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第八節 SIDE-セイル-

 第二王女のローラ様が退出されていった扉をいつまでも見つめていました。


 身分の違いはあれど久しぶりに出来た同世代のお友達。


 ローラ様の為にも、私自信の為にいつか必ず約束を守ろうと心に誓いました。


 程なくするとコンコンと扉がノックされ、一人の騎士が入ってきました。


 確かお出迎えいただいた貴族の方でレドルさんというお名前だったと記憶しています。


「我が王、ジョン=アルノート=レミントン様が第二応接にてお待ちです。ご案内いたしますので、皆様こちらへ」


 どうやら王様との対談はまだまだ続くようでした。


 私もご一緒したほうが良いのかと少しばかり戸惑っているとレドルさんが、


「セイル様もご一緒にとのことです」


 と、にっこり笑って私に話しかけてくれた。


 鎧を着込んでいるにも関わらず膝を折って私に目線に合わせて話してくれたこの方を何故か私は優しいと思わず少しだけ怖いと感じてしまいました。


 なぜそのような感情を抱いたのかまったく思い当たることはありませんでした。


 私はふるふると頭を左右に振り邪念を振り払うと先に歩き出してしまったお兄様たちを小走りで追いかけました。


 レドルさんに案内されて応接室の扉までやってくると、扉の両脇に控えている衛兵に止められました。


「何用か?」


「皆様をお連れするよう命を受けましたので、馳せ参じた次第です」


「む?暫し待たれよ」


 二名の衛兵の内、一名が入室の許可を得て室内へ入っていきました。


 暫くすると再び扉が開き、中から先ほどの衛兵が顔を出す。


「お会いになるそうだ。ひとりずつ入室されよ」


「さ、アレク様。どうぞ」


 お兄様がレドルさんに促され、入室していきます。


 扉が開いているので、中の声は外まで聞こえてきます。


「アレク=エクルストンです。失礼致します」


「おぉ、アレク君。何かあったのかね?」


「えっ?私は英雄王様がお呼びだと伺いましたが?」


「うむ?儂はそんなこと命じておらんぞ?」


 室内の話を聞く限り、なにやら命令に行き違いがあるようでした。


 私は何事かとレドルさんの顔をしたから覗き込みましたが、丁度影になっており表情が読み取れませんでした。


「ですが、レドル殿にはそのように…おや?王妃様。ローラ様とのお話はもう終わったのですか?」


「何の話でございましょう?私は貴方達と別れてから一度もこの部屋を出ておりませんよ?」


 どういうこと!?じゃあ先ほどローラ様が誰に手を引かれて退出されたというの!?


