第一節 SIDE-アレク-
魔族によるジャミル村占領および領都襲撃事件は俺―アレク=エクルストン―一行と領主で義父の―カイン=エクルストン―の尽力により解決へと向かった。
あの事件から更に三ヶ月が経過し、俺が領都に来てから半年が過ぎ去ろうとしていた。
事件のあとも義母―ニーナ=エクルストン―に教育を受ける毎日が続いた。
俺の実父―ケイト=コールフィールド―は事件解決の大きく貢献したこともあり、領都内に家を貰い防衛隊長として職務している。
ジャミル村からの帰路の最中ずっといがみ合っていた俺の嫁―ミリア=エクルストン―とその妹―セイル=エクルストン―の戦いはその後はなりを潜め表面上はとても仲良く日々暮らしている。
しかし、たまに聞こえてくる怒声と地響きは聞かなかったことにするよう、屋敷内での新ルールが適用あれつつあった。
もともとは屋敷付きだったメイド―ネイア―はカイン様の許しを得て正式に俺の雇い入れとなった。
それに加えて護衛として一緒に旅をしてともに戦った五人―オグマ、ニック、キール、ベニー、モンド―も俺の正式な部隊となった。
平時は父さんの下で訓練していて、俺が旅に出るときなどは護衛として付き従うことになっている。
この六人については俺から給金を出す必要があったので俺は領都内で商売をはじめることにした。
貴族が自らの領地で商売をすることはそこまで珍しいことではないが、当然既存の商店に配慮する必要はある。
俺はこの身に宿している英霊―最上美和―様の知識を借りて、既存商店と競合しない商品開発を成功させ何とか商売を始めるところまでこぎつけた。
作り上げた商品は携帯型ランタンだった。
ただし、火を使うことなく電力を溜め込んだ電池を使って光る、子供でも安心安全な特別仕様のランタンだった。
電池は取替え可能で使い捨て。一度ランタンが売れれば消耗品である電池は継続的に売れると言うものだった。
最初は半信半疑で始めた商売だけど、コレがウケにウケた。連日行列が出来るほどに。
その内、電池の供給が追いつかなくなり俺の魔力だけではとてもじゃないが持たなくて、セイルの手というか魔力を借りて作成しなければならないほどだった。
結局、あまりの激務に見かねたカイン様の手を借りて人を集めて事なきを得た。
何事もやりすぎは良くないと美和さんと二人で深く反省することなった。
こうして商売も軌道にのり、六人分の給金も心配しなくて済み始めたころ、王宮からカイン様へ召還命令が下った。
カイン様曰く「恐らく前回の事件の詳細報告を求められてのことだろう」と。
その日のうちに馬車へ乗りこみ、数名の護衛を連れて出立なされたのが二週間前。
そろそろ何かしらのアクションがあってもおかしくはないはずだが…
「旦那様。お手紙が届いております」
「ん。ありがと」
屋敷内に私室とは別に用意してもらった自分の執務室でネイアから手紙を受け取った。
差出人を見るとカイン様からだった。
俺は早速封を切ると中身を検めた。
手紙が二通と一枚のカードが入っていた。
カードは金属製でかなり薄いて2mmくらい。大きさは5cm四方くらいだ。
裏表を眺めてみても何も書かれていない。ただ、表面は恐ろしいまでに磨かれており凹凸一つ見当たらない。
(美和さん。これなんだか分かります?)
俺は頭上で控えていた美和さんに念話で話しかけた。
(なんでしょう?みたところ変哲もないただの金属のカードに見えますが?スキャンしてみますか?)
