表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/159

第三節 SIDE-アレク-

 昨晩から遊びに出かけた美和さんとバルトが戻らない。


 なんでも元の世界と同じような町だとはしゃぎながら出かけていったのが夕方頃。


 日が落ち夕飯時になっても戻らなかった美和さんたちを俺はきっと懐かしい空気に当てられて時間も忘れて遊んでいるのだろうと気にもしなかった。


 夜も更けそろそろ深夜に差し掛かろうというところで流石に心配になりネイアとオグマに捜索をお願いした。


 しかし、一向に手がかりは掴めず遂には朝を迎えることになった。


 一晩中町を捜索してくれたネイアとオグマはそれぞれの部屋で休息を取ってもらっている。


 俺はとてもじゃないが寝ていられるような状態ではなく、二人の帰りをじっと待っていた。


「アレク。このままは貴方が参ってしまいます。少しでもいいから寝たほうが良いんじゃないですか?」


「そうは言うけど、ミリアだって寝てないだろう?君こそ休んだほうが良いと思うけど?」


「ですが、アレクはこの後就任先へ挨拶に伺うのでしょう?隈はメイクで誤魔化せても疲れから来る覇気の無さは相手にも伝わりますよ?」


「うっ、それを言われると…そうだね、それじゃあ悪いけど少しだけ休ませて貰うよ」


「えぇそうしてください。美和様やバルトが戻りましたらご報告に上がりますわ」


 俺はリビングルームから隣のベッドルームへ向かうべく入り口付近の扉へ手をかけた。


 丁度その時、入り口の扉側からノックが響いた。


 ノック音の主はこちらの返答を待つことなく喋り始める。


「アレク=エクルストン様はいらっしゃいますでしょうか?」


 俺に客?こんな朝早くに?


 どちらにせよ相手にしないのは不味いと思い、ミリアに目配せを送ると扉を少しだけ開けた。


「アレクは私ですが何用でしょうか?」


 扉の前に立っていたのは街中で何度か見かけた警察機関で肩に水色の羽織かけた『新撰組』だった。


 美和さん曰く前の世界でも実在した組織だったらしい。


「失礼。アレク=エクルストン様のお連れ様の件でお話がございますので、ご同行願いませんでしょうか?」


 お連れ様って…もしかして美和さんとバルトの事?


 昨晩戻らなかったのは何かやらかして逮捕されてるの!?


