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第十三節 SIDE-アレク-

 眼下にゾンビの群れが波のようにうねりを上げて暴走してる。


 一度戦ったことがあるとはいえ、やっぱり簡単に割り切れるものではない。


 思わず胃の中身がこみ上げてくるのを感じて、意志の力で無理や押し戻す。


 どんなに嫌悪感に襲われようとも、生きるものとして。ミリアの夫として。セイルの兄として、ネイアの主人として。


 そして、美和さんの相棒として全てを殲滅してやる!


 俺は馬車と速度を合わせるとミリアに向かって叫ぶ。


「今からセイルをそちらに行かせる!支えてやってくれ!」


「はい!!」


 すごく良い返事が帰ってきた。


 さっきまで衰弱していたとは思えないほどに。


 本当にこの嫁は強いなぁと再認識。


「セイル!ミリアのところで降ろすから準備してくれ!あと、ミリアに状況の説明をよろしくな」


「わかりました!任せてください!」


「それじゃあいくぞ!」


 俺は抱きかかえていた腕を外し、セイルの鎧と結合していた部品をパージする。


 そこまで高度は無かったが、着地の衝撃で馬車が軽くゆれ、セイルがよろめく。


 バランスの崩したセイルが馬車から投げ出されそうになった刹那。


「セイル!危ない!」


 投げ出される直前のセイルをミリアが抱きかかえるように引き寄せ、事なきを得る。


「お姉様!ご無事で!!」


「えぇ、セイルも。私はこの通り…」


 ミリアはそういうと何処から出したのかコインを人差し指と親指で挟み、そして、ふたつに折りたたんだ。


 そのパフォーマンスいま必要!?


 まぁセイルも喜んでるし、よしとしよう。


 俺はそんな姉妹の再会を確認すると、そのまま加速、馬車の前方へと躍り出た。


 そしてエンジンの出力を切り、後ろ向きに反転。両足から地面に降り立った。


 着地と同時に腰をおとし、左手を付く。


 ガガガガガと地面に三本の真新しい轍を作りつつ、砂埃を上げて停止した。


(出た!ヒーロー着地!!)


(なんですかそれは!?)


 美和さんの発言に苦笑しながらも前を見据える。


「ブレイク!セイバーモード!」


 背中のブースターが砕け散り、その小さな破片が右手に集まる。


 一秒ほどの間を置いて俺の右手にはロングソードが握られている。


 そのまま剣を両手で上段に構え、いつでも振り下ろせるように握る手に力を込める。


 通常であればこのまま刀身に微振動を発生させて切断の準備に入るのだが、今日は違う。


 俺も美和さんもテンションマックスなのだ。ここは一つ必殺技でもぶちかましてやりたいところ。


 セイルのおかげで半分くらいまで回復した魔力を使ってデュランダルに通常ではありえないほどの量を流し込む。


 デュランダルの刀身が光り輝き始めると、その光は天に向かって伸び始めた。


 おおよそ10mほどまで伸びた光の刀身を満足そうに見上げる俺と美和さん。


 二人は小さく頷くと暴走一歩手前の速度で迫ってくる四頭立ての馬車を見据えた。


 上段に剣を構えたままの俺のすぐ脇を馬車が通過する。


 通過する際に従者席で必死に手綱を握っているネイアに一言かけた。


「ありがとう。あとは任せておけ」


「旦那様!?」


 うん。そりゃびっくりするよね。全身黒っぽいスーツ着てさ、手からは10mの光の剣を掲げてるんだもん。例えそれが仕える主人だとしてもさ。


 俺はヘルムの中で苦笑すると、あとでゆっくり説明してやろうと心に誓う。説明しなきゃいけないことが多すぎて何から説明すればいいか分からないけど。


 馬車が完全に通り過ぎる頃、すぐ後ろまで追いすがっていたゾンビの群れが視界に入る。


 幸い、そんなに横へは広がっておらずある程度まとまって行動していたようだ。


 本能に忠実だっていっても変なところで人間性ってでるもんだね。


 俺は一度だけ頭を左右に振ると邪念を振り払った。


 準備はした。あとはやるだけだ!


