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第一節 SIDE-アレク-

 王都への召集命令から始まった一連の騒動は黒幕であった帝国軍中尉―パク=シジョン―の処刑という形で幕を閉じた。


 帝国へは正式に外交筋から抗議をしたが返答は『そんな人物は軍籍に居ない』とのことだった。


 嘘であることは誰に目にも明らかだったが、正式に受けた回答である以上批判するわけにも行かなかった。


 さらに帝国はパクを『軍籍を偽った罪』として指名手配することで、犯人の受け渡しを要求してきたがもちろん王国はこれを拒否。


 両国の関係は冷え込むこととなった。


 主犯であった魔族の―ライコフ=ペーツェル―は表向きには処刑されたことになっており、一度この世界から姿を消した。


 現在はその名を『バルト』と変え執事となるべく我が家の専属メイド―ネイア―の厳しい訓練を受けている。


 また事件の被害者であった十六名の少女のうち十三名は身元が判明し親元へ帰されているが、もともと孤児であった三名―アニー、シャル、ケーネ―は我が家のメイド見習いとして従事している。


 三人とも仕事柄よく屋敷内でバルトと顔を合わせるが事件の記憶が薄いのかあまり気にしている様子はなかった。


 俺―アレク=エクルストン―は妻―ミリア=エクルストン―ともに領都から王都へ移り住み、英雄王―ジョン=アルノート=レミントン―様から事件解決の褒美として貰い受けた屋敷での生活を始めている。


 当初、義父―カイン=エクルストン―からは猛反対を受けたが、英雄王様の王命であることが決定打となり泣く泣く許可が出ることとなった。


 しかし交換条件として義妹―セイル=エクルストン―が同伴することになったが。


 セイルは頻繁に王宮へ通っており第二王女―ローラ=アルノート=レミントン―様との仲を深めている。


 領都で行っていた商いは実父―ケイト=コールフィールド―に半分無理やり預けた。


 義母―ニーナ=エクルストン―の手助けもあり何とか形になっているようだ。


 王宮付き研究所『錬金宮』に入所することになった俺だが、その研究内容が英霊―最上美和―様から与えられた異世界の技術である為その秘匿性が高く特別に自宅での研究が認められていた。


 現在は所長の依頼で前回の事件で改修した自動人形を遠隔操作で運用することができないか?を主題として研究を行っている。


 ぶっちゃけ美和さんとバルトのおかげで実験自体は一発で成功しているが、誰がどう考えたってこんな技術が一般的になれば戦争のあり方が一変してしまう。


 例え王国が採用しなかったとしても情報が帝国へ流出しようものなら、頑丈で死ななくて命令に忠実で壊れても修理可能な無敵の兵士として即時戦争に投入してくる様は火を見るより明らかだ。


 そうなれば再び侵略戦争を仕掛けてくるだろう。そうならないように少しずつ小出しに報告しているんだけど、どうも報告先の所長にはそれが感付かれているような気がする。


 その副産物として…というかこっちが本命なんだけど、なんとか美和さんを自動人形に憑依させることが出来ないかという研究を続けている。


 魔力暴走時に人類が英霊をその身に取り込む事象があることはミリアで証明されていたので、それであれば人類にほど近い状態まで成長した自動人形であれば英霊が憑依することが出来るのではないか?とバルトが言い始めたことが発端だった。


 結果、限定的ではあるけれどあっけなく成功した。


 これによって少女の姿ではあるけど美和さんが自動人形に憑依することで俺やバルト以外にも意思の疎通が取れることとなった。


 最初は皆と話が出来ることに涙を流して喜んでいた美和さんだけど最近は憑依していると疲れるからと霊体のままで居ることのほうが多い。


 本当にこの人はグータラな英霊様だよ。まぁ美和さんが自動人形に憑依していると俺は魔法が使えなくなるのでいつものように近くで浮いてくれていたほうが助かるのは事実だけども。


