第八節 SIDE-セイル-
お兄様がお戻りになられて休憩と食事の為、一度屋敷に戻ってまいりました。
メイド達に手掴みで食べれる食事を用意するよう告げ、食堂へと向かいます。
一同が席に着くとお父様とお兄様の情報交換が始まりました。
口を挟めるような空気でないことは重々承知しておりましたが、戦闘能力も情報を分析する能力も持ち合わせていない私としては何もできない現状に歯がゆさを感じております。
それでもこの場に在席することを許されていることにありがたみを感じ、何か下着ることが無いか懸命に思案しております。
食堂のドアが開き、メイド達によって食事が次々と運び入れられます。
いつもであればマナーの厳守を求められる場面でありますが、今は戦いの時。
日頃、厳しく躾をなさるお母様も今は手掴みで食事を取られてます。
そのような光景にやはり非日常を肌に感じ、思わず緊張で体が強張ってしまいます。
ふと視線を感じ、顔を上げるとケイトおじ様の視線とかち合いました。
ケイトおじ様は私の緊張を読み取ったのか優しく微笑みかけ、小さく手を振ってくれました。
それがなんとなく可笑しくも、こんな時でも気にかけていだたけるケイトおじ様に軽く会釈を返し感謝を伝えました。
再び顔をあげてお互いの視線がぶつかるとどちらとも無く小さく頷きお父様とお兄様の会話へ集中します。
それから一時間ほどでしょうか、お互いの情報を刷り合わせ結論を導き今後の方針決定へと話し合いは続きました。
「…アレク君の話を統合すると主犯はジャミル村に滞在しておる可能性が高いな」
「お父様、それはなぜですか?」
話に集中するあまり、思わず質問してしまった。
しまったと思いながらもお父様は優しく微笑んで私の質問に答えてくれた。
「簡単な話だ。もしこちらにネクロマンサーがおっとしたらなぜ、わしらの戦闘中にゾンビが現れなかった?あれだけ死体があったにもかかわらず?」
「そうそう。負け戦なら少しでも戦力を増やそうとするだろ?それをしなかったって事は少なくともこっちには居なかったってことさ」
「それに俺が道中に伝令と遭遇している事を考えるとゾンビに襲われたときに確認できる位置に居たことになるはず」
「伝令を送る側もしくは受ける側どちらかに総司令が居るのは明白。そうなると敵の本拠地はジャミル村で主犯はそこに居るという事になりますわ」
お父様、ケイトおじ様、お兄様、お母様と引継ぎ私へ説明してくれました。
あまりにも綺麗なリレーにこの方達はいつも練習しているのではないかとおかしな想像をしてしまうほどでした。
「あ、ありがとうございます」
私は八つの目に晒され、思わず軽く身を引きながらもお礼を告げた。
お父様たちは満足したのか私から視線を外し、再び向かい合い話し合いを続けます。
もう二度とこの場で発言をしないよう心に堅く誓いました。
「しかし、そうなるとこちらは戦力過多のようだな。外敵はわしとケインでなんとかなるし、ニーナの『コキュートス』で守りは問題なかろう」
「俺もミリアのところに戻りたいんですが、魔力の残りが乏しくて…」
「まぁミリア達もこの夜の間は行動に移ることはあるまい。恐らく野営して明朝に出発することだろう。それまでに治癒系統の術師による魔力譲渡で回復すればなんとかなるのではないか?」
「お待ちください。いま領都は私の『コキュートス』で急激な気温の低下に見舞われてから半日。そろそろ体調を崩すものが現れてもおかしくはございません。そしてこれからもそのような者は増加の一途を辿ることでしょう。そうなった時、治癒系統の使い手はこの領都の生命線となります」
「…確かにいまここで魔力を使い果たしてしまうとそのような者たちを見捨てることになるか…」
気候が安定して暖かいこの地域では寒さへの備えをしている家庭はほぼ皆無。
いくらほとんどの者が魔法を使えるとは言え、魔力の貯蔵量はまちまちである為、魔法を行使して暖を取るにしてもそう長時間持つものではありません。
そうなると寒さに振るえ体調を崩すものが現れてもおかしくはありません。
ましてお兄様は『マジョナーキャリアー』。並みの術師では何人もの人間が魔力枯渇に陥る事になるでしょう。
戦闘の要であるお父様やケイトおじ様、防衛の要であるお母様は当然魔力を温存する必要がありますので、譲渡は行えません。
屋敷のメイドもそこまでの使い手はおらず、回復量は微々たる物でしょう。
全く役に立つことが出来ない悔しさから私は俯き今にも涙があふれ出そうでした。
そんな時ふと私の両頬を誰かが包み込むように撫でてきたような感覚がありました。
私は驚き顔を上げますが、誰もこちらを注視してなどおりません。
不思議に思いながらもあの優しい感覚に縋るように自らの頬を撫でました。
「本当ですか!?」
その時お兄様が驚きの声を上げました。
丁度、会話が途切れた瞬間であったので他の方も驚きお兄様へ視線が一同に集まります。
「えっ、あっ、す、すいません。いま俺の英霊の美和さんから報告があったんですが…」
次の発言で更に一同が驚きます。
「どうやらセイルちゃんも『マジョナリーキャリアー』の傾向があるらしいです」
「「「なんだと(ですって)!?」」」
お父様たち三人が驚きの声をあげ、私は驚きのあまり声すらも発することが出来ませんでした。
私がお姉様と同じ『マジョナリーキャリアー』
驚き反面、喜びを感じました。
「だとしてもまだセイルは精霊降臨の儀を執り行ってないぞ?それでは魔法は使えまい」
「原理はよくわかりませんが、英霊を通しての魔力譲渡が可能になるらしいです」
私も皆様の役に立てる!?
