第二十節 SIDE-美和-
「それでは解決編と行きましょうか」
さてさてやってまいりました。
二時間ドラマのラスト二十分!そう解・決・編!!。
まぁ場所が東尋坊の崖の上でないのが残念で仕方ありませんが。
もしくは副将軍による世直し道中とか桜吹雪のお奉行様とかでもいいですね。
いや、今回の場合は犯人がいるわけではないのでどちらかと言えば超常現象解決海外ドラマのほうがしっくり来るかもしれませんね。
モ○ダーあなた疲れてるのよってやつです。
因みにアレク君の推理ですが、百点満点中の六十点っといったところでしょうか。
光の反射ってとこまでは良い線いってたんですけどねー
幾ら室内とはいえ光源は多数あるわけなので、普通に考えるのであれば一色になることはまずありえません。
つまり反射ではなく投射。恐らく赤く光る光源があり、それを水の壁へ映しているだけなのでしょう。
水の壁をスクリーンにしたプロジェクションマッピングだと思ってもらえれば分かりやすいですかね。
映像技術の無いこの世界では想像しにくいとは思いますので、及第点ってことで。
きっとミリアさんは本物の炎を求めたのでしょうが、自らの属性が水の為、発動に必要な英霊のイメージが曖昧になってしまった。
それでも少しでも炎に見えるように試行錯誤した結果、今のような状態が生まれたのでしょう。
まぁ英霊様の完璧でないとはいえものすごく頑張ったんでしょうね。心中お察しいたします。
それはそうとアレク君は原因は究明できたとしてもどうやって解決するつもりなんでしょうか?
(美和さん)
おっ、早速お声がかかりましたよ!
(どうしました?)
(水の壁を凍らせたいので、キャスターモードのデュランダルを作ってもらっていいですか)
はい、力技でした!!
科学を使おうよ科学を。
まぁ水を凝固させて状態変化ってことで我慢しましょう。
…正直、小学生の科学実験レベルですが………
(…わかりました。いつでもいいですよ)
(ありがとうございます)
「デュランダル・クリエイト!キャスターモード!!」
研究目的で何度も作っているので位置から作ろうが、もう手慣れたものです。
ものの数秒でアレク君の手には2丁のハンドガンが握られています。
「セレクト・フリーズバレット!」
ぶっちゃけグリップ部分のスイッチを切り替えだけで属性を変えれるんですけどね。
声に出したほうが意識をしやすいので、お勧めしているかぎりで。
決してアレク君が中二病なわけではないですよ?
「いけぇぇぇぇぇ!!」
両手のハンドガンをミリアさんの少し上方へ向けてフリーズバレットを連射しました。
トリガーを引きっぱなしで高速連射できるようになってます。
因みに連射速度は秒間十六連射です。高○名人も納得の速度です。
直径9mm程度の弾ですが、アレク君の無限にも近い魔力のおかげで何発でも打ち込めます。
まるでミシンのように水の壁に無数の穴が空いていき、床に氷の粒が転がっています。
上方の壁を全て凍らすとそこから徐々に下がっていく感じ。
「おぉ………」
領主様から思わず声が漏れ出てます。
まぁこの世界には銃器が存在しませんからかなりの驚きでしょう。
射出されつづけるフリーズバレットによって、水壁はあっという間に氷の粒へと姿を変えています。
さて、水壁が消滅したことで中に佇むミリアさんが見えるようになりましたが、なんとも不穏な雰囲気ですね…
天を仰ぐように天井の一点を見つめている目は虚ろで瞳に光はなく目尻からは一筋の涙の跡。
口元はうっすらと笑い、なにやら聞き取れないほど小さな声で呟いてます。
体は全身が脱力して両手はダランとして、それでいてまっすぐ立っているような状態。
正直怖いです。間違いなくホラーです。真夜中に見たら泣き出す自信すらあります。
足元の氷の粒がキラキラと輝いて幻想的な空間を演出してる分、余計に恐怖を煽ります。
二時間ドラマならここら辺から犯人の独白が始まるところですが、ミリアさんにそのような様子は見られません。
アレク君はどう解決するのかなーと思い、ふと視線をやると。
「……………うわぁ…」
ドン引きでした。超ドン引きでした。
分からないでもないけどそこはヒーローとして矜持でなんとか耐えようよ。
仮にもヒロインの窮地だよ?ここからフラグを建築していくところだよ?
某そげぶさんなら拳を握り締めて突貫しているところだよ?
まぁなんでもかんでも解除するような都合の良い魔法があるわけじゃないので、気持ちは分からないでもないけど。
どちらにせよこの固まった空気をどうにかしないことには話が進みませんね。
(アレク君?とりあえずミリアさんに声でもかけてあげたらどうですか?)
