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第十四節 SIDE-ミリア-

 荒れ狂う雷が止まったかと思うと芋虫のように蠢く魔族をアレクが締め上げるとこ二回。


 途中魔族が悲鳴をあげていましたが、いまではそれも無くなり静寂があたりを支配しております。


 のた打ち回っていた魔族はぐったりとしており、ある程度距離のある私からではその姿は完全に事切れたような状態でした。


「ネイア。回り込んでローラ様を確保して!」


「はっ!」


 私はアレクから目を離さずに指示を出すと、ネイアは短く返事をするとその気配をスッと消えた。


「セイル。ネイアがローラ様を確保したらアレクの元へと走りますよ」


「分かりました」


 セイルが私の直ぐ横で了解の返事をよこす。


 オグマへの指示は特に必要ないだろう。


 本来であれば彼らのほうが私よりもこのような事態では指揮に回るほうが適任なのですから。


 視界の端居るローラ様の下にネイアがたどり着いた事を確認した。


 しかしその場から動かないところを見ると恐らくアレクが防御壁でも生成したのでしょう。


 それであればあちらはネイアに任せておけば問題ありませんね。


「セイル行きますよ!」


「はいお姉様!」


 私たちは隠れていた木の根を飛び越えるとアレクの元へと飛ぶように駆けていきました。


 200mほど離れておりますので、通常の女性であれば四十秒ほど掛かるところでしょうが肉体強化をされている私たちではものの十秒程度で到着する程度の距離です。


「アレク!」


「お兄様!」


「ミリア!セイル!合流できて良かったよ」


 私はアレクに自分の名前が先に呼ばれたことに少しだけ優越感に浸りながらも戦闘中である以上、即座に思考を切り替え足元に転がっている魔族へ注視しました。


 胸が上下していることからどうやら意識が無いだけで生存はしているようでした。


「そういえばあちらにローラ様が避難なされてるよ?」


「えぇ、そちらはネイアを行かせております」


「そっか。じゃあ大丈夫そうだね。防御膜を解除しておこうか」


 一秒ほどの間をおいてローラ様が避難なされていた方向でパリンと何か硬質なものが割れる音がすると、ネイアがローラ様を連れてこちらへやってきました。


 私はローラ様の元へかけより、両膝を付いて目線の高さを合わせるとその震えている小さな両手を私の両手で包み込みました。


「ローラ様。お怪我はございませんか?」


「はい。アレクさんが守ってくれましたので…」


 ポッと両頬をうっすら赤らめるローラ様をみて、私は心中で「またか…」と呟きました。


 別にアレクが悪いわけではないのは理解しますがどうしてもふつふつと沸いてくる怒りの感情は押さえ込めることが出来そうにありません。


 それでも相手は王族。なんとか笑顔を搾り出し笑顔でお答えしました。


「それは大変よろしいかと。我が夫、アレクも任務を全う出来て喜ばしいことでしょう」


 それでも少しだけ『我が夫』に力が篭ってしまうのはご愛嬌という事でゆるしてください。


 私はスクッと立ち上がるとネイアへ視線を合わせました。


「ネイア。ローラ様を安全のところへ」


「畏まりました」


 深くお辞儀をするネイアへ向かい頷くと今度はセイルへ視線とあわせました。


「セイル。ローラ様の護衛をお願いします」


 セイルは一瞬だけアレクを見ると少しだけ悩みそれでも大きく頷くと、その特殊なヘルムを取り、


「畏まりました」


 と一言言い残し、ローラ様に寄り添い歩き出しました。


 これでようやく本題に入れそうです。


 私は足元に転がっている魔族を指差すとアレクへ問いかけました。


「この魔族が今回の犯人ですか?」


 アレクは少しだけ苦い顔を作ると応えました。


「どっちかっていうと黒幕。実行犯はさっきコイツに消されたよ」


「黒幕?では他に被害者が居る可能性が?」


「あぁ間違いなく居るだろうね。だから拷問でアジトを聞き出そうとしたんだけど、やりすぎて気絶させちゃった」


「なるほど。では回復させますか?」


「そうだね。お願いするよ」


「任せてください」


 私は魔族に手を翳すと回復魔法を使用しました。


 英霊様と取り込んでからと言うもの私自身が使用する魔法をイメージする必要がありましたが、情報の共有が必要なくなったことで無詠唱かつタイムロスなしで魔法が発動するようになりました。


