表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/159

第十八節 SIDE-アレク-

 今回は情報が錯綜しすぎてて本当の黒幕が分からない。


 だけど、俺の従者に手を出したことだけはきっちり後悔して貰わないとといけないことだけは確かだ。


 そうと決まれば出撃準備。


 魔法が使えないままでは不味いので、美和さんに憑依状態を解除してもらい今はいつもの定位置で漂っている。


 当面の敵は西条家と決まったが、場合によっては武力行使も辞さない構えだけど、国家の中枢を担うような相手だ。


 国際問題に発展して後で英雄王様に迷惑を掛けるわけにも行かないので慎重に対処する必要があった。。


 だけど、響さんから聞いた西条家の本邸へ向かう前に美和さんへお願いして上空から偵察してもらいその報告を聞いて遠慮が要らないことを確信した。


 相手が行き違いによる誤認逮捕ということで即時釈放するなら良し。


 少しでも抵抗するなら武力による奪還する方向で一致した。


 いつもの様に異国情緒たっぷりの町中を歩き、いつものように視線を集めているが、唯一違うことがひとつ。


 俺もミリアも腰に剣を佩き、バルトに至ってはその両腕に金属質の手甲を着けている。


 どこからどう見ても完全武装。


 美和さん曰く『カチコミ』だ。


 西条家の正門までたどり着いた俺たちはいかなる者も立ち入る事を拒否するようにしっかりと閉じられていた門に歓迎を受けた。


 ノッカーも無いので、仕方なくバルトがドンドンと門を叩き来訪を知らせる。


 回数にして四回ほど繰り返したが、まったくもって反応がない。


「もういい、バルト。やれ」


「はっ!」


 俺の指示を受けて、バルトはノックをしていた右腕を目一杯振りかぶると思いっきり叩きつけた。


 魔族の膂力は人類のそれをはるかに凌駕する。


 更にバルトは俺のスーツと同じ美和さん謹製の『筋力増強処理』の施された手甲を装備している。


 木製の門なんぞ紙切れの様に吹き飛び、外殻だけ残すように佇んでいた。


 俺たちは何も拒むものが無くなってすっきりとした門を潜り西条家本邸へ足を踏み入れた。


 門から屋敷へ伸びている石畳を急ぐ様子も無く余裕を持って歩いていると何処から湧いてきたのか十名ほどの兵士と思わしき人たちに囲まれた。


 皆一様に腰に佩いている刀に手をかけていつでも抜刀出来る様に取り囲んでいる。


 一触即発の空気の中、屋敷のほうから包囲を割って入ってくる男が一人。


 入国時に話をした『西条勝正』だ。


 皇国の証文があるにも関わらず入国審査時はねっとりと蛇に絡み疲れるような話し方でやけに遠まわしに話を進める様は今でもはっきりと覚えている。


 正直、相手にしたくない部類の人間だ。


「これはこれは、アレク=エクルストン様。入国時以来ご無沙汰しております。今回はこのような派手なご登場でどのようなご用件でございましょう?」


「ご無沙汰しておりますと言うほど時間も経っていない気もしますが入国時はお世話になりました。なにやら当家の者がそちらにお世話になっているとご一報をいただきましてご挨拶に参った次第です」


「はて?ここ最近は不法滞在疑惑で二名ほどお連れしましたが、エクルストン家の方とは伺っておりませんね。確認いたしますので、一度お引取りを頂いてもよろしいですかな?」


「いえいえ、ご確認するだけでいたらそうお時間も掛からないでしょうからこちらで待たせていただいてもよろしいですか?」


「これは困りました。私どもの能力を高くご評価いただいておりますところ誠に恐縮ではございますが、常日頃の通常業務もございますので今すぐにとは行かないかと」


「おっと、申し訳ございません。確かにお忙しいところ特別扱いして頂くのも悪いですものね。なんせ都のすぐ近くで三千人規模の大所帯がこれから入国審査を行うように待たされているようですから」


 表情一つ変えることなくこちらと舌戦を繰り広げる西条の眉毛がここに来てピクリと動いた。


「そのようなこと初耳でございますな。どこでそのような根も葉もない噂を耳にされました?」


(脈拍、心拍数共に上昇。こいつは嘘をついてる味ですね!)


 西条の発言に対して美和さんから報告が入る。


 今回スキャンの応用で美和さんが触れている相手の体温、脈拍、心拍数、血圧が測れるような魔法を以前に使用していいた。


 美和さん曰く前世の『嘘発見器』の原理を利用したものらしい。


 原理は分からないけどほとんどの人間は嘘をつく時に緊張するもので、緊張するとどうしても脈拍や心拍数が上昇する傾向があるらしい。


 なので、今回はほぼ必ず舌戦になると踏んで美和さんに対処方法を検討してもらっての結果だった。


 おかげで都の外で待機している一団は西条の手引きによるものだと判断することができた。


「噂も何もこの目で見てきた内容ですよ。しかもそのお客さん全てに角が生えていたような気がするんですよね」


「なんと!それは一大事でございますね。では早速調査に向かわなければいけませんので、私はこれにて失礼させていただきます」


(更に心拍数上昇。パターン青。黒幕確定ですね)


 なんかこっちだけズルしているようで気が引けるけど、使えるものは使えないとね!