 俺は「はぁぁぁぁ」と頭を抑えてため息をつくと「準備をしてきます」と言い残し室内へ戻る。


 室内へ戻るとミリアが心配そうな顔でこちらを見つめていた。


 上着を取るべくクローゼットへ向かう途中でミリアには「美和さんとバルトが捕まった」と「これから話に向かう」事だけを手短に説明した。


 ミリアは一瞬だけ目を見開き驚愕するも直ぐにいつもの笑顔に戻り小さく「お気をつけて」と告げた。


 俺はミリアの目をみて頷くと、上着を羽織り扉を開けた。


「お待たせしました。行きましょう」


「お手数をお掛けします」


 新撰組と短いやり取りを行うと先導され都の中心部に程近い『御所』へと向かった。


 前後を固められて、まるで逮捕されたかのように歩く様は早朝とはいえそこそこ人通りのあるメイン通りではそれはそれは目立った。


 その恥ずかしさからあとでバルトを一発殴ろうと心に決めた。


 御所へ到着し門をくぐる時に何故か複数の視線を浴びることになり、あたりに緊張が走った。


 特に問題なく門を潜り終えると新撰組の面々から緊張した空気が緩和された。


 なぜ門をくぐるだけでこんなに注目されなきゃいけないのか俺は怪訝に思いながらも御所内の一室へ通された。


 四方が紙の扉で囲われて、床には草のマットが一面に敷かれた室内に二つ四角いクッションが置かれており、その一方に座るよう指示を受けた。


 皇国の人が得意とする『正座』とやらにチャレンジしてみたけど直ぐに脚が痛くなったので失敗に終わった。


 仕方なく俺はドカッと据わり脚を軽く曲げて半ば投げ出すように座った。


 暫くすると俺が入ってきた横開きの扉とは反対側の扉からやけに型が角ばった服を着た人がズボンの裾を引き摺りながら現れた。


 その人は俺を一瞥すると一瞬眉を顰めたがこれといって何を言うわけでもなくもう一つのクッションの上に綺麗な正座で座る。


「此度はご足労頂き誠に申し訳ない。某はこの御所で奉行を務めている『南条藤次郎』と申す者。そちらはアレク=エクルストン殿とお見受けするがお間違いなかろうか?」


 背筋をスッと正し、良く通る声で俺へと問う。


 この部屋に居るのだから間違いもなにも無いだろうになんかやけに芝居がかったような印象を受けた。


「はい。王国の研究員で技術支援の為にやってまいりました、アレク=エクルストンです」


 それでも聞かれた以上答えるほかない。


 南条さんは目を閉じると腕を組みゆっくりと頷く。


「早速ではあるが本題に入りさせて頂きたい。現在御所ではそちらの義妹と名乗る者と従者の二名をお預かりしておる」


 あちゃーやっぱり捕まってたか。


 それにしても義妹って美和さんはセイルを名乗ったのか。


 まさか『最上美和』を名乗るわけには行かないから分からないでもけど。それにしても美和さんが妹って。


 俺はその様子を想像すると何故か面白くて小さく笑ってしまった。


 それが南条さんには侮辱されたと捉えたのか表情にこそ現れていないが隠し切れない怒気が言葉の端々から漏れている。


「何が可笑しい!?まさか良からぬ事でも企てておるとでもいうのか!?」


「いえ、そんなことはありません。ただちょっとした思い出し笑いです。不適切な態度であったことは認めて謝罪いたします」


 俺は素直に自分の非を認めると頭を下げて謝罪した。


 南条さんからはそのとげとげしさが多少取れはしたがまだちょっと怒っているご様子だった。


 それをリセットするかのように一つ咳払いをすると話を続けた。


「うむ。そちらの謝罪を受けよう。しかし次はないぞ?」


「肝に銘じておきます」


「それでその二名についてなのだが、身分詐称の容疑がかけられている」


「身分詐称ですか?お話を聞く限り私の義妹と執事であることは間違いないと思われるのですが」


「いえ、その身分ではなく。そうだな種族を偽っていると言った方が分かりやすいか?」


 南条さんは片眉を吊り上げると怪訝な表情で問いかけてきた。


 なるほどそういう事ね。経緯は分からないけど二人が人外であることがバレたと。


 特にバルトは魔族だし、あまり良い印象が持たれない事は明白だ。


 それを俺が知らずに雇っているのか知っていて隠蔽しているのかを確認したいわけだ。


 だったら遠まわしに言わずに直球で聞けばいいものを。これが皇国の独特な言い回しなのか?