(お願いします)
数秒の間を置いて、美和さんから返答があった。
(んー素材はほとんどが鉄ですが、数%ほど別の成分が混在しているようですね。私が分析出来ないところを見ると、恐らくこの世界由来のものでしょう。それ以外はありふれた金属片ですよ)
(そうですか、ありがとうございます)
俺は金属カードを引き出しに閉まって、手紙を読むことにした。
一枚は俺に宛て、もう一枚はミリア宛てだった。
「ネイア。悪いんだけど、この手紙をミリアのところまで持って行ってくれる?」
俺は机の脇で待機していたネイアに手紙を託した。
「畏まりました」
ネイアは一礼すると音も無く退出した。
だからなんで扉を閉めた音すらもしないんだよ!
俺はいつになっても慣れない感覚に突っ込みながらも手紙に視線を落とした。
手紙の内容は前回の事件の詳細報告についてだった。
ジャミル村でのやりとりがカイン様を介してのまた聞きであった為、もう少し詰めたい部分があることのことで、俺へも王宮へ召還命令が下ったとの事だった。
金属カードについては何も書かれていなかった。もしかしてミリアの方に書いてあるのかな?また後で確認するとしよう。
「王宮かー」
(どうかしたんですか?)
「いえ、王族を相手にすることになるのかなーと」
なんだか自分で言ってて緊張してきた。
そりゃあここ最近ニーナ様に鍛えられたんだし、俺だってまともに振舞えれるようになったよ?
だけどもさ、やっぱり王族が相手じゃ緊張もするってもんですよ。
(大丈夫じゃないですか?言葉遣い一つ間違えたところでその場で首が刎ねられるわけでもないでしょうし)
「そんなバイオレンスな王族は嫌ですよ!」
(そうですか?私の世界では昔、よくあったらしいですよ?)
やっぱり美和さんの世界って怖すぎる。
言葉遣いを間違えた程度のことで殺されるとか、考えただけでも身震いしてしまうほどの恐怖だ。
そりゃあまりにも酷い場合は多少の罰は与えられるだろうけど、それでも領地の没収とかが限界だ。
昨今は余程の凶悪犯罪でも死刑が執行されることも減ってきたと聞くし、人命ってそんな軽いもんじゃないと思う。
そんなことを考えているとコンコンと扉がノックされる。
ネイアが戻ってきたかな?
俺は「どうぞ」と入室を促した。
「お兄様!遊びに来ました!!」
「セイル!?」
いきなり問題の方からつっこんできたよ!
ヤバイヤバイヤバイ。
こんな時にミリアが現れようものなら折角用意してもらった執務室が崩壊しかねない。
「セイル!俺は遊んでいるわけじゃないんだよ?もう少しで終わるからちょっとだけ外で待っててもらえるかな?」
俺は早口で攻め立てた。
「え?でも今、美和様とお話してましたよね?」
「うっ…そうだけど…」
なんで俺は気を抜くとすぐに念話じゃなく声に出してしてしまうんだ!?
すぐに治さないといけないっていっっっつも思っているのに!
「それも仕事の話をしてただけで…」
何とか仕事忙しいんだよアピールを成功させてここから追い出さないと!
俺がそう決心したのも束の間、室内を爆心地に変えるようなノック音が室内に響き渡った。
いやまだだ!まだミリアだと決まったわけじゃない!ネイアが戻ってきただけなのかもしてない!!
俺が何とか希望を見出そうとしていると扉の向こうから恐怖のどん底へ陥れる声が響いた。
「アレクー?居ないのー?入るわよー?」
終わった…何もかもが終わった…
ゆっくりとゆっくりと回されるノブ。そのノブが1mmずつ回るごとに俺の心臓はバクバクとその鼓動スピードを上げていく。
ノブが最後まで回し終えると次は地獄の扉が開き始める。これもまたゆっくりと。
パーティーはまだ始まってすらいない。恐怖の宴はこれから開演するのだ。
扉が開ききり入室したミリアは俺の顔を見たその視線を横に外し、セイルと視線がぶち当たる。
にっこりと笑顔の姉妹。一瞬の静寂が訪れると、ミリアの後方で扉がパタンと音を立てて閉まる。
その音を合図に二人同時に動き出す。
この瞬間、俺は死すらも覚悟した。