こんなに嬉しいことはありませんでした。
「ただし制限があるようです」
申し訳なさそうにこちらを見るお兄様。
そんなお兄様に向かって私は強く宣言しました。
「私は例え今後魔法が使えなくなったとしても構いません!」
「だがセイル!!」
「いいえお父様。私に出来ることがあれば全てを投げ打ってでも行うべきです!これこそ日頃から教育いただいております貴族の矜持かと!!」
「うっ…しかし、セイルよ…」
「あなた、そこまでございます。セイルも立派な貴族の娘。一度心に決めたことは簡単には覆らないことでしょう」
「お母様!ありがとうございます!!」
必死に私を止めようとするお父様。それでも私を理解し、背中を押してくれるお母様。
こんな素晴らしい親に恵まれるとは私はなんとも幸福な娘なのでしょう。
そんな私を更に申し訳無さそうな顔になったお兄様が見つめます。
私は覚悟を決め、使命に燃えた視線で見つめ返します。
「さぁ!お兄様!どのような制限なのでしょう!?」
気合のオーラに溢れすぎた私の言動に圧倒されたのでしょう、お兄様の体が少しだけ後ろへ反っているようです。
「さぁ!教えてください!!」
私はバンと机を両手で強く叩きながら、お兄様への圧を強めます。
お兄様は覚悟を決めた様子で静かに語り出しました。
「…常に触れているだけでいいそうです」
「「「え?」」」
え?たったそれだけ?ただ触れているだけ?
「そ、それだけでいいのかね?」
あまりの衝撃に声が出なくなっていた私に代わりお父様が問いました。
「はい。それだけです。通常の譲渡は魔法によって相手へ魔力を送り込みます。ですがセイルの場合はまだ自ら魔法を使うことが出来ませんので、この方法は使えません」
必死に笑いを堪えているケイトおじ様がうんうんと頷く。
「そこで英霊である美和さんがセイルから魔力を抜き取って魔法へと変換します」
いまだ復活できない私たち三人。
「セイルをタンク、美和さんをパイプ、俺を発射台にして魔法を使うわけです。この時に制限としてセイルと美和さん。美和さんと俺がそれぞれ触れている必要があるんです」
「ぶふっ!」
遂にケイトおじ様が我慢しきれず吹き出してしまいました。
それを合図に私たち三人が同時に復活を果たします。
「アレク(君)(さん)(お兄様)!!」
「はいぃぃぃ!?」
私たち三人は勢い良く椅子をけって立ち上がるとお兄様へと詰め寄りました。
「アレク君!君はなんでそう重大なことのように溜めるんだね!?」
「そうですよアレクさん!私たちのあれほどの覚悟が!!まるで道化ではございませんか!!」
「そ、そう言われましても!!俺が話す前に勝手に話が進んだだけじゃないですか!」
お父様とお母様が口々に文句をつける。
それを必死に弁論するお兄様。
私は嬉しさと恥ずかしさで頭が混乱しており、ただただお兄様への怒りだけに支配されておりました。
「アーレークーおーにーいーさーまー?」
「うぇ!?」
一歩一歩踏みしめるようにお兄様へ近づく私。
身の危険を感じたのか椅子から立ち上がり壁へと逃げていくお兄様。
そんなお兄様は背後に壁を感じながら絶望の表情を浮かべつつも、これから来るであろう衝撃に備えられているご様子。
そこまで期待されておられるなら致し方ございません。
ここは最近ようやくものにすることが出来たまだ名も無い新必殺技を受けていただくことにしましょう。
後方でお父様たちが制止の声を上げているような気がしますが、きっと気のせいでしょう。えぇ!きっと気のせいですとも!
なので、私がこれからの行動を取りやめる必要はまったくもってございません!
私は数歩のダッシュの後、お兄様の直前で前転。
そのまま両足をお兄様の肩へかけて太ももで頭を固定して上体を起します。
丁度前方から肩車をするかのような状態から自らの腰を中心にしてバク宙を行うように後方へ大きく体重を移動します。
そしてお腹から地面へ着地するように全身を反り、最後にお兄様の頭を挟んだままの太ももを地面へ勢い良く叩きつけます。
ふと何処からか『フランケンシュタイナーだ…と…!?』と聞こえたような気がしましたが後ほど確認しても誰も発言していないらしいので、私の空耳だったのでしょう。
頭から床に突き刺さったお兄様。当然のように意識が旅立たれたことはここに記しておきます。




