第二十節 SIDE-美和-
全くこの積極的ラッキースケベ君には困ったものですね!
そこら中でフラグ建てるし、隙あらばボディータッチの嵐です。
抱き合っていた二人は置かれていた状況に気がつくとバッとはなれましたが、いまは私の眼下でテレテレとなにやらぎこちない空気をかもし出す始末。
恥ずかしがるなら最初からやるなってもんですよ。
まぁ抱きつかれたネイアさんがそっとアレク君の背中に手を回したのを見逃しませんでしたけどね!
それにしてもついにネイアさんまで陥落するとは。
この一級フラグ建築士は何処まで行くつもりなんでしょうかね?
そのうち刺されてもしりませんよーと。
そう遠くない修羅場を幻視しながらも今回の状況確認といきましょうかね。
自動人形とやらを解析した結果ですが、どうやら通常の人間と同じように生体反応がありました。
これの所為で私は人間だと勘違いすることになったわけですが。
では、なぜ生体反応があるかってことですけども、どうやら魔力を移設する方法というのが成長酵素を持つ細胞核を移設することみたいなんです。
つまり、自動人形の中で細胞分裂が行われ人間と同じように徐々に生体を獲得していくということになります。
そりゃ人間と同じ生体=魂と定義するのであれば自然な振る舞いが出来るようになるでしょうよ。なんせほぼ人間になっていくんですから。
じゃあ成長酵素を抜かれた側はどうなるでしょうか?
細胞単位で考えると人は一定周期で生き死にを体験していると言えます。
一説には数年で全ての細胞が入れ替わるとも言われているほどです。
これが新陳代謝といわれる現象です。
ではこれから死を迎えようとしている細胞がいるとしましょう。
本来であれば新たに生まれた細胞にその役割をバトンタッチするわけですが、成長酵素が底を尽き新たに細胞が生まれていないとしたら?
簡単な話ですよね?その部分の細胞は無くなってしまいます。
これが繰り返されいずれ生命を維持出来ないほど細胞が死滅してしまえばその肉体は死を迎えます。
徐々に起こるこの現象を老化と呼びます。
通常の場合、この老化は体の全身で起こるわけですが病気や外傷で一部分だけで発生した場合はどうなるでしょう?
皆さんもご存知だとは思いますが、凍傷などに代表される部分壊死となります。これが今回でいう部分欠損の原因です。
さぁここからが本題です。
自動人形が成長酵素を持ったまま死滅してしまえば本体である少女たちの肉体の死は避けられません。
ではどうすればいいのか?もうわかりますよね?
魔力=成長酵素の移設をもう一度行えばいいんですよ。自動人形から少女たちへと。
そうと分かれば行動開始です!
相変わらず私の眼下でテレテレしているアレク君を促し、自動人形を一体一体スキャンにかけていきます。
ほぼ同じ構造をしておりましたが一部分だけ反応が違う箇所ありました。
ここが成長酵素をもつ細胞ですね。
幸い全ての自動人形で反応があった場所は同一箇所です。
(アレク君。自動人形の頭部だけを残して破壊してください)
(頭部だけですか?)
(えぇ、頭部に魔力の源があるんです。そこだけ残しておけば後で少女たちを助けることが出来ます)
(本当ですか!良かった!!)
