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第三節 SIDE-アレク-

 マスターってどういうこと?そもそも英霊様って会話できるの?なんか普通のお姉さんみたいな感じだけど?


 突然の英霊様の降臨と発言で僕の頭の中はぐるぐる思考が渦巻いていた。


 それはもう大混乱だ。


「えーごほん」


 英霊様も最初の発言以降、じっと僕を見つめたまま固まっていたので、司祭様が気を利かせてわざとらしい咳払いを一つ。


 そこで僕の思考は多少回復した。まだ混乱はしてるけど。


「え、英霊様!僕はライザ村のアレクです!よ、よろしくお願いします!!」


 とにもかくにも会話が成立するのなら自己紹介をしなくては。


 こういうところに意識が回るように教育してくれた父さんには感謝だ。


「わ、わ、わ、私は最上美和です。この世界に知識を授ける為に天界より遣わされました」


 英霊様改め、モガミミワ様はちょっと早口に自己紹介を返してくれた。お辞儀付きで。


 随分と腰の低い英霊様もいるんだね。


 やっぱり僕には普通の綺麗なお姉さんにしか見えないかな。


「それでモガミミワ様は何を司る英霊様でございましょう?」


 司祭様が優しくフォローしてくれた。


「あっ、はい。えーと。天界からは特に指定もなく知識をとのことでしたが…って、幽霊!?」


 モガミミワ様は司祭様が透けていることに気が付いたようで、慌て逃げようと急に体を動かした。


 余り運動が得意な英霊様ではないのか、もしくは急制動によるものか、どこかにひっかかったように躓いた。


 しかし、そのままこけることはなく、空中でジタバタともがいている。


 うーん。綺麗だけどなんか頼りないかも…


 一頻りジタバタもがいて自分が宙に浮いていることに気が付いたモガミミワ様は四苦八苦しながら何とか体勢を整えた。


「………て、天界からというのも聞いたことがございませんし、知識を与える英霊様というのも初耳ではございますね…」


 流石は司祭様。無様な姿は無かったことにして、話を進めるみたいだ。


 もうアレだね。フォローのプロだね。


 司祭様によるプロフェショナル・フォローはなおも続く。


「モガミミワ様の生前はどのような職業に就かれておいででしたか?」


「えーと。薬学専攻の大学生です。」


「「ヤクガクセンコウ?ダイガクセイ?」」


 僕と司祭様の声が綺麗にハモった。


 ダイガクセイなんて言葉初めて聞いたけど、英霊様の時代にあった職業なのかな?


「あっ、そうか。ごめんなさい。科学者です。」


「「カガクシャ??」」


 やっぱりハモる僕と司祭様。


「これも駄目か…それでは科学というこの世界には概念の無い知識を司ってるということでどうでしょうか?」


「ほぉ!新しい概念でございますか!?魔法学に7系統目の誕生というわけですな!これはすばらしい!!」


 え?それそれすごいことなんじゃないのかな?


 でも新しい系統ってことは誰にも魔法を教えてもらえないってことになるんじゃ…


 僕はそんなこと言われても困るんだけどなぁ。


 出来れば一般系統か治癒系統だと嬉しいんだけど…


 ちょっと憂鬱な僕を余所にモガミミワ様と司祭様の会話は続く。


「7系統目ということは現在6系統まであるということですね?教えて頂いてもよろしいですか?」


「畏まりました。現在の6系統の魔法学は…」


 第一系統・攻撃:攻撃、防御に関する魔法を研究する系統


 第二系統・治癒:怪我や病気の治療に関する魔法を研究とする系統


 第三系統・錬金:錬金、鍛冶などの金属に関する魔法を研究する系統


 第四系統・自然:火水風木などの自然界に関する魔法を研究する系統


 第五系統・通信:念話に関する魔法を研究する系統


 第六系統・一般:上記に属さない一般生活に関する魔法を研究する系統


「…と、いった感じでございます」


「なるほど…それでは私の科学は第一、第ニ、第三、場合によっては第五、第六にも跨る系統という事になりますね」


「なんと!?複合型の系統ということですか!?しかも第四を除くほとんどに跨る系統ですとぉ!?」


 司祭様が驚くのも無理は無いと思う。


 いままで単一系統が常識で二つの系統に跨ることですらほとんど前例が無かったはず。


 どちらかというとたまたま結果的にそうなった場合が数例だけあったような気がする。


「そうですね。私の世界では科学というものはほぼ全ての事柄に関わる学問でして。そこから細かく枝分かれして専門的に勉強するんです。私の専門分野は薬学になりますから第二系統の治癒が一番近いと思います。」


 治癒!?やった!!最初は新しい系統って聞いて、ちょっとびっくりしたけど治癒魔法が使えるならなんとかなりそうだ。


 畑の水遣りは無理でも村に新しい治療院が出来れば怪我した時でも街まで行かなくて済むよね。


 そうすれば母さんの時みたいに………


 僕は思わず母さんの事を思い出して泣きそうになる。


「アレク君。先ほどから喜怒哀楽が激しいようじゃが大丈夫か?」


 司祭様が泣きそうな僕の顔をみて心配そうに尋ねてきた。


 流石はプロフェッショナル・フォロー・司祭様だね。


「ちょっと母さんの事を思い出して…母さんは僕が小さい時に魔物に襲われてその時に怪我が原因で…父さんも急いで街の治療院まで連れて行ったですけど間に合わなくて………でも治療魔法が使えるなら村で治療院が開けるし、母さんみたいになる人も減らせることが出来るから大丈夫です!!」


「そうかそうか。頑張るのじゃぞ?」


 僕的には暗い話題ではあったけどなんとか最後には明るい雰囲気にすることが出来て一安心だ。


 もちろん。司祭様の暖かい笑顔のおかげってのもあるけど。


「…………」


 あれ?モガミミワ様がなにか考え込むような難しい顔をしてるけど、何かあったのかな?


 あっ、でもすぐに司祭様のような優しい笑顔に戻った。


 何かあったのかもしれないけど、問題なかったのかな?


 まぁ英霊様のことだからきっと僕なんかがどうこうできる問題じゃないだろうし、気にしないでおこう。


「それではモガミミワ様。これからアレク君の英霊様として導きをよろしくお願いします。」


 司祭様が腰をほとんど直角に曲げて頭を下げ、儀式の締めに入ろうとしている。


「よ、よろしくお願いします!」


 僕の司祭様を真似て頭を下げる。


「はい。微力ではございますが、少しでもより良い道へ導けるよう努力します。よろしくお願いしますね。アレク君」


「はい!モガミミワ様!よろしくおねがいします!」


 微笑みを浮かべ僕に語りかけるモガミミワ様。


 急に英霊様が僕の中に宿ることになって色々と心配はあるけど、優しそうな英霊様に導かれるならきっと大丈夫だ。


「それから私のことは『美和』と呼んでください」


「分かりましたミワ様!!」


「いえ、『様』は必要ありませんよ?」


「え…でも英霊様を呼び捨てにするわけには………」


「わかりました。では間を取って『おねぇちゃん』で手を打ちましょう!!」


「「………え?」」


 本日三度目となる司祭様とのハモり事例発生の瞬間だった。


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