「あぁそれでしたら問題ありません。バルトは魔族ですが、私に忠誠を誓っておりますので。もしお疑いなら本国へ問い合わせえて頂いても構いませんが」


「ほぉ!左様でしたか、某はてっきりエクルストン殿が騙されているものかと下手な勘ぐりをしておりました」


「いえいえ、ご心配をお掛けしたようで申し訳ありません」


「こちらが勝手にやったこと。むしろそちらにとっては要らぬ世話だったというわけですな」


 はっはっはっとお互いに笑い合う。


 しかし何かに気が付いたように南条さんはスッと笑いを止めると再び真剣な眼差しを向けてきた。


「バルト殿の件は承知しましたが、義妹殿の件はどうご説明なさる?」


 あっ、不味い。


 美和さんの方はがっつり国家機密に関わる上にまだ所長へ報告していない内容だ。


 ここでバカ真面目に語ってしまっては研究結果の隠蔽が所長ひいては英雄王様にバレかねない。


 だからと言って今すぐ完璧なカバーストーリーが用意できるほど話術に卓越しているわけでもない。


 嘘をついてバレた時の方が数倍不味いことになるのは明白だ。


 俺が笑顔のまま返答に困って固まっていると、南条さんの眉がどんどん釣りあがっていく。


「ん?どうなされた?エクルストン殿?ご説明願いえますかな?」


 膝立ちになった南条さんはそのままの体勢で詰め寄ってくる。


 もう互いの顔に息が掛かるほどの距離だ。


「それはその…」


「それはその?どうなされた?」


「趣味です!!」


 咄嗟に皇国への道中で美和さんとバルトが語っていた『ロリ道』とやらが頭を過ぎり、思わず口に出た。


 南条さんはあまりの発言に声すらも出さず呆けている。


 これ幸いと有無を言わさぬ断言で勝負を決めに掛かる。


「趣味なんです!」


「しゅ、趣味とな?」


「はい!趣味です!」


「趣味にしては随分と幼い容姿をして…」


「皇国では幼い容姿の『無機物』を保有することに罰則を与えるような法律でもあるんですか?」


「いや、そのような法律はないが…」


「なら問題ないと思いますが!!」


「う、うむ。確かに?」


 なにやら釈然としないものの何とか理解しようと勤める真面目な南条さん。


 どんなに考えても答えは出ないと思いますよ?なんせ言っている俺ですら訳が分からないんですから。


「原理は国家機密ゆえ話せません!外見は趣味です!以上!!」


 前のめりになりながらも熱弁する俺に対して一歩後ずさりする南条さん。


 何かを理解するに至ったのかはたまた理解することを諦めたのか壊れた人形のようにカクカクと何度も首を縦に振っている。


 勝った。何に勝って何に負けたのか分からないけど。とりあえず話は終わった。


 俺はゴホンと咳払いを一つすると前のめりだった体勢を戻し、先ほど同様に四角いクッションの上に着席した。


 南条さんもなんとか脳の再起動を果たし向かいのクッションへを座り直した。


「そ、それでは二名?ともエクルストン殿の責任下に居る者と考えてよろしいか?」


「それはもちろん。責任を持って身分の証明を致します」


「あいわかった。それでは釈放の手続きを取らせて頂く」


「よろしくお願いします」


 南条さんが手を叩くとずっと控えていたのか俺の後ろの扉が開き最初に案内をしてくれた男性が顔を出す。


「南条様。何用でございましょうか?」


「先の二名の釈放が決まった。エクルストン殿をお連れしろ」


「はっ!それではエクルストン様こちらに」


 男性はそういうと俺が立ち上がるのを待って別の場所へと案内してくれた。


 退室の際に南条さんの「世の中には珍妙な趣味もあるものだ」という呟きを耳にした気がしたがこれ以上心を痛めたくなかった俺は聞かなかったことにした。


 案内された先は内庭だった。


 一面に砂利が引き詰められており、所々に四角いや丸い石版が埋め込まれている。


 2mほどの高さの塀に間際には様々な木々が植えられておりみな綺麗に整えられていた。


 俺と反対側の扉から現れた美和さんとバルトを視界に入れると俺は二人に向かって走り出した。


 そんな俺の行動を見た二人はそれぞれ別々の行動を取る。


 美和さんは案内人の後ろに隠れ、バルトが感動の再会と勘違いしたのか両手を広げ待ち構える。


 さて、この行動で正解なのはどっちでしょう?不正解者はその身をもって思い知るがいい!!


 俺は走りながら矢を引き絞るように右手を大きく振りかぶりと拳を作るとバルトの左頬へ全力で打ち放った。


 まさに助走をつけてぶん殴るってやつだね!


 無防備な顔面に拳を叩き込まれたバルトは綺麗な弧を描き背中から地に落ちると数回のバウンドの後、静かにその意識を手放した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