全身を使って喜びを表現するアレク君。
また抱きつくんじゃないかと思いましたが、今度は自重したようです。
しかし今回スキャンして分かったことなんですが、何故か私の魔力は地下にまで届かないようです。
原理は分かりませんが、地下室があることはわかるのに中まで入り込めないようななんとも奇妙な感じです。
恐らく魔力が届かないということは私自身が地下に行く事も出来ないでしょう。
魔力の移設を行う時は細胞の劣化も防ぐためにもなるべく近くに居たほうが良いと思われます。
そうなると一度少女たちを地下室から連れてきてもらう必要がありますね。
地下牢がどれほど安全が分かりませんが、戦闘になったりライコフが自暴自棄に陥って少女たちを人質に立てこもろうものなら目も当てられない事態に発展することは間違いありません。
となるとまずは少女たちの救出が最優先ですが、残念なことに少女たちは屋敷を出ることが出来ません。
さて、困りましたよ。
少女たちの安全を確保したいが地下牢から動かすわけにはいかない。
なにか良い作戦はない物かと思案していると屋敷のほうからものすごい音が当たりに響き渡りました。
何事かと視線を向けてみると体をくの字に曲げたライコフが屋敷の壁をぶちやって外へと吹き飛んできていました。
その後まるで水きりの石のように四回ほど地面をバウンドするとズザーと音を立てて、停止しました。
四肢をぴくぴくと痙攣させて地面に横たわるライコフ。
屋敷に空いた穴の奥を覗き込むとメイド服姿のセイルちゃんがその小さなお手手を拳に変えてそれは見事な綺麗な正拳突きを放っておりました。
ゆっくりとした動作で構えを解くと、顔に影を落としながら一歩一歩踏みしめるように歩き出したセイルちゃん。
その背後には禍々しいオーラを幻視してしまうほどの威圧感があります。
吹き飛んできたライコフですが、流石に一撃では意識を刈り取ることが出来なったのか打撃ポイントであっただろう腹部を擦りながら起き上がろうとしています。
それを見たセイルちゃんはライコフに向かって走り出しました。
丁度立ち上がろうとしているライコフはスクワットの途中のような体勢でした。
ライコフの目の前まで近づいていたセイルちゃんはその膝へ左足を乗せると右足を踏み切り飛び上がります。
そのまま右ひざで横から突き刺すようにライコフのあごへと狙い済ました一撃を放ちました。
かの武藤○司の必殺技!シャイニング・ウィザードです!
あごを打ち抜かれたライコフは脳震盪を起したのか再び後方へ仰け反り背中から地面に沈みました。
しかし、今日のセイルちゃんはこれだけに留まりませんでした。
ライコフの両足を脇に抱え込むを自分を軸としてぐるぐると回転し始めました。
そう!ジャイアントスイングです!
回転速度も最高潮に高まった瞬間ライコフの脚を開放して放り投げます。
ただし地面と平行ではなく上空に向かって。
意識が朦朧としているであろうライコフは壊れたおもちゃのように力無く空高くへ上昇していきます。
更にセイルちゃんは自ら投げ飛ばしたライコフを上空でキャッチすると右腕を使って首を抱え込むようにホールドしました。
地上にいる私からはセイルちゃんの背中とライコフの頭頂部が見える形です。
セイルちゃんはその状態のまま背中から地面へと突撃していきます。
これは前にも見たことある光景ですね!
セイルちゃんの必殺技、直下型雪崩式D・D・T!!!
地面に対して垂直に突き刺さったライコフは頭を中心として膝から地面に着地するように崩れ落ちました。
人体の構造上、脳天と膝の二点で着地していると当然、腰が一番高い位置になることになります。
セイルちゃんはこの腰を後ろから両手で抱え込むと力いっぱい後ろへ引っ張ります。
その反動を利用してブリッジへとその体勢を変えていくセイルちゃん。
ライコフの体は遠心力によって四肢を投げ出し唯一固定されている腰を中心に半分に折れ曲がっています。
完全にブリッジが完成することには遠心力+加速度のダメージは全て一点に集中し地面へと接地していました。
身長差の関係からセイルちゃんの頭頂部より先に到達することになったライコフの後頭部へと。
お手本のようなブリッジが織り成す芸術的なジャーマン・スープレックスが神々しく顕れた瞬間でした。
レフリー不在の為カウントは入りませんが、完全ホールド状態を三秒以上維持したセイルちゃんは試合終了のゴングを待つことなく静かに立ち上がり拳を上空へと突き上げ勝利宣言を成しました。
あまりにも華麗な連続技に私たち三人は作戦中であることを忘れ、惜しみない拍手をセイルちゃんにささげておりました。
その拍手の音でこちらに気がついたのかセイルちゃんはこちらに振り返り一言。
「お兄様。確保を」
「あっ、うん、わかった」
アレク君は隠れていた森の中から出て行くと毎度お馴染みのワイヤーでライコフを拘束しました。
拘束の最中、終始小さく震えていたのは感動からかはたまた恐怖からか。
私からではその判断はつきそうにありませんでした。




