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エピローグ SIDE-アレク-

 ミリアさんの魔力暴走によって始まった一連の騒動は収束の兆しを見せ始めた。


 新たに問題が勃発したことによって頭の隅に追いやられたとも言うが。


 メイドさんたち総動員で片付けられた食堂に先ほどと変わらない席次で一同静かに着席してる。


 先ほどと違うことといえば、俺とミリアさんの距離。その距離ほぼゼロ。むしろマイナス。


 ミリアさんは椅子に座りながらも器用に俺の左腕を取って全身で絡ませてきてる。


 きっと他の人からはハートマークの乱舞を幻視するほどあろう。


「さて、今件のことであるが…」


 領主様が先ほど吹き飛んだ威厳を取り戻そうと静かに告げる。


「アレク君には二つほどお願いがある」


「はぁ…」


「まずは当初話していた婚約についてだが…身勝手な話ではあると自覚しているがセイルとの婚約は解消して欲しい」


「はい、それは構いません。きっと父も納得してくれることでしょう」


「そうか…そう言ってもらえると助かる」


 領主様は座りながらも深く頭を下げる。


 数秒の静止ののち、顔を上げてまた静かに告げる。


「そしてもう一つについてなのだが……」


「はい………」


 きた…どっちかというとこちらの方が大問題だ。


「どうかミリアを娶ってもらえないだろうか?」


 やっぱりな…どうしよう…正直、まだ結婚なんか考えてない。そもそもまともな職にすら就いてない。


 どうやら俺は貴族らしいけどそんなことさっきまで欠片も知らなかったわけだし。


 そんな中途半端なやつが由緒正しい貴族のしかも周辺領地の領主様の長子と結婚しろだなんて…


 俺が即答しかねると領主様が続ける。


「無茶を言っていることは重々承知している!それでも重ねてお願い申す!!」


 ついには領主様がテーブルに両手をついて額をぶつけるかの勢いで頭を下げる。


「アレク君にその気がないのであればわしの後を継げとも言わん。なんなら今までと変わらぬ生活を送ってくれも構わん。もちろん研究者として赴くのであれば助力を惜しまん。それに資金的な援助もしよう。なのでどうか!どうかミリアと結婚してくれないだろうか!!」


 ガバッと乗り出してくる領主様の目にははっきりと恐怖の色が見えて取れた。


 気持ちは分からないでもない。


 結局ミリアさんはあの結婚宣言の後、食って掛かる領主様をも片手でねじ伏せた。


 左手にセイル穣の右手に領主様の顔面を鷲掴みにしている姿は恐怖の対象以外の何者でもなかった。


 体格差だけで言えば領主様のほうが圧倒的に有利だ。


 それでも領主様の抵抗空しく難なく組み伏せられてしまった。


 ミリアさんはそのままスッと俺の上から立ち上がり、両者を引きずったまま数歩、壁まで歩くとそのまま両者壁へと押し付け持ち上げた。


 そして静かに宣言した。


 曰く、今後私の行動に難癖をつけるようなことがあればこの両手が再び唸ることになると。


 直後、左手のセイル穣を解放し近くにあった金属製の器を掴むと紙細工のようにグニャリと握りつぶした。


 そんな光景を目の当たりにしたら流石の領主様もミリアさんの宣言を認めざるを得なかった。


「いたたたたたたたた!!!!」


 俺が返答に困っていると左腕に激痛が走った。


 しかもミシミシと骨がひしゃげるような音がする。


 いや、事実ひしゃげてるのだろう。


 ミリアさんが顔に影を作って俯きながら俺の腕を締め上げている。


「わかりました!!わかりましたから!!!!」


 俺はミリアさんへ懇願するように了承の意を表明する。


 結婚には早い気がするけど、それ以前にまだ人生の幕を下ろしたくはない。


 命大事に。これ絶対。


 一転して笑顔のミリアさんからスッと力が抜けた。


 俺はその隙に左腕を抜き取ってから立ち上がり、領主様と正対する。


「謹んでお受けさせていただきます!」


 腰から直角に曲がるほどのお辞儀をしつつ領主様へ宣言する。


「おぉ!それは助かっ…げふんげふん喜ばしい!」


 思わず領主様も本音が見え隠れ。


 気が付けばアレだけ敵意むき出しだったセイル穣の視線すらも、今では生贄の子羊を見るような哀れみをもった視線へと変化している。


 その後、式の日取りや領民への御触れ書き、王宮への報告などなど準備にかなりの時間を要した。


 もちろん当事者である俺もその間、屋敷に滞在することになる。


 研究者になる為の道中だっていうのに、どうしてこうなった…


 こうして俺、アレク=コールフィールドは研究者になる前に嫁さんをゲットする羽目になった。


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