 私は咄嗟に振り返り先ほどの部屋へと戻ろうと走り出そうとした。


 しかしそれは叶わなかった。


 何者かが横からぬっと腕が伸び、私の手首を掴んだ。


「おやおや、セイルお嬢様。どちらにいかれるのですかな?」


 ニタニタと気持ち悪い笑顔を浮かべたレドルさんだった。


「は、放してください!!」


 私は掴まれた手を振りほどこうともがくが思いのほか強い力で握られていた。


 結局振りほどくことは叶わず、そのまま腕を引っ張られ背中から抱き寄せられた。


 いつの間に抜剣したのか私の喉元には剣が押し当ててられている。


「何をしているのですかレドルさん!?」


 慌ててお姉様が止めに入るも、剣を持つ手に力が入るのが見て分かったのか迂闊に近づけそうになかった。


「ミリア様。申し訳ございませんがそちらでおとなしくしていただけますかな?」


 レドルさんは確認するようにお姉様へ告げる。


「レドル殿!何をされっ!?」


 直ぐ脇にいた衛兵は最後まで言葉を吐ききることなく喉から剣を生やすとごぽっと言う音とともに吐血し倒れる。


 レドルさんは衛兵に付き立てた剣をすばやく抜き取ると再び私の喉元へ戻す。


 剣はぬらぬらとした液体が付き、赤く光っていた。


 私は思わずヒッと小さく悲鳴をあげた。


「セイルお嬢様。おとなしくして頂けないとそこの衛兵みたいになってしまいますよ?」


 私の頭上から実に楽しそうな声が聞こえた。


 扉がバンッと開け放たれて、中からお兄様たちが慌てて出てきました。


「セイル!?」


「おっとアレク様。そちらから動かないでくださいね。他の皆様もおとなしくしてください」


 お兄様が一歩だけ踏み込んだ状態で制止する。


 その顔には悔しそうな苦悶の表情が見て取れた。


「うむ。お主は第四部隊隊長のレドル=マクレバー君だったかの?」


「これはこれは。英雄王様に覚えて頂けているとは光栄の極みでございます」


「なに、末端の兵士までは覚えておらんが隊長クラスまでであれば全員覚えておるとも」


「なんと!これは良き王に恵まれて民も喜びましょう」


「そう思うか?ではその儂に免じてその剣を下ろしてはもらえんかの?」


「申し訳ございません。例え英雄王様のお願いであっても聞き入れるわけにはございませんゆえ」


「そうか。残念だ。実に残念で仕方が無い」


 英雄王様は本当に残念そうな表情を浮かべ、右手を真っ直ぐ天井に向かって挙げた。


 私は思わずその手に視線が誘導された。


「おっと!動かないでくださいね。もちろん魔法の使用も厳禁ですよ?さもないと私のこの腕に思わず力が入ってしまいかねませんから」


 レドルさんが柄を握りなおすと私の喉元で剣がジャキっと鳴る。


「あぁ何もせんよ。儂はな」


 英雄王様が言い放った瞬間、私の頭上でドシュっと音がしたかと思うと喉元にあった剣がガシャンと音を立てて床に落ちた。


 一秒ほどの間を置いて私を拘束していた腕からは力が抜け直ぐ後ろでドサッと誰かが倒れた。


 拘束が解けた私はゆっくりと後ろへ振り返ると足元に首の無い死体と直ぐ傍らにニヤリといやな笑いを浮かべたレドルさんの頭部が落ちていた。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 私は両手を頬に当てると大きな悲鳴を上げた。


「セイル!」


 崩れ落ちそうだった私の体は誰よりも早く反応したお兄様の腕によって支えられ転倒は逃れた。


 それでも立っているのがやっとでがたがたと震える私の体をお兄様は優しく包み込むように抱きしめてくれました。


 私を抱きかかえながらお兄様は「大丈夫。大丈夫」と何度も語りかけてくれました。


 次第に落ち着きを取り戻した私はそのまま抱かれていたい欲に駆られながらも、新しい『友達』の為に、そっとその腕の中から離れました。


 私は二度ほど深呼吸をすると英雄王様へ振り返った。


「英雄王様。ローラ様が攫われた可能性がございます」


「うむ。どうやらそのようだな」


 王女が攫われたかもしれないのにやけに落ち着いた英雄王様の返答に私は不敬にも声を荒げてしまった。


「何を落ち着いていられるのですか!?王女が攫われたかもしれないのに!」


「セイル!落ち着きなさい!王の御前ですよ!」


 お父様に叱責にビクリと身が強張るのが分かった。


「カインよ。そう脅してやるな。セイルもローラの事を心配してのことだろうて」


「しかし…」


「儂が良いと言ったのだ」


「はっ!失礼いたしました」


 今度はお父様が硬直する番であった。


「セイルよ。ローラを心配する気持ちは良く理解できるとも」


「それでは!」


「うむ。これは国家機密にあたるのだが、実はこの城には常時魔法が掛かっておってな。城内であれば何処に誰が居ようとも即座に分かる仕掛けになっておる」


 城全体に魔法!?


 私はあまりのスケールに口を開けたまま呆けてしまった。


 お兄様もお姉様も同じような反応だったようだ。


「はっはっはっ。その顔を見れただけでも話した甲斐があったというものよ。どれ直ぐに誰か報告に…どうやら丁度来たようだな」


 私の後ろからガシャンガシャンと鎧をきた誰かが走ってくる音が聞こえた。


 最後に一際大きな音をさせるとその人は跪き大きな声で報告した。


「報告します!城内で観測していた第二王女様の魔力反応ですが、すぐ近くに魔族を思われる魔力反応が発見されました!」


「なに!?魔族だと!?」


「はっ!ほぼ間違いないかと。その後魔族を思われる反応は第二王女様を連れて城外へ飛び立ったと思われます!」


「なんだと!!城外に出ただとぉぉぉ!?」


 英雄王様は突如取り戻し報告にきた兵士さんの肩を掴むを前後に大きく揺らした。


「儂の可愛いローラが!魔族に連れられて!城外に出たと!?」


「は、はっ!観測官からはそのように報告を受けております!!」


 がくがくと揺られながらも職務を全うしようとする兵士さんはすごいなと思いました。


 それにしても英雄王様の取り乱しようはどうしたのでしょうか?先ほどは大丈夫だと言っておられましたのに。


 ん?城外?先ほど魔法は城全体に…って、あぁ!?


