を拭うとずずぅと鼻を豪快にすする。


「まぁ過ぎた事はしょうがねぇ。ただお前達に援護できなくなっちまった。すまねぇこの通りだ!」


「そんな!やめてください。寧ろ巻き込んだのは俺たちの方ですし…」


「いいや、元々はこの国の腐った部分が表に出てきただけの話。大局的に見たらこっちが巻き込んじまったのさ」


 響さんはそこまで語るともう一度「すまねぇ」と謝罪の意を示しました。


 胡坐を掻いた両膝に手を置いて頭を下げる様はTHE・江戸っ子って感じですが。


「どちらにせよ乗りかかった船だ。あたいに出来ることなら何でもやるぜ!ところでそっちの首尾はどうでぃ?」


 次に頭を上げる頃にはいつもの響さんに戻っているようでした。


 例え無理やりでも空元気であっても動こうとする意志の強さには感服します。


「えぇ俺たちはあの後、西条家に向かいまして…」


 先ほどまでのカチコミ劇を掻い摘んでアレク君が説明していきます。


 そこまで濃い内容ではないので、五分もしない内に終わってしまう程度でした。


 それでも徐々に笑いが堪えれなくなってきた響さんは説明が終わる頃には腹を抱えて爆笑していました。


「あはははははは!!その場に居なかったった事がここまで悔やまれるったぁな!西条の奴の顔が見たかったぜ!!」


 床をバンバンと叩いて爆笑している響さん。


 感情の起伏が激し過ぎやしませんかね?


「あー笑いすぎて腹痛ぇわ。しっかし、その魔族の集団ってのはどうすんでぃ?」


「そうですね。隊長格は捕縛したんで、このまま大人しく帰ってくれればいいんですけど…」


「まぁそうは行かねぇわな」


 アレク君の言葉を響さんが途中から引き取り結びます。


 三人で頭を悩ましていると特徴的なリズムで木戸が叩かれました。


 アレク君が返事をしようとすると響さんによって憚れます。


 どうやら返答しないことが符丁になっているようですね。


 暫くすると木戸が半分だけ開かれ門前に待たせていた面々が室内へ入ってきました。


 そう広くは室内ですので、八人も入ると辛うじて全員が座れるぐらいの密度です。


 物理的干渉の無い私はどこに居てもいいのですが、なんとなく居心地が悪いので天井付近で漂っていましたが。


 ふと響さんの視線がオグマさんに引っ付くように座る楓さんを捕らえました。


 その状況だけで何かを悟ったようでその顔からは笑みがこぼれています。


「さて、全員集まったところで魔族集団に関する話し合いでもしようじゃねぇか!」


 響さんの号令の下、全ての視線が一同に注がれる。


「何か案のある奴はいねぇか?」


 その視線を楽しむかのように周りを見渡しながら場を仕切っていく響さん。


 そこへミリアさんが挙手をして発現の許可を得ます。


「その前に一つ。捕縛している隊長格の扱いはどういたしましょうか?」


「交渉材料の一つにはなるだろうが、せめて貴族クラスじぇねぇとどうにもならねぇだろうな。名前はなんて言うんだ?」


「確か『ヴィーン=ロズゴニー』と名乗ってましたね。名乗りが正しければ貴族の可能性が高いかと」


 ん?何処かで聞いたことあるような名前ですね。どこでしたっけ?


 ごく最近聞いたことがあるような、ないような。


 私が腕を組んで悩みながら天井付近をぐるぐると旋回しておりました。


 ふと視線を感じ、そちらに視線を向けてみるとバルトがこちらを見ております。


 その視線は自信なさ気におずおずとそれでいて、なにか意味があるかのようなものです。


 私に言いたいことでもあるので…しょう…か…あっ。思い出しました。


(アレク君)


(どうしました?)


(もしかしたらその隊長格の説得に使えるかもしれない人物を知ってるかもしれません)


(えぇ!?どういうことですか?)


(それはですね…)


 ネイアさん誘拐事件の所為で報告出来ていなかった一件を掻い摘んで話しました。


 話を聞いたアレク君は顎の手を当てて考え込むと「いけるかもしれませんね」と一人呟きます。


「ん?アレク、どうしたの?」


 その独り言を直ぐ隣に座っていたミリアさんが拾います。


「美和さんから来たんだけど、どうも捕縛した隊長格に近しいと思われる人物がいるらしいんだ」


「なんだって!?そいつは何処にいやがるんでぇ?」


 驚きのあまり前のめりに乗り出しながら響さんが問いかけました。


 アレク君は一息間を空けるときっぱりと言い切ります。


「北条家です」


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