 俺はデュランダルを握る手に一層力を込めて振り下ろす。


「エクス………カリバァァァァァァァ!!!」


 そう。美和さんに教えられた魔法…いや、必殺技名を叫びながら。


 その威力は想像以上で、前方に迫っていたゾンビの群れは上方から現れた大量の光に包まれ、そして、消えた。


 斬られたわけでもない。潰されたわけでもない。文字通り、消えたのだ。


 百体は居たであろうゾンビの軍勢はその一撃で、たった一撃でその大半を失った。空に居た五体の魔族をも巻き込んで。


 俺はその戦果に驚き、目を見開き、戦場にありながらもデュランダルを振り下ろしたままの格好で硬直した。


 幸い、近くにいたゾンビは消滅していたので、攻撃される心配が無かったが、それでも敵は残っている。


「アレクの旦那!呆けてる場合じゃありませんぜ!まだお敵さんはおりまさぁ!!」


 馬車から飛び降り、後ろから走ってきた護衛さんから声をかけられ、俺は何とか再起動を果たす。


 少し距離の離れたところに居た、ゾンビを見据えると今度はデュランダルを地面と平行に構える。


 先ほどの一撃で溜め込んだ魔力は全て使い果たしたので、もう一度魔力を流し込む。またしても刀身が光り出す。


 刀身を全て覆うほどの光までで抑えて、一閃、デュランダルを横薙ぎにした。


「エクス…シュート!!」


 空を切ったデュランダルの一閃はその光を前方へ打ち出した。


 斬撃を飛ばす。言うは簡単でも、いままで成しえた者は誰も居ない、はず。


 そんな斬撃飛ばしを実践で成功させた。例によって美和さんから教えられた必殺技名とともに。


 横幅10m以上に増幅された斬撃は恐ろしい速さでゾンビたちへを迫っていき、その全てを目標に捕らえた。


 斬撃が通り過ぎると腹部を中心に上半身と下半身が真っ二つに分かれズシャっと後方に倒れ込んだ。


「すげぇ!一人で全滅させちまいましたねぇ」


「いえいえ、この剣がすごいだけで俺にそんな力ありませんよ」


「そうですかい?まぁどちらにせよ旦那がすげぇことには変わりはねぇですぜ」


「あはは。ありがとうございます」


「そんじゃ俺らはあいつらに止めをさしてきまさぁ」


 そういうと護衛さん達は剣を片手に上半身だけになってもこちらに近づこうと這いずってくるゾンビ達に走り出した。


 あれ?五人しかいない?…そうか、俺は間に合わなかったか…


(大丈夫です。アレク君はアレだけの人を守ったんです。守ることが出来たんです)


 泣き出しそうなほどの悲壮感に溢れた俺に美和さんは優しく語り掛けてくれた。


(俺、守ることが出来たんですか?)


(アレク君は精一杯頑張って、皆を守りました。私が保障します。だからそんな不穏なオーラを出しちゃ駄目です!)


(ははは、美和さんのお墨付きじゃ何も反論できませんね。ねぇ美和さん。俺、これからもっと頑張ります)


(はい。二人で頑張りましょう)


 俺はヘルムの中で泣き笑いのような表情を浮かべ心に堅く堅く誓った。


 もっと力を。皆を守りきるだけの力を。


「アレクー!」


「お兄様ー!」


 気が付くとミリアとヘルムを取ったセイルがこちらに向かって走ってきている。


 俺はヘルムを脱ぐと二人に手を振る。


「アレクっ!!」


 残り数歩の距離でミリアが飛び掛ってきて俺に抱きついた。


 俺は少しだけ後ろによろめきながらも男の意地でなんとか耐え切った。


 スーツの上からなので、ミリアの豊かなそれの感触が楽しめないのは不満でしかないが、それはそれこれはこれだ。


 いまは正直にお互いの無事を喜ぶとしよう。


 ミリアが俺に抱きついたままぐすぐすと泣き出した。


 恐らく安堵に駆られてのことだろう。


 そんなミリアの背中をぽんぽんと優しく叩いてやる。


 ふとセイルと目があった。


 なにやら寂しそうな顔を一瞬だけ浮かべ、まるで幻であったかかのようにすぐ笑顔の仮面をかぶる。


「旦那様。ご無事でなによりでございます」


「ネイアも無事で良かった。ミリアを守ってくれたんだね。ありがとう」


「私などにはもったいない言葉です」


 ネイアはそういうと静かに頭を垂れる。


「そんなことはありません。ネイア、貴女には本当に助けられました。私を守っていただき本当にありがとうございました」


 いつの間にか泣き止んだミリアはその頬に涙の跡を残しながらも優しく微笑んで、ネイアへ語り掛けた。


 ネイアは顔を上げることなく、そのまま静かに静止している。


 足元には二つ、水滴が落ちたような小さな後が見えた気がしたけど、俺はあえて見なかった事にした。


「旦那ぁ!こっちは終わりましたぜ!」


 そうこうしていると後ろから声がかけられた。


 どうやらゾンビの掃討が終わったようだった。


 俺の肩越しに護衛さんがネイアを見定めると、


「おや?こりゃめずらしい!ネイアの穣ちゃんが泣いてらぁ!」


 と、一言。


 ビキッという音を幻聴したかと思うと、目の前にいたはずのネイアが姿を消し、俺のすぐ後ろでドサッという音が聞こえた。


 俺はあわてて後ろを振り返ると足元に白目を剥いた護衛さんが転がっていた。


 そしてすぐ横にフシューと息を吐き出しているネイアが。そのネイアの手刀が丁度、立っていた頃の護衛さんの首筋付近で制止していた。


 うん。よし、見なかった事にしよう。


「ところでアレク?なぜここにセイルが居るのでしょうか?ご説明願えませんか?」


「ん?あぁ、そうだね。お互いの報告もあるだろうし、休憩も兼ねて馬車の中で話そう」


 落ち着きを取り戻したミリアからの問いかけをきっかけに俺が提案した。


 皆、口々に同意を述べ、俺達は馬車へと向かった。


 後方で倒れこんでいる約一名を無視して。


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