 そして今日は月に一回の報告日で通算、四回目の報告となっていた。報告が終わるたびに「まだあるだろう?」と思わせる所長の視線に晒されると胃に痛みを感じる。


 俺は専属護衛部隊隊長―オグマ―に屋敷の留守を預けると痛む胃を抑えながら重たい脚を引きずって一人『錬金宮』へと向かった。


 いつものように門前の守衛室で入場手続きを終え、所長室へと歩を進めようとしたところ一人の守衛に呼び止められた。


 守衛曰く所長は自室でなく応接室にいるらしく俺もそこへ呼ばれているとのことだった。


 俺は不思議に思いながらも守衛に別れを告げ応接室へと急ぐ。


「アレク=エクルストンです」


「入りたまえ」


 応接室へ到着した俺はコンコンとノックし名乗りを上げると室内からは入室を促す所長の声がする。


 俺は「失礼します」と告げながら自ら扉を開けて室内へと入る。


 応接室には所長のほか知っている顔が一名居た。


「久しぶりだね。アレク君」


「カイン様!どうしてここに?」


「今日はメッセンジャーとしてやってきたんだよ」


 カイン様はニヤリと笑うと懐から一枚の羊皮紙を取り出すとその封印を解く。


 羊皮紙には王家の門で封印がされており、その様子から王命であることは予想が付いた。


 カイン様はゴホンと一つ咳払いをすると封印を解きその中身を読みあげた。


「『錬金宮』所属、アレク=エクルストン。ただいまより東方の皇国へ出向き技術支援員としての職務を与える」


 最後に王命である証拠にカイン様は羊皮紙をこちらへ向けると書類の末尾に英雄王様のサインがある事を俺に確認させた。


 確認を終えた俺は書類に敬礼を向けると復唱し王命を受ける。


 王宮付きの研究員は王都の兵としての職務も兼務する為王命に対しては軍属であり上司は上官でもある。


 その為、全ての礼は敬礼によって執り行われる。


 カイン様も元研究員である為、現在は予備役となる。


 今回のように王命を運ぶ伝令役を担っている以上、返礼も敬礼となる。


 義理の親子で敬礼しあうその姿はなんとも様にならないような一種の喜劇のようだった。


 カイン様が耐え切れず噴出すまでにそう時間は掛からなかった。


 おかげで応接室内のピリッと張り詰めた空気は一瞬にして崩壊した。


「すまない。なにか可笑しくてな。さて、アレク君。今回は東方への出向だ」


「そのようですね」


「皇国について知識はあるかね?」


「人並み程度には持っていると思います。なにせ教師が目の前にいますから」


「ははっ。それはそれは優秀な教師に恵まれたものだな!」


 俺の返答に満足げに笑うカイン様。


 だが直ぐに真顔に戻ると声を抑えて忠告した。


「皇国は今、クーデターを企てている将軍が居るという情報も入っている。十分に気をつけていくのだぞ?」


「はい。ありがとうございます」


 俺はカイン様と握手を交わすと応接室を後にした。


(皇国ってどんな国なんですか?)


 屋敷への帰路の途中、美和さんから問いかけがあった。


 俺は念話で対応する。


(皇国というのは一昔前まで入国を厳しく制限していたのでその文化が独特な国ですね)


(ほうほう。まるで鎖国していた日本みたいですね)


(へぇ日本って確か美和さんが居た異世界の国ですよね?)


(えぇそうです。私の国も二百五十年間ほど鎖国をしてまして、ものすごく独創的な文化が今でも残ってますよ)


(ふーん。皇国と同じようなところみたいですね。あぁそれで皇国はちょうど百年くらい前に入国制限を撤廃し他の国と交流を持つようになったんです)


(おぉ文明開化の音がしたわけですね)


(なんですか文明開化って。それでいまは急激に魔法学が進んでるところで我が国からも定期的に技術員が派遣されてるんです。ただ…)


(ただ?)


(どうも他国との交流を制限していた時期に内戦につぐ内戦で国民ほぼ全員が戦闘集団みたいなところなんです)


(うわー戦国時代まっしぐらだ)


(それに言葉がすごく独自で魔法の呼び方が『オンミョウドウ』と言うらしいですよ)


(ちょっと待ってください。いま陰陽道と言いました?)


(えぇ、確かにオンミョウドウといいましたよ?)


(何ですって!?)


 美和さんは驚きを顔一杯で表現するとそのまま黙ってしまった。


 話しかけれる雰囲気ではなかったので、暫くその場で立ち止まり次の言葉を待つことにした。


 優に一分ほど考え込んだだろうか、美和さんがその顔を上げた。


 いつに無く真剣な表情に俺は思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。


(アレク君、恐らくですが皇国のそれも国の中枢に関わるほどの人物に転生者が居たもしくは現在も居る可能性が高いです)


(どういうことですか!?)


 今度は俺が驚く番だった。


(実は『陰陽道』とは私の世界にあった魔法のようなものなんです。真贋は定かではありませんが魑魅魍魎を使役しともに戦ったなどの文献も残っています)


(美和さんの世界の魔法…)


(どちらにせよ、気をつけるに越したことはありません。あとは今回の出向ではライコフ…じゃなかったバルトを連れて行きましょう。きっと役に立つはずです)


(分かりました。とりあえず屋敷に帰って準備をします)


 俺は焦りからか居ても立っても居られなくなり思わず走り出す。


 途中何度も人にぶつかりながらも息も絶え絶え何とかたどり着いた。


 転がるように駆け込んだ俺を心配そうに慌てて出迎えてくれたオグマに皆を広間に集めるよう告げる。


 広さこそはそこそこあるものの、そう多くない人数しか住んでいない屋敷だ。


 全員が集まるまで十分も掛からない。


 アレクから詳細を告げられたメイド見習いを含む総勢十二人はそれぞれの思いを胸に旅の準備を進めるべく広間を後にする。


 一人広間に残ったアレクは「はぁぁぁぁぁ」と長いため息をつくと一言ぼやく。


 どうしてこうなったと。


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