「英雄王様!まさか城外での感知は!?」


「う、うむ…城外ではもう感知不可能だ…」


 英雄王様は力なく膝から崩れ落ちると両手を床に突いてさめざめを泣き始めた。


 先ほどの余裕と威厳はどこかへお出かけされたようです。


 あまりの光景に固まる私たちでしたが、最初に動き出したのはお父様でした。


「アレク君!直ぐに飛べるか!?」


「はい!大丈夫です!ですが……」


 お兄様は例の口止めをしようにも相手は王族です。


 ローラ様を助けたい気持ちがあってもまだその技術を世に出すわけにはいかないようで、その間で揺れているようでした。


「わしが責任を持って我が兄上を黙らせる!だからすまん!飛んでくれ!!」


 お父様はあえて英雄王様を『我が兄上』と呼びました。


 王族ではなくあくまでも親族内の話であるとお兄様へ伝えるために。


 そして、それを理解できないお兄様ではございません。


 さきほどまでの葛藤は消え去り、使命を瞳に宿すと大きく頷き行動へ移ります。


「クリエイト!ライダーモード!」


 お兄様の両足に金属色のロングブーツが現れました。


 その代わりに報告に来ていた兵士さんの鎧が一部消滅していました。


 どうやら城内であった為、材料が足りなかったようです。


 お兄様は小さく「すいません」と謝ると数歩の助走の後、激しい光とともに長い廊下を飛び去っていきました。


 数秒で廊下の突き当りまでたどり着いたお兄様はそのまま窓を突き破ると城外へ飛び出し、一瞬にして視界から消えていきました。


「なぁ、カインよ」


 ポカンと口をあけてお兄様が飛び去った方向を見つめながら英雄王様が問いかけました。


「何も知りませんし、何もお答えできませんよ。我が兄上」


 あえてお父様の名前でお呼びになられた英雄王様に対してお父様は頑なに『我が兄上』と呼ばれます。


 それに対し、わずかばかりの怒気を瞳に宿し英雄王様が告げます。


「カイン=エクルストンよ!ジョン=アルノート=レミントンの名において正式に回答を求める!」


 私はサッと血の気が引くのを感じました。


 英雄王様はお父様を家名付きでお呼びになられ、またご自身の名において宣言がなされました。


 これは貴族である以上、必ずお答えしなければなりません。


 もしご希望に添えることになれなければ最悪の場合、国家反逆罪となりお家は取り潰しとなってしまいます。


 しかし、お父様はスッと跪くと静かに宣言なさいました。


「カイン=エクルストンの名においてお答えいたします。『何も知りませんし、何もお答え出来ません』」


 やはり先ほどと全く同じ回答でした。


 英雄王様は瞳に宿した怒気を強めると、お父様へ再度問いかけます。


「それはエクルストン家、当主としての回答と捉えてよいのだな?」


 お父様は一度だけ振り返ると私たちを順に見て周り、もう一度英雄王様に視線を戻すとはっきりと応えました。


「エクルストン家の総意としていただいて問題ございません」


 お姉様と私は誰に言われるわけでもなく立ち上がり、お父様のすぐ後ろまでやってくると同じように跪きました。


 その姿はまるで罪状の読み上げを待つ囚人のごとくでした。


 英雄王様はふぅと小さくため息を吐くと一度だけ頷き私たちに告げました。


「そなたたちの覚悟は良く分かった。しかし儂としては納得のいく話ではない。よって裁きを申し渡す!」


「ははっ!」


「カイン=エクルストンよ!事件解決の暁には儂の自室にて一晩飲み明かすこととする!」


「「「はぁ?」」」


 あまりにも現実離れした通告に私たちは気の抜けたような声とともに顔を上げる。


 そこにはニカッとイタズラが成功した少年のような眩しいほどの笑顔を浮かべた英雄王様と手を口に当てくすくすと笑われている王妃様が居た。


 まったくお人が悪い。


 お父様が再び頭を垂れると堂々と宣言する。


「秘蔵のボトルを所望いたします!」


「許可する!!」


 一切の間を置くことなく英雄王様から返される。


 私たちはその宣告をしっかりを聞き入れ、立ち上がる。


「伝令!」


「は、はっ!!」


 空気を読んで壁と一体化したかのように佇む兵士さんが急に指令を振られガシャンと大きく鎧を鳴らし居直す。


「今件におけるエクルストン家次期当主、アレク=エクルストンの権限を最上位に変更。儂と同等の権限を付与する!何があっても最大限協力を惜しむな!」


「はっ!」


 兵士さんは各所への通達の為、一目散に走り出した。


 私はその兵士さんが廊下の角を曲がって見えなくなるまで見送るとお姉様を見た。


 お姉様も同じことを考えたのか、視線がぶつかる。


 私たちは小さく頷くとお姉様が代表で発言する。


「それでは、英雄王様、王妃様、お父様。私たちも行ってまいります」


「うむ。頼んだぞ」


 お父様からの了承は頂いた。


 私たちは満足げに一礼すると踵を返し歩き出した。


 ローラ様を、私の友達を救出するために。


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