第八節 SIDE-美和-
「アレクよ。言いたいことは分かっているつもりだ。その上で答えよう。それはありえない現象だ」
「やっぱり!!」
はい。どうやらまたやらかしたみたいですよ。私。
お父さんが見せてくれたファイヤーランスを真似てイメージしてみただけなんですど。
そりゃ、ウォーターランスって言うくらいですからちょっと威力を高めようとウォーターカッターを思い浮かべましたよ。
圧縮して打ち出すってやつですね。
ついでに命中率を上げようと回転も加えましたとも。
銃とかであるライフリングってやつですね。
その結果がコレですよ。直径2m弱の岩を貫通しました。
何を言っているか分からないが…(以下略
そんなこんなでアレク君から諦めの匂いを孕む空気が漂ってます。
私は嗅覚がありませんがぷんぷんに匂ってきます。
お父さんも私もなんと声をかけていいか分からず先ほどから沈黙がこの場を支配しています。
現場からは以上です。
…と、現実逃避したいところですが、『私の』アレク君が落ち込んでいるのは、放置できません。
例え、私に原因があろうとも。
むしろ私に原因があるのだからどうにかするのは当たり前ですね。はい。ごめんなさい。
「あの…アレク君?」
「なんですか?ミワさん」
トゲトゲしい!ものすごくトゲトゲしいぃぃぃ!
さっきまであれほど素直だったアレク君がツンツンしてますよ!
ツンデレ特盛りのデレ抜きで!
それはもはやただ単に嫌われてるだけなのでは?
認めたくないものだ若さゆえ…(以下略
それはそうと悪い事をしたら謝るのは必須。
と、言うわけでもう何度目か分からない謝罪をいたしましょう。
ついでに私に常識がない理由も伝えましょう。
私が異世界人だという事は神様には口止めされてないし。
「アレク君。大事な話があります。実は私はこの世界の人間ではありません」
「え?どういうことですか?」
はい。素直な『私の』アレク君が戻ってきましたよ!
短いツン期でしたねーはははははは。
「そのままの意味です。私は異世界で事故に遭い天に召され、天界で神から使命を受け、つい先ほど始めて英霊となってこの世界に降臨しました。ですので、この世界の常識というものがまったくありません」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「どうしたアレク!?父さんにも分かるように説明してくれ!!」
お父さんには聞こえないから何がなんだか分からないでしょうね。
ものすごい取り乱しようだ。
さっきまで拗ねてた息子が急に大声出せばびっくりするでしょうに。
とりあえずお父さんにも説明してもらわないと話が進まないよね。
「アレク君。お父さんにも私が異世界人であることを伝えてください」
「は、はい。分かりました。あのね、父さん。落ち着いて聞いてね。実は僕に宿ってる英霊のミワさんなんだけどね。この世界とは別の世界からきた異世界人なんだって」
「………はぁぁぁぁぁぁぁ!?」
そうですよね。そりゃそういう反応になりますよね。
なんとなく魔法について博識の様子だったので、もしかしたら異世界人についても知識があるかと思ったりもしたけど、やっぱり異世界人は相当に珍しいみたい。
まぁいくら博識といっても農家みたいだし、この世界の学者とかなら異世界について何か知ってるかも。
どちらにせよ私の知識を広める為にもアレク君には学者になってもらう必要がありそうですけど。
ふとお父さんを見ると驚愕の表情のまま固まっている。
驚きすぎて脳の処理が追いついてない感じかな。
アレク君はまだ落ち着いてるかな?それとも思考することを諦めちゃった感じ?
この際だから使命についても話しておこう。
「アレク君。もうひとつ大事な話があります。」
「まだ何かあるんですか!?」
うん。すまない、まだあるんだ。本当にすまない。
むしろこっちのほうが本題な気がするし。
「えぇ。先ほど使命を受けたといいましたね?」
「は、はい。そんなこと言ってた気がします。」
「その使命というのが、この世界に私の知識を広めることです」
「はぁ…この世界にミワさんの知識を広めることですか…」
おっと、アレク君。オウム返しになってるぞ。
これはやっぱり思考することを手放しちゃったパターンかな?
「ですので、アレク君に研究者になってもらい私の知識を世間に広めてもらう必要があります」
「僕が研究者にですか………研究者!?魔法学の研究者になれって言うんですか!?」
良かった。研究者って概念はあるのね。
それより魔法学ってのは何だろう?魔法を学問にしちゃった感じ?
その辺のニュアンスは薬学とか科学とかと同じっぽいね。
「そうです。研究者です。恐らく私の科学知識はこの世界では異端ですが、最高峰の知識になると思います」
「む、む、むむっ」
「むむっ?」
楽○カードマーーン?川○慈英??
「む、無理!無理ですよ!!さっきも言いましたけど、僕は農家で学校にすら行ったことないんですよ!?」
あぁーそういえばそんなことも言ってた言ってた。
「大丈夫ですよ。私が責任を持ってアレク君を教育します」
「え?」
「え?」
「ミワさんが?僕に勉強を?」
「はい。私がアレク君に勉強を」
「………………」
「………………」
なにこの沈黙。
…もしかして私ってアレク君から頭悪いと思われてる?
確かにいろいろ醜態を晒してる気もするけど最初に知識を授けるって言ってるよね?
この誤解をなんとしても解消しないことにはこれからの私を見る目が変わってしまう…
考えろ!最上美和!!なんとしても『頭の良い綺麗なお姉さん』枠をゲットするんだ!!
「ア、アレク君?私はこれでも知識を授ける英霊ですよ?」
「…そういえば、そうでしたね」
はい!疑いの眼差しゲットだぜ!
「しかもこの世界では最高峰の知識をですよ?」
「…はい」
まだだ!まだ終わらんよ!!
「少なくともこの世界の学校の先生よりは遥かに高い知識を有してますよ?」
「はぁ、それはすごいですね」
ぐはっ!駄目だ。完全に疑われてる。
ど、どうしよう。どうすれば………あっ、そうだ!
「それではアレク君。いまアレク君の悩み事を科学の力で解決してみせましょう!」
「え?僕の悩み事を解決ですか?…えーと、何でも良いんですか?」
「えぇ。科学に不可能はありません!!」
言い切った。それはもう盛大に言い切った。