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第九節 SIDE-アレク-

 窓をぶち破って勢い良く飛び出した俺は城の上空で滞空していた。


 周りを見渡しても魔族らしき影は見当たらなかった。


「くそっ!」


 俺は焦りからかなりイラついていた。


(アレク君。落ち着いてください)


「落ち着いてますよ!」


 思わず美和さんに当り散らしてしまうほどに。


(アレク君。もう一度言います。落ち着いてください)


 それでも美和さんはゆっくりと語りかけてくれた。


 俺はハッとして自分の行いを振り返って恥ずかしくなった。


「美和さん…すいません…」


(いえ、気にしないでください。それよりも先ほどからネイアさんが呼んでますよ?)


「えっ?」


 美和さんが地面を指差している。


 地面にいる人なんて豆粒のように小さいし、まして声なんか聞こえるはずがない。


 それでも美和さんの顔をみても真剣そのもの。決して冗談を言っているようには見えなかった。


 俺は半信半疑ながらも地上へ降りていった。


 居ました。ネイアが。しかも本当に呼んでました。


 美和さんは一体どうやって聞き取ったのか疑問に思うけど、まぁそこは美和さんだしってことで納得しておこう。


 ネイアからは自分たちが騙されそうになったことと、西の空に不審な影を見かけたことを教えてもらった。


 さっきから視界の端に映る気絶して縛り上げられている衛兵がその騙そうとしたやつなんだろう。


 俺からはネイアたちに魔族と思わしき賊が王女を攫って逃げ出した事を伝えた。


 犯人が魔族だという事に一瞬ネイアの顔が苦痛に耐えるように歪んだが、俺は見なかった事にした。


 恐らくネイアが見たと言う影が王女を攫った魔族なのだろうと紐付け、俺は馬車の中で例のスーツに着替えると西に向かって飛び立った。


 暫く飛んだが魔族を発見することは出来なかった。


 正直なところ俺と魔族の最高速度では奴らのほうに軍配が上がる。


 油断でもしてくればと願ったがそれは淡い期待となって消えた。


(アレク君。このままでは追いつけそうにありませんよ?)


 美和さんも同じ結論に至ったようだ。


(そうですね…なんとか出来ますか?)


(お任せあれ!)


 なぜかキラキラとした笑顔の美和さんに俺は底し得ぬ不安を感じた。


 だが、俺にそんな事を気にしている時間はない。


(お、お願いします!)


(はいはい。いきますよー)


 美和さんのイメージに俺がトリガーとなって魔法が発動される。


 一瞬にして視界が歪んだ。


 いや、歪んだんじゃない。俺自身が高速で移動しているんだ。


 この感覚…以前も体験したことあるぞ!


(アフタァァァァァバァァァァナァァァァァァ!!)


 頭の中で美和さんの叫び声が響く。


 やっぱりぃぃぃぃ!!!


 背中のジェットパックのすぐ後ろに現れた優に十mはあろうかというほど巨大な炎の尾を引きずりながら俺は飛ぶ。


 意識が飛びそうになるほどの負荷に晒されながら数秒ほど耐えると、前方にチラッと小さな影が視界に入った。


(美和さん!ストップ!ストップ!)


 しかし減速が間に合わなかったのか目標の影を通り越してしまった。


 俺は何とか反転し、目標―魔族―の前に立ちふさがる。


 その腕にはローラ様が抱きかかえており、意識がないのかぐったりとしている。


 魔族がバサバサと翼を動かし、行く手を遮った俺を警戒してかその場で滞空している。


 俺もローラ様が人質に取られている以上迂闊に動く事も出来ない。


 魔法の打ち合いになろうものなら流れ弾で怪我をさせてしまうことになりかねない。


 それに魔族を打ち落としてしまば当然落下する。この高さから気絶した人間が落ちて、無事に済むとは到底思えない。


(アレク君。不味いです。今は魔族が警戒してるので膠着状態が続いてますが、現状を鑑みるに圧倒的に相手の方が有利です)


(やっぱり、そうですよね)


 こちらには攻撃を躊躇する理由は沢山あるけど、向こうには何一つ無い。


 突然の登場で驚いたのか警戒を続けてくれてるけど、気付かれでもすればこっちに打つ手はない。


 こうなった以上肉薄してローラ様を奪い取るしか方法が無いか。


 例によってデュランダルは使えないけど、このスーツのおかげで俺の体は大幅に強化されている。


 殴り合いになったとしても魔族に引けは取らないはずだ。


(美和さん!魔法を一発撃ち込んでから肉薄します!魔法の選定はお任せします)


(了解です!拳を作ってから親指と人差し指を立ててください。その状態で標準をつけるように相手を良く狙ってください!)


 なにかよく分からない指示だけど美和さんがイメージする為の補助になるならと言われた通りに狙いを定める。


 魔族は俺のよく分からない行動で更に警戒を強めているようだ。


(それじゃいきますよ!)


(はい!)


 次の瞬間、俺の人差し指の先が青白く光り出した。


 俺はいやな予感がしたので、咄嗟に照準を魔族から逸らしすこし上方へ修正した。


 一秒程度の溜めがあったかと思うと、美和さんの叫び声とともに尾を引いて発射される。


(いっけぇぇぇぇ!れい○ーーーーーーーーーん!!)


 いや、正確に言おう。俺の人差し指から直径が1mはあろうかという極太の青白いレーザーが射出された。


 照準を逸らしたおかげで極太レーザーはぎりぎり魔族を掠め後方へと伸びていく。


 数秒間の射出のあと、何事も無かったように極太レーザーはその姿を消した。


 魔族と俺の間に静寂が訪れた。同じような感情を抱いているであろう魔族に若干の哀れみを感じながら。


 恐らく一分ほど経過した頃、俺は静かに地面を指差すと魔族はコクコクと何度も頷き、下降を始める。


(えっ?ええっ?)


 美和さん一人だけ理解できないようでオロオロしている。


 俺ははぁぁぁぁと長いため息と一つつくと地上へ降りていった。


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