第七節 SIDE-アレク-
「なんですか!これは!!!」
ミワさんにお願いして初めて魔法を使った。
本当は治癒魔法が使いたかったけど、僕も父さんも怪我はしてないし、病気でもない。
そこで毎日の水汲みが楽なると思って、とりあえず水が出せるようになりたかったのでお願いした。
確かに水は出た。出はしたけど僕の想像をはるかに超える大量の水が。
僕たちの位置からちょっと離れたところに現れた水の柱は水量が衰えることなく出続けた。
ほんのちょっとの間ではあったけど、僕の足元まで水が流れてくるほどに。
確かに僕はマジョナリーキャリアーで普通の人の数倍の魔力量を保有するけど、それは最終的に出し続けることの量が多いだけで一回に出せる量が多いわけではない。
しかも感覚的にほとんど魔力を消費した感じはない。
あれだけの量の水を出したにも関わらず。
「本当にごめんなさい。どうも私の魔法の制御の仕方に問題があったみたいで」
ミワさんに2度も謝られてはこれ以上追求することは出来そうにないかな。
父さん曰く、精霊に制御をお願いするときも細かく指示を出すらしいし、その辺を全部ミワさんに丸投げした僕も悪い。
「いえ、僕の方こそごめんなさい。そもそもどれだけの量を出したいとか指定もしてなかったし…」
お互いに謝罪すると少しだけ暗い空気が流れた。
「いやーしかしすごい量の水が一度にでましたなーこれなら攻撃魔法にも転用できるんじゃないですかな?」
父さんが空気を変えるために提案してくれた。
ミワさんとの会話は僕の声だけしか聞こえないはずなのにこういうところに気が回るのは自慢の父さんだ。
「一度、私の魔法を見てからの方が息子も指定がしやすいだろうしちょっとだけお時間くださいね」
父さんはそう言うとぼそぼそと呪文のように呟き、精霊へ指示を送る。
「それじゃあいきますよ!ファイヤーランス!」
父さんの掛け声とともに矢のような形をした炎が近くの岩へと飛んでいく。
岩へと吸い込まれていた炎の矢は衝撃で四方に散った。
炎の矢がぶつかった箇所に小さなくぼみが出来ていた。
「私の精霊は炎の精霊でして基本的な系統は一般ですが、アレくらいの小規模であれば攻撃の系統も可能です」
父さんがミワさんに向けて簡単な説明をしてくれる。
視線は岩を見たままだけど。
「水の攻撃系統であればウォーターランスが初期魔法としてありますので、それをやってみてはどうでしょうか?」
更にさっきの水を排出したことから水の攻撃系統を教えてくれた。
普通の農家のはずなのになぜか父さんは魔法に関して博識だ。
家に魔術書があるわけでもないし、どこで知ったんだろう?
「アレク君。お父さんにありがとうございますと伝えてもらえますか?」
「はい。わかりました」
ふとミワさんが話しかけてきたので、僕は思考を切り替えた。
「父さん。ミワさんがありがとうございますだって。」
「いえいえ、どういたしまして」
父さんが笑顔で返してくれる。
やっぱり視線は岩を見たままだけど。
「それではアレク君。先ほどのお父さんのファイヤーランスを私なりにアレンジしてウォーターランスを制御してみますので、私がいいと言ったら発動してください」
「わかりました。お願いします」
アレンジ?なんか嫌な予感しかしないけど大丈夫かな?
僕は不安に苛まれながらも始めての攻撃魔法に心が躍った。
僕の後ろでミワさんが目を閉じて、何かをぶつぶつと呟いている。
そしてカッと目を見開くと僕に声をかける。
「いけます!アレク君発動して!」
「わかりました!いけ!ウォーターランス!」
僕の掛け声とともに水の矢が先ほどの岩へと向かっていく。
父さんのファイヤーランスより少し細くて長い。
あれ?なんかすごい速さで回転してる?
僕の疑問を余所に水の矢は岩へとぶつかる。
父さんのファイヤーランスのように四散することはなかった。
さっきの水の量から考えると岩が爆発しても可笑しくないと期待していただけに思った以上の静かな結果に僕は正直、拍子抜けだった。
それでも攻撃魔法が成功した喜びには違いなかった。
僕はそっと父さんを見る。
口を半開きにして固まっている父さんがそこにいた。
父さんがハッと気が付いて岩へ向かって走り出して、そのまま岩の裏側へとまわった。
「アレク!ちょっとこっちに来い!」
岩の反対側から父さんに呼び出された。
僕は教会での教訓を活かしてゆっくりとスタートしてから走り出した。
「どうしたの?」
「これを見てみろ」
父さんが岩を指差す。
そこには小さな穴が開いていた。
「ウォーターランスを打ち込んだところを良く見てみろ」
今度はさっきまで居た側へと回った。
こっちにも小さな穴があいている。
「まさか…」
僕はウォーターランスを打ち込んだ方の穴を覗き込んだ。
完璧に貫通していた。
大人が二人手を繋いでもぐるっと回りきらないほどの大きさの岩を貫通していた。
「父さん。ちょっといいかな」
「アレクよ。言いたいことは分かっているつもりだ。その上で答えよう。それはありえない現象だ」
「やっぱり!!」