 いまはアレクを通じて美和様から指導を受け絶賛練習中です。


 結果、問題なく魔法は発動し魔族はその意識を取り戻しました。


 その表情からは怯えが見て取れ、アレクがどれほど恐ろしい苦痛をこの魔族に与えたのか想像を絶する思いでした。


 まぁ私でしたらアレクの責め苦などむしろ快楽にかえて…いえ何でもございません。


「さて、ライコフ。アジトの場所を吐く気になったかい?」


 アレクはあえて明るい雰囲気を演出して笑顔で魔族へ問いかけております。


 ですが、魔族はそのアレクから逃れるように体を丸めて全身をガタガタと震えさせておりました。


 アレクがふぅと小さくため息をつくと、少し上方を見据えて問いかけました。


「美和さん。もう一度いっちゃいますか?」


 どうやら美和様と会話をしているようでいた。


 いつもなら緊急時以外は念話で話していることを考えるにあえて魔族へ聞かせるように声に出して会話をしているのでしょう。


 その瞬間魔族は全身をビクッと震わせて叫び出しました。


「マッチョは!マッチョはもう勘弁してくれぇぇぇぇぇ!!!!????」


 マッチョ?拷問でマッチョ?一体どういう事なのでしょうか?


 私の知識が足りないのかはたまた美和様の世界にある新しい拷問の一種なのでしょうか?


 私が思考の渦に飛び込んでいるとアレクが話を進めておりました。


「なぁライコフ。俺だって別にお前を苦しめたわけじゃないんだ。ただ一言アジトの場所を教えてくれるだけでいいんだよ」


 魔族はアレクから問いかけられてもその口を割る事をしませんでした。


 どうしたものかと半分諦めの空気も流れつつありました。


 その時、アレクが驚きの声を上げました。


「えぇ!?そんなことで!?セイルにですか…うーん、ちょっと本人に聞いてみます」


 どうやら美和様からなにやら解決方法が示唆されたようですが、セイルがキーを握るようです。


 あんな子供にどのような責め苦をさせるというのでしょうか?


 私は心配になりながらも美和様を信じ、見守ることにいたしました。


 やがてアレクがセイルを連れ立って戻ってまいりました。


 セイルの表情はあまり良いとは言えず、やはり拷問に対する拒否感を感じているのでしょう。


 しかしセイルはアレクの役に立ちたい一身で決心すると行動に移しました。


 全身を縛られ芋虫のように横たわる魔族の頭部辺りに座り込むと自らの左手を魔族の右頬へそっと宛がうと一言。


「ライコフお兄ちゃん!セイルにお兄ちゃんのおうちにあそびにいきたーい!」


 私はその双眸が零れ落ちるのではないかというほど目を見開き、驚きを隠せませんでした。


 あのセイルがまるで媚を売るかのように猫なで声で魔族に迫っているではありませんか。


 一瞬、気でも狂ったか?もしくは魅了でもうけたのか?などと色々な思いが頭を駆け巡りました。


 アレクを見ても魔族を無表情で眺めるだけで特に何も致しません。


 私がどうしたものかと途方にくれていると魔族がぶるぶると全身を震えさせ始め次の瞬間大声で叫びだしました。


「エェェェェェェクセレントォ!!!いいでしょう!セイルちゃん!!お兄ちゃんとおうちに行きましょう!!さぁ!今すぐに!ハリー!ハリー!ハリー!ハリー!ハリー!」


 何でしょうこの嫌悪感の正体は?


 この魔族が口を開けば開くほどゾワゾワと全身を駆け巡るように寒気と嫌悪を感じます。


「えぇーそれでもーおうちの場所が分からないとーセイル遊びにいけないよー?ねぇねぇセイルにお兄ちゃんのおうちの場所をおーしえて?」


 吐血するかと思いました。


 いえ、吐血の変わりに魂が口から抜け出したような感覚に陥りました。


 私は夢でも見ているのでしょうか?むしろ夢であって欲しいと心のそこから願います。


「もぉ!セイルちゃんはわがままですね!仕方がありません、我が家はですね………」


 そこからは異様なほど早い語りで魔族は次々とアジトの情報を吐き出しました。


 セイルは時々目が全く笑っていない笑顔で相槌と打ちさらなる情報獲得を狙います。


 後方で見守る私からしか見えませんがその手は堅く握られており今にも血が滲んできそうなほどです。


 それを見てセイルは気がふれたわけでも魅了されたわけでもなくただただ作戦のために耐え忍んでいると確信しました。


 私はそのセイルの背を見据えてこの事件が無事解決したら一週間ほどアレクを自由にさせてあげようと心に堅く誓いました。


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