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第四節 SIDE-アレク-

 馬車内の空気が張り詰めたまま五日目を迎えることになり、王都まで徒歩であと二日ほどの距離までやってきました。


 キリキリと痛む俺の胃ですが、なんとか王都までは保てそうです。


 ネイアが逃げるように従者席に行き、美和さんは例のごとく屋根の上。


 馬車内はいつものように俺を挟んで両サイドに姉妹が並びます。


 幸い、オグマの手綱捌きのおかげで小さな揺れ程度で非常に安定した運行がされています。ありがたい限りで。


 時折、小さく舌打ちが聞こえてくるのは気のせいだと思います。えぇ気のせいだと思います!


(アレク君!前方から十名ほどの騎馬隊がこちらに向かってきてますよ?)


 胃の痛みから現実逃避をしていたら美和さんから念話が入る。


 俺は急いで脳の再起動を行い、対応する。


「ミリア。美和さんが十名ほどの騎馬隊を見つけたんだけど、何かわかる?」


「騎馬隊ですか…もしかしたら王都からのお迎えかもしれませんね。旗印は判りますか?」


「ちょっと聞いてみるよ」


 王都からのお出迎えとかあるんだ…貴族ってすごいなぁ…


(美和さん。騎馬隊って何か旗とか持ってません?)


(旗ですか?えぇ、掲げてますね。白い下地に両サイドに黒ラインが二本ずつです)