「どうあっても当家の従者を解放いただけないと?」


「調査の上、追ってご連絡差し上げますので今日のところはお引取りを」


「そうですか、残念です」


「ご理解いただけましたか」


(心拍数低下中。あからさまにホッとしてますね)


(美和さん。見れば分かりますよ)


(デスヨネー)


 俺が思わず苦笑してしまうほど西条は目に見えてホッとした表情を浮かべている。


 入国審査官の長官としてその程度で表情に出してしまうとはそれほど重大な隠し事をしている証拠ですかね。


 さて、そろそろ一思いに一刀両断と行きますか。


「あぁそうそう。実はさっきの発言で一つだけ嘘があったんですよ」


「はぁ?」


「見てきたって言ったじゃないですか。アレ嘘です。一番先頭で指揮していた輩を攫ってきて『お話し合い』をさせて頂きました」


「はぁぁぁぁ!?」


 困惑から驚愕へと忙しく表情を変えていく西条。


 直後、こちらの発言の意味を理解したのか今度は憤怒にその表情を変えていった。


 真っ赤になったその頭はさながら茹蛸の様だった。


 西条は自らの腰に佩いた刀に手をかけると一息に抜刀した。


 それを見ていた周りの兵士も一斉に抜刀し、その切先をこちらに向けて取り囲む。


「者共、出合え!出合え!」


 西条の一声で包囲が狭まり、一瞬にして隙間無く包囲が完了した。


 更に屋敷からは次々と兵士が出てきて当初十名ほどであったその人数はパッと見ただけでも三十人は下らない数へと増員していた。


(屋敷の屋根の上に陰陽師らしき姿を発見しました。魔法攻撃に注意してください!)


 美和さんから警告が入る。


 俺は唯一美和さんの声が聞こえないミリアに「屋根の上に魔術師」と短く告げた。


 既に抜剣して臨戦態勢を取っていたミリアは「はい」と短く返答すると魔術師の姿を視界に捉えていた。


「アレク。バルト。この場を頼みます」


 どうやら先に魔術師を討伐するようで小さく屈むとその脚力を生かして一息に跳んだ。


 周りを取り囲む兵士の頭上を越えて、屋根までたどりつくと即座に魔術師たちの掃討を始めた。


 次々とミリアの剣に切り伏せられていく魔術師を唖然と眺めている地上の兵士たち。


 何か作戦でもあったのかもしれないけど間違いなく破綻していることだろう。


 俺とバルトはまず包囲を破る為に屋敷―黒幕の西条―に向かって駆け出した。


 前衛は攻撃と防御を兼ね添えているバルトが担当し、すぐ後ろを俺がデュランダルで援護する形で追いかける。


 俺たちが駆け出したことで周りの兵士も状況に追いついてきたのか一斉に斬りかかってきた。


 バルトは前方の三人に狙いを定め、走りながら襲い掛かる刃を殴りつけていく。


 一刀に対し、一撃の下、正確に放たれた拳は次々と刀を粉砕していく。


 俺も後方から迫り来る刃の波に対して、ロングソードであったデュランダルをツーハンデッドソードの長さまで換え横薙ぎに一閃。


 自分を中心に270度を振り抜いた剣撃は威嚇には十分だったようでその内側へ迫ってこようとする兵士が居なかった。


 バルトに襲い掛かった三人は武器が破壊されたことにより戦意を喪失したのか棒立ちになっており、バルトの手加減に手加減を重ねた拳の餌食となり膝から崩れ落ちていった。


 絶好調のバルトは勢いそのまま次々と標的を換え襲い掛かる。


 これではどちらが襲撃しているのか分からないほど圧勝だった。


 気が付けば屋根の魔術師の掃討が終わったのか地上戦にミリアも参戦しており、それから十分もしない内に全て意識が無いかあったとしても即座に動けるような状態では無いものばかりとなった。


 唯一、五体満足で意識もはっきりとしていた西条に俺たちはゆっくりとそれはもうゆっくりと歩み寄る。


 西条は腰が抜けたようで屋敷の玄関でへたり込み近づいてくる俺たちから少しでも距離を取ろうと必死に後ずさっていた。


「バルト」


「はっ!」


 俺が一声バルトに声をかけると全ての意を理解してくれたのか、後ずさる西条の襟首をつかみ取りグイッと持ち上げた。


「さて、西条さん。当家の従者を即時解放していただけますかな?」


 恐らく人生のうちでランキングトップ10に入るであろうほどの笑顔を浮かべて問いかける俺がそこにいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