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第十一節 SIDE-ミリア-

 アレクが出撃してから私たちも急いで馬車へと走りました。


 馬車ではネイアが既に出発の準備を完了させており、話を聞くとどうやらアレクが事情を説明していた様子。


 おかげで出発まで大幅に時間を短縮することが出来ました。


 私はアレクから渡された恐ろしく軽い全身鎧に、セイルは例のスーツへと着替えを終える頃には馬車は王都から街道へと出ておりました。


 アレクを見送ったというネイアに手綱を任せ馬車は街道をひた走ります。


 オグマは他の部隊員とともに後ほど合流する手筈ですのでここには居ません。


「奥様!私が旦那様を見送ったのはあくまでも方向だけです!正確な場所までは分かりませんが、よろしいですか!?」


「構いません!どちらにせよ街道では方角が限定されます!貴女の思う方向に進みなさい!」


「畏まりました!」


 この馬車もアレクによって改良が加えられサスペンションなどという部品によってある程度揺れが軽減されているとはいえ通常のそれを遥かに上回る速度で馬を飛ばしているのですから上下左右に跳ね飛ばされそうになります。


 激しく揺れる馬車内で私たち姉妹は転倒しないよう椅子にしがみつき何とか耐えながら暫く走っていくと、後ろから騎馬の集団が追いついてきました。


「奥様!オグマさんが合流しました!」


「わかりました。一度停車しましょう」


 従者席のネイアが声を上げて護衛部隊の合流を知らせてきましたので、私は馬車を停めさせました。


 馬車を降りていくとオグマたちが跪き私の言葉を待っておりました。


 よく見ると他にも数名見覚えのない者たちがオグマの後方―少し距離を開けて―で同じように跪いております。


「オグマ。あの方達は?」


「へい、行きに一緒になりやした第四部隊の面々でさぁ。レドル様の一件は俺も聞きやした。そこでなんとしても汚名を返上したいとのことでしたので、つれて参りやした」


「なるほど。そのお気持ちはよく分かります。ですが、お帰りいただいてください」


「奥様!」


「オグマ。貴方の汚名返上の機会を与えてあげたい気持ちもよく分かります。ですが、正直に申し上げて足手まといです」


「うぐっ…どうしても駄目ですか…」


「二度は申しません」


「分かりやした…」


 オグマは力なく立ち上がると第四部隊の方々の下へとふらふらと歩いて行き事情を説明しているようです。


 第四部隊の方々はオグマに食って掛かるも主人である私の決定である以上覆ることはありません。


 それを理解しているのか力なく項垂れると肩を落とし帰っていきました。


 可愛そうだとは思いますが私たちも余裕があるわけではございませんので、ここで余計な手間も時間も掛けたくありません。


「オグマ。馬は何頭おりますか?」


「予備も含めますと九頭おりやす」


「それでは部隊より一名を馬車につけ、王都まで戻らせます。それ以外は馬で向かいましょう」


「へい!」


 護衛部隊の内ベニーだけを残し私たちは全員馬に乗り込み出立しました。


 セイルにはまだ馬術の心得がありませんので、おとなしく私の後ろに乗っております。


 暫く街道沿いに馬を走らせると西の空に一筋の青白い光が視界に飛び込んできました。


「奥様!」


 ネイアも目の当たりにしたのか先ほどまでの焦りが一転して安堵の表情へと変化しております。


 あのような非常識な現象は間違いなくアレク以外に出来るわけがないという事を私たち全員がよく理解しているからに他なりません。


「えぇ、ネイア。急ぎましょう!」


 私たちは馬に鞭を入れて急がせました。


 それでも先ほどの光は余程巨大だったのか、行けども行けどもなかなかアレクの元へたどり着けません。


 アレクの方角へは街道を外れるようになってまいりましたので、私たちは仕方なく街道脇の木へ馬を繋ぎ徒歩で森へと入っていこうとしました。


 丁度その時今度は激しい閃光が空から落ちてきました。


 一瞬何が起こったのかわかりませんでしたが、閃光と音に驚いた馬をなだめ終わる頃には冷静さを取り戻し、その正体が落雷であった事は明白となりました。


 私は空を見上げると雲が無いことを確認し、ネイアへ問いかけました。


「攻撃魔法である可能性は?」


「ほぼ間違いないかと思われます」


「アレクによるものだと思いますか?」


「いえ、旦那様は自然への配慮をされつつ魔法を選択されます。このような場所で火災が起きる可能性を考慮せずに雷を使うとは思えません」


「私も同意権です」


「それでは?」


「えぇ間違いなく敵…魔族によるものでしょう。どうやらアレクは追いついたようですね。私たちも急ぎましょう!」


「畏まりました!」


 二人の意見が一致した事を確認し、私たちはネイアを先頭に落雷のあった場所へと走り出しました。


 走っているとはいえ、そこは調整もされていない森の中です。


 周りへの陣形を保って警戒も行いながら道なき道を行くわけですから、進行速度はそれほど速くはありません。


