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第八節 SIDE-美和-

 陰陽道に新撰組、ご老公に加えて忍者まで現れたとあれば、きっとお奉行様の南条さんとやらの右肩には桜吹雪が舞い散っているに違いない。


 そろそろ仕置き請負人やお金を投げつける同心が現れたとしても不思議は無い。


 もしくは白馬に跨って砂浜を爆走する八代目将軍様とかが貧乏旗本の三男坊とか言いながら登場しそう。


 ここまで時代劇要素がある事を考えると私とそれほど時代が離れている人が転生してきたとは思えない。


 だとすると建国当初に居たと考えるのは間違い?


 いや、複数人が関わっていると考えるのが普通か。


 建国当初に『陰陽道』を作った英霊と『時代劇バリバリの町並み』を作った英霊は別人だ。


 恐らく前者が日本っぽい基礎を作り上げて独自に発展。後者が後世で時代劇要素を追加したってところか。


 そこまでは理解できるにしても忍者が装束を着てるっていうのがどうしても気になる。


 ましてご老公の作品を知っているなら余計に普通の格好で街中に紛れ込んでいるもんじゃないの?


 風車の人とか薬売りの人とか。


 忍装束なんて目立つ格好で忍者が街中を闊歩するはずがない。


 もしかして別の意図がある?


 作品に対する思いじゃないとすると衣装としての思いが強い?


 いやいやいや、流石に異世界でコスプレを広めるようなことは………無くはないか。


 さっきから皆でつついているこの料理もそう。


 ミリアさんはよほど気に入ったのか昨日に引き続き同じ店での夕食となったわけだが、店構えこそは日本のそれだが料理のことごとくが『日本食っぽい』のだ。


 あくまでも『それっぽい』だけで全部が全部、魔改造されている。


 回らない寿司屋に行ったらカリフォルニアロールが出てくるような違和感しかない。


 私は食事の必要が無いからアレク君たちに「ちょっと散歩してくる」と言い残し店を後にした。


 一人街中を歩いていく私。


 左右の店を眺めながらすれ違う人々の声を拾う。


 取り留めない会話であるが端々に入る単語がどうも日本語を意識してしまうものばかりだ。


 会話に集中しながら歩いていた所為か知らず知らずのうちに町並みから少し外れたところに出てしまった。


 見た目が幼女の私なわけだ。


 こんなところを一人で歩いていては、


「おやおや、こんなところでどうしたんだい?お嬢ちゃん?」


 と、言ったように犯罪者に声をかけられてしまう。


「こりゃ参った。無視はいけねぇよ無視は。おじさん傷ついちゃったなぁ!これはお嬢ちゃんに癒してもらわねぇことにはいけねぇなぁ!!」


 どんな暴論だよ。まったく面倒くさいことこの上ない。


 私は大きくため息をつきながらその犯罪者を一瞥する。


「こりゃべっぴんさ…ん…お、お前はぁ!?」


 見た顔だった。


 と、いうよりしょっ引かれたんじゃないのかお前は。


 私の視界には一昨日ぶちのめした悪党の内の一人が驚愕を顔に貼り付けて佇んでいた。


「おやお兄さん先日はどうも。ところでお兄さんは逮捕されたんじゃなかったでしたっけ?」


「いや、その、あの、その節は大変お世話になりましてですね」


 私の問いかけに要領を得ない回答を返しつつ後ずさっていく悪党A。


「まぁ待ってください。さもないと…」


 私はそこで言葉を切ると丁度男の腰の高さまで持っていった手で何かを握りつぶすように強く握る。


「ひぃぃぃぃぃぃぃ!?」


 悪党Aは情けない声を上げ、襲撃する何かから守るように自らの股間に両手をあててへたり込む。


 私は目の前まで歩を進めると前髪を掴み無理やり顔を上げさせるとにっこりと笑い、


「さぁ、どういうわけか話してもらいましょうか?」


 と泣きそうな顔の悪党Aにすごんだ。


 幼女にすごまれるってのは人によってはご褒美かもしれない所業だが、どうやら悪党Aにとっては恐怖の対象でしかないようで、根掘り葉掘り包み隠さず全てを暴露してくれた。


 どうやらこの悪党Aは本当に悪党なわけではなく役者として生計を立てているとのこと。


 ある日依頼人が現れて私たちを襲うよう演技をして欲しいと頼まれた。


 依頼人はあくまでも仲介人で大元は分からないと。


 今日は一昨日の鬱憤を晴らすように思わずでた凶行であったと。


「もう言っていいですよ。こんなこと二度とするんじゃありませんよ?」


「はい!心を入れ替えて粉骨砕身役者業に精を出します!!」


 私は疲れてように手をヒラヒラと振りつつ悪党Aを解放してやる。


 悪党Aは腰を九十度まで曲げて一礼すると一目散に走り去った。


「さてと」と一人呟くと、周りを見渡して幼女の手には少し大きい拳大の石を見つけて拾い上げ。


「うーん、こんなもんでいけるかな?」


 あごに手を当てて考え込む振りをする。


 次の瞬間、私は後方の屋根に向けてノールックでその手に持つ石を投げつける。


 ビュンと音を立てて暗闇に消えていった石は一瞬の間を置いて何かにぶつかる音とともに「きゃっ!」と小さい悲鳴がした。


 ガラガラと瓦の上を転がる音がしたかと思うとその後、ドサッと何かが道に落ちてくる音がした。


 音の発信源まで急ぎ向かうと案の定、忍装束に身をくるむ私と差ほど変わらない小さな人影が倒れていた。


 私は一息に覆面を剥ぎ取るとネイアさんから報告を受けていた口内の毒を探した。


 目的のものは大人で言う所の親知らずの位置にあり、噛み砕くように出来ているのか硬いカプセルのような形状をしていた。


 即座にそのカプセルを取り上げると持っていたハンカチに包みポケットへとしまい込む。


 決して幼女の唾液まみれのカプセルが欲しいわけじゃなく毒の成分を調べる為なんですからね!


 私は誰にするわけでもない言い訳を心中で語ると近くにあった縄と使って忍装束の幼女を縛り上げる。


「よいしょっと」という掛け声とともに担ぎ上げて店舗へと走る。


 幼女が幼女を縛り上げて連れ去る。


 あまりに特殊すぎる情景に一体どこに需要があるシチュエーションなのだろうかと苦笑しながらも帰路を急いだ。


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