(え?あっ…そ、そうですね…)
私の助言が効いたのかアレク君はゆっくりとミリアさんへ歩を進めていきます。
その情景を静かに見守るご家族一同。
ミリアさんで残り二、三歩といったところで事件発生。
なんとアレク君がすっ転びました。
恐らく自分が作ったであろう氷の粒に躓いて。
しかしそこはある程度訓練した成果もあるもの。なんとか次の足を出して踏みとどまります。
いえ、正確に言うのなら踏みとどまろうとしました。
そうです、そうなんです!この男、再びすっ転びました。
恐らく自分が作ったであろう氷の粒を踏みつけて。
丸っこい氷の粒を踏みつけて転んだわけなので当然前のめり、つまるとこをミリアさんの向かって飛んでいくわけですよ。
それも人間ロケットのように顔面から。
当のミリアさんは天井を見上げているわけですから少し上を見上げる角度に顔を向けているんです。
見上げるミリアさんの顔に人間ロケットアレク君が突っ込むわけです。
するとどうでしょう。皆さんならもうお分かりですね。
そうです!キッスです!!接吻です!!熱い口付けです!!唇に奪われたあの愛の蜃気楼です!!
ミリアさんの瞳は見る見る内に光が戻り、さっと頬に朱が刺し、体全体に活力が満ちていきました。
そして驚くことに人間ロケットのまま宙に浮いていたアレク君の首へ両腕を回すとそのまま抱き寄せて、慣性に身を任せ後方へ倒れ込みます。
この間一秒にも満たない時間で。
私でなければ見逃していたであろうかという早業です。
ドサッと倒れ込む二人。
当然、熱いベーゼは交わしたまま。
「「「「「「「………………………」」」」」」」
長いような短いような沈黙が場を制します。
数秒間の間を置いて各人がはっと気が付き行動に移します。
「ミリア!」
「ミリアさん!」
「お姉さま!」
「ミリアお嬢様!」
口々にミリアさんを呼び駆け寄るご一家。
因みに今の私は宙に浮いている事もあり他の方々よりも視線が高いのです。
結果、テーブルの向こう側が良く見えます。
つまり今の二人がどうなってるかばっちり見えているわけです。
他の方々はというと、駆け寄るまでテーブルの向こうがわがどうなっているか分からないのは当然ですよね?
で、いままさに皆様の目にその情景が触れるわけです。
先ほどとは別の意味で年齢制限が掛かりそうなほどの熱いキスを交わす二人が。
…いえ、二人というのは語弊がありますね。
なんせアレク君はミリアさんの抱擁という名の拘束から必死に逃げようとしているわけですから。
ただでされ首に回された両腕というのは振りほどきにくいですし、なによりこのご家族は無駄に肉体派ですので。
多少の訓練によってちょっぴり普通の人より鍛えてる程度のアレク君では振りほどくのは至難の技でしょうね。
「「「「…………………」」」」
再び静寂が周りを支配しています。
聞こえるのは口をふさがれムームー唸っているアレク君の声とちゅぱちゅぱと唇が織り成す卑猥な音のみ。
それほどの時間が経過したでしょうか?
数秒?数分?時間の流れなど意味を成さないほどに固まった空間。
そして静寂を打ち破ったのはミリアさんでした。
満足したのかぷはっと言う声とともにアレク君を解放しました。
上体こそおこしましたが、依然としてアレク君の上で馬乗りになったまま、とろーんとした目のまま静かに佇んでいます。
先ほどとは違った意味で恐怖を感じます。
「ミ、ミリア?」
盛大に引きつった顔のまま領主様がミリアさんに呼びかけます。
当のミリアさんはうっとりとしたまま無反応。
「ミリア!」
今度は少し強めに声をかけます。
ミリアさんはようやく気が付いたようにゆっくりと領主様へ視線を動かします。
「…お父様…………」
「おぉ!ミリア!わしが分かるか?」
「もちろんでございます……」
まだ少し虚ろではありますがそれなりに意識は明瞭なようです。
「お姉さま!」
領主様の脇を抜けてセイルちゃんがミリアさんへ抱きつこうと飛び掛ります。
がしっ!
しかし空しくも未遂に終わります。
なんと飛び掛るセイルちゃんの顔面をミリアさんが片手で鷲掴み停止させました。
いくら幼女とはいえ消して軽くは無い子供ひとりを片腕でしかもアイアンクロー状態で受け止めるとは…この一家は化け物ぞろいですか…
セイルちゃんはそのまま着地するとアイアンクローを振り払おうとジタバタともがいています。
「お父様!!」
「な、なんだ!?」
すると突然ミリアさんが大声で領主様を呼び、思わずビクッと肩を小さく震わせ応える領主様。
そりゃあんな暴走があった後じゃ怖いですよね。いまの情景含め。
「私、結婚します!!」
有無を言わさない宣言。
意味の取違いなんぞ一切許さない短い文章。
それでも疑問は残る。
「…誰とだ?」
そんな一同の疑問を代表して領主様が言葉にして発する。
「アレクさんとです!!」
ですよねー
「しかし、アレク君はセイルの婚約者で…」
「お父様!!」
「はいぃ!」
ミリアさんの再びの大声にまたしてもビクッと小さく肩を震わす領主様。
もう父親の威厳とやらはどこかへ吹き飛んでいったご様子。
「私、結婚します!!!」
無限ループって怖いよね。