 木々の隙間を縫うように行き、大木があれば迂回し、焦る気持ちを押さえ込み着実に歩を進めていきます。


 先頭を行くネイアが足を止め、後方へ停止の合図を送ってきました。


 私たちは指示に従い停止し私を中心として全方位に向けて警戒する方陣と組みました。


 ネイアは私へ近づいてくると小声で報告してきます。


「奥様。前方でかすかに戦闘音がしてまおりました」


「!?…それはアレクなのですか?」


「目で確認したわけではないのでそこまではわかりかねます。ですが、少なくとも誰かが戦闘している以上は一度態勢を整えたほうがよろしいかと」


「そうですね。それではここで小休止を取りましょう」


「奥様。それともう一つよろしいでしょうか」


「どうしました?」


「よろしければ私一人で斥候として状況の確認をしてまいりたいのですが、許可をいただきたく」


「確かに斥候であれば貴女が一番適任でしょう。わかりました。無理はせず無事に帰ってくるように」


「畏まりました。それでは行ってまいります」


 ネイアは言葉だけをその場に残すように言い終えると同時にその姿を消した。


「オグマ」


「へい。こちらに」


「ネイアが戻るまでのあいだ方陣を維持。周りの警戒に当ってください」


「畏まりやした」


 私たちはこれからの戦闘に備え、方陣形態のまま持ち込んだ水と携帯食料を口にすると座り込み休憩を取りました。


 ネイアが戻るまでの数分程度の休憩であってもするとしないとでは戦闘状況によっては生死を分ける事もあります。


 戦闘訓練をなさっているアレクの実父、ケイトお義父様もよく「兵士は休むのも仕事」とおっしゃっておりました。


 私たちもそれに倣い、静かにネイアの帰りを待ちました。


「ただいま戻りました」


 休憩を始めて十分ほど経過した頃、ネイアが帰還を告げる声とともに私の元へ戻ってまいりました。


「無事でなによりです。報告を」


「はっ。まず戦闘を行っておりましたのは旦那様で間違いございませんでした」


「アレクは無事なのですか!?」


「奥様。お静かに。私が確認した限りではお怪我などはされてないご様子でした」


「良かった…それでローラ様は?」


「はい。ローラ第二王女様もご無事です。戦闘による影響が無いよう少し離れた場所で立っておられました」


「そうですか。ひとまず安心といったところですね」


 ネイアの報告に私はほっと胸をなでおろしました。


 ですが、ネイアの表情が釈然としないまま報告が続きました。


「それで戦況なのですが…」


 ネイアが口が一旦止まり、言葉を選んでいるように見て取れました。


 私は焦らされているかのような感覚に陥り、少しだけ怒りを感じ、ネイアを促しました。


「ネイア。見たままを報告なさい」


「はっ!その、とてもではございませんが戦闘と呼べるものではございませんでした」


「はい?それはどういうことですか?」


 ネイアには珍しく歯に物が挟まったような言い回しです。


 いつもならば簡潔かる直球に報告をしてくれるというのに今日は一体どうしたのでしょうか?


「私の言葉では形容しがたいところがございますので、直接ご覧になったほうがよろしいかと」


「わかりました。では向かいましょう」


 ネイアの先導で森を行きます。


 だんだんと大きくなる戦闘音が私の耳に入ってまいります。


 そのすさまじさは勢いを増しているように感じられました。


 音だけからでは死闘を繰り広げる激戦のようにしか感じられません。


 これが戦闘と呼べるようなものではない?


 先ほどのネイアの発言がどうしても理解に苦しむものでした。


「奥様。こちらです」


 ネイアの手招きに太い幹からなる大木のこれまた巨大な根の隙間から覗きこむように一点を見つめます。


 視線の先には木々が無くそこそこの広さをもつ広場が広がっておりました。


 これが森林浴であったならお茶会でも開きたくなるような場所ではありますが、いまは閃光が瞬きその光の筋が何本も地上へ降り注ぐまさに戦場と言うべき光景でした。


 誰がどう見ても激しい戦闘が行われていることは明白でした。


 私は目を皿のようにしてアレクの姿を探しました。


「奥様。あちらに旦那様が」


 ネイアにはそれが伝わったのか一点を指先、私の視線を誘導しました。


 そこには昔ながらの言い方を換えれば古臭い貴族の格好をした魔族を何本もの太いワイヤーで拘束した状態で地面に転がっておりまいた。


 笑い転げながら芋虫のようにくねくねを体を動かして『何か』から逃げようをする魔族。


 それを見てなにやらトラウマを刺激されたのか顔が引きつっているセイル。


 恐らく困惑を顔に貼り付けているであろう私。


『それ』が何なのか見定めようと鋭い視線を向けるネイア。


 魔族の傍らで佇む無表情のアレク。


 雷が当らないように離れた木の影から心配そうに見守るローラ様。


 その光景を一言で表すのであれば『カオス』以外に表現する方法を私は持ち合わせておりません。


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