「白い下地に黒ラインが両サイドに二本ずつあるって」


「なるほど、王家直結の部隊のようですね。おそらくお出迎えいただいたのでしょう」


「どうすればいい?」


「このまま馬車を走らせてください。ただし護衛の方は後方へ回してください。もしこのままだと敵意があると見られる可能性もあります」


 丁度その時、前方の小窓が開く。


「アレクの旦那!前方から騎馬隊が向かってきやすぜ!どうしやす?」


 オグマにも見えたようでこちらへ問う。


「馬車はこの速度のまま前進。護衛の四人は馬車後方の護衛台へ集合」


「了解!」


 気持ちの良い返事を残し、従者席からオグマの指示が飛ぶ。


 やがて俺達と背中合わせの位置にある護衛が待機する荷台へ四つの振動が伝わる。


 こちらの準備が終わる頃、騎馬隊より先触れがあった。


「馬上より失礼!エクルストン家の馬車とお見受けする!こちらマクレガー家が次男・レドル様を隊長に頂く王家直轄第四部隊である!」


 すると馬車が停車し、従者席から立ち上がる音が聞こえた。


「こちらエクルストン家が次期当主・アレク様の乗りおいでます馬車にて!レドル=マクレバー様にお伝え願いたい!」


「了解仕った!ではこれにて!」


 馬が走り去る音が聞こえて俺の心拍数はどんどん跳ね上がっていく。


 いつもこの空気には慣れないものだと心の中で苦笑する。


「アレク。落ち着いて、マクレバー家であればうちより格下ですよ」


 そんな俺の動揺をミリアが見抜いて声をかけてくれる。


 こういう時は本当に頼りになる嫁だ。


「ではお兄様。私は後ろに回っておきます」


 セイルはぴょんと席から飛び降りるとそのまま馬車の外へ。


 ごねるかと思ったけど、そこは貴族の娘。自ら礼儀に沿って退出していった。


 程なくすると後方の荷台から歓迎の声が上がる。


 きっと部隊の奴らに可愛がられていることだろう。


「オグマ。合図を送ってくれ」


「へい。分かりやした」


 小窓からこちらの様子を伺っていたオグマに先方へこちらの準備が整ったことを伝える合図をお願いした。


 暫く時間を空けて複数頭の蹄の音が近づき、先ほどの先触れと同じ声が響き渡る。


「馬上より再び失礼!アレク=エクルストン様へレドル=マクレバー様よりお目通りの許可をいただきたいとのこと!」


「アレク=エクルストン様よりお許しをいただいております!どうぞこちらへ!」


 平民とはいえ、護衛の隊長を任されるオグマは先触れの読み上げた順番で即座に爵位を判断し、柔軟に対応する。


 俺も頑張らなきゃなーと実感した次第だ。


 間もなくして馬車のドアがノックされる。


 俺は静かに「どうぞ」と入室を促した。


 オグマによってドアがゆっくりと開け放たれドアの前で一人の青年が直立不動で立っている。


 青年は帽子を取ると胸にあて、一礼。


「レドル=マクレバーを申します。アレク=エクルストン様へお目通りのご許可をいただきたく存じ上げます」


 俺は視線を向けることなく真っ直ぐ見据えて返事もしない。


 直ぐ横に座っていたミリアがスクっと立ち上がると優雅に一礼して一言。


「ごきげんよう、レドル=マクレバー様。主人はお会いするのが楽しみだと申しておりました。どうぞこちらへ」


 向かいの席を指し示された青年―レドル―は帽子をオグマに預け、馬車へと乗り込む。


 靴音すら立てないようガチガチに緊張した面持ちで席の前までたどり着いたレドルはオグマによってドアが閉められた事を確認すると俺へ向かって跪く。


「この度はお目通りのご許可をいただきまことにありがとうございます。私はマクレバーの次男、レドルと申します。アレク=エクルストン様におかれましては………」


 それからご挨拶が延々五分間。もし俺が格下の場合、これをやらなきゃいけないのかと思うとうんざりしてくる。


 ようやく俺への挨拶が終わると今度はミリアへのご挨拶が始まりますよーと。


 因みに俺とミリアは英霊様を降ろしてる事が既に知られているので、ここから各英霊様への挨拶と続く。


 そろそろ口の中の水分がなくなってきただろうなーとかわいそうに思いながらも、挨拶を途中で遮るのはご法度。


 それこそ相手の挨拶が気に食わなかったという結果になりかねないのでここは黙って聞いてあげるしかない。


 全部で十五分の一人演目を終わらせたレドルさん。もう軽く息切れさえしているように見受けられる。それでもその顔は達成感がすごかった。うん。よく頑張ったよ君は。


「レドル=マクレバー様。素晴らしいご挨拶に主人も大変満足しております。どうぞ、お席へお座りになられてください」


 ミリアが頃合いと見計らって再度、着席を勧める。


 ここでようやくレドル君は着席することが許される。


 そして、レドル君が着席したのを見計らって俺から挨拶が始まる。


「レドル君。始めまして。私がアレク=エクルストンだ」


 以上!


 別にえらそうにしてるわけじゃないよ?これが普通なんだって。礼儀なんだって。


 あまり話をしてしまうとそれはそれで不味いことになるので、一言だけ告げることになっている。


 これはこれで正直つらい。


 ミリアは俺の挨拶が終わるとにっこりと笑い、ドアに向かって語りかける。


「ネイア。お茶の準備をして頂戴。私たちは暫しレドル=マクレバー様と歓談を希望します」


「畏まりました」


 この宣言にて挨拶は終了を迎える。俺とレドル君から軽く息が漏れる。


 ここからお茶の準備が出来るまではある程度の礼儀は必要なものの俗に言う無礼講となる。


「どうも。始めまして。アレクです。レドルさんとお呼びしても?」


 俺は明らかに年上のレドルさんに向かって敬語で話しかける。


「いえ、エクルストン様。私など呼び捨てでお願い致します。また敬語など必要もございません」


 うーん。まだ堅い。まぁ挨拶を聞いてる限りじゃ二つ以上爵位が違うみたいだし、こんなもんかな?


「あいわかった。それではレドル。此度はいかような要件で?」


「はっ!我が王、ジョン=アルノート=レミントン様より命を受け、エクルストン様のお迎えに参りました」


 知ってたけどね!でも聞かないことには始まらないから仕方ないよね。


 でもそうなると王宮直行かーきついなー


 ん?レドルさんが何かまだ言いたそうにしてるね。水を向けてみようかな。


「他には?」


「はっ!王都に到着し次第、第三宮にてお越しいただく事になっております」


 あぁ、待機場所の説明ね。やっぱり王宮直行でした。


 俺が心の中でがっくりと肩を落としていると、レドルさんは更に続けた。


「そこで、第二王女のローラ=アルノート=レミントン様主催のパーティーのご参加いただきたく」


 おっしゃぁぁぁぁ!ご挨拶フラグ回避!!!


 ホクホク顔の俺にミリアが額を押さえて小さくため息をつく。


 これは後で説教フラグもゲットしちゃった感じですね!やっちまった!


「これは光栄ですとローラ=アルノート=レミントン様へ言伝をよろしく頼む」


「はっ!お任せください!」


 短いやり取りを経て、一杯のお茶をご一緒してからレドルさんは馬車から退出していった。


 帽子を受け取る際にオグマと何点かやりとりしているのが耳に入る。


 どうやらこのまま速度を上げて今日中には王都まで到着する予定らしい。


 一仕事終えて背をゆったりと椅子に預けているとミリアから冷たい視線が向けられていることに気が付いた。


 これはかなりお怒りのご様子。


 俺は素直に椅子から降りて美和さん直伝の土下座へと移行した。


 ミリアは俺が土下座へと体勢が移行完了した事を確認すると静かに怒りを吐露し始める。


 その後、怒りの炎は王都到着直前まで燃え続ける事となった。


 セイルは馬車内の空気を察知したのか戻ってくることは無かった。


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