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第二節 SIDE-美和-

「汝が私のマスターか?」


「…え?」


 はい。やらかしたぁぁぁぁぁ!!!


 やっちゃったよ。完璧にやらかしたよ。


 ほら目の前の男の子、完全にフリーズしちゃったよ。


 いや、ほらね?オタクならこういうシチュエーションなら一発かましたくなるじゃん?まさかこんなに外すとは思わないじゃん?


 私の美貌なら某剣王としてもいけるかなーとか思っちゃったわけですよ。


 正直、調子に乗ってたのは認めますよ。でもさ、ここまで完璧に場が凍るとは思わないじゃん?エターナルブリザード?ただし私の心が死ぬ??


 恐らく1秒にも満たない時間で無駄に高速化された私の脳内で目まぐるしく、良い訳の桜吹雪が乱舞している。


 さて、盛大にやらかしてしまったわけだが、私も自ら望んでここに英霊として顕現したわけではない。


 つい先ほどまで薬学を専攻とした一学生として大学生活を順風満帆に送っていた。


 ………年齢=彼氏なしが順風満帆と言って良いのならという但し書きが付くが。


 幸い、容姿には(私なりとしては)ある程度恵まれ、学力も天才とはいかないにしても、そこそこの努力で国内トップクラスの大学にも合格できた。


 入学後もゼミの研究でもそれなりの結果を出し、このまま大学院まで進めば、間違いなく自ら望んだ研究室に入ることが出来たであろう。


 運動はまったく出来ないわけではなかったが正直、苦手の部類に入るので、サークル活動に精を出すことは無かった。


 趣味らしい趣味といえば俗に言うオタク趣味というやつで、休日はゲームで潰れる日々であった。


 十分に充実した毎日だった。なぜか彼氏は出来なかったが。


 では何があったのか?ごくありふれた簡単な話だ。


 その日、深夜までゲームを楽しんでいた私はふと小腹が空いたことに気が付き、近くのコンビニまで出かけるけることにした。


 深夜帯であったし、徒歩5分程度の距離にコンビニがあったので、部屋着のまま外出することにした。


 上下真っ黒なスエットで。さらに私の髪は背中の中央くらいまでの真っ黒な長髪だった。


 後ろから見れば非常に気が付きにくい格好であっただろう。


 実際、気が付かれなかったのだ。深夜の運転の疲れから一瞬、気が緩んでしまったトラック運転手には。


 そして私はそのトラックに轢かれ還らぬ人となった。


 次に目覚めた時は知らない天井…ではなく知らない部屋に居た。


 果たして部屋と言って良いか微妙なところではあるが。


 なにせ一面真っ白なのだ。壁も床も天井ですら真っ白だ。


 むしろ部屋の中に居るというよりは真っ白な空間の中で漂っていると言っても過言ではあるまい。


「最上美和さんでお間違いありませんか?」


 ふと頭の中に直接、少年のような少女のようななんとも言いがたい中性的な声が響く。


 正直、私の好みのどストライクな感じの。


 平常心を保つことに全力を注がなければ気持ちの悪い笑い声が漏れ出てしまいそうになるほどにどストライクなヤツ。


「えぇ。間違いありません」


「それではなぜ貴女がここにいる理由はお分かりですか?」


「いえ。思い当たる理由がございません。」


「そうですか…」


 頭に響く声に少しだけ哀愁が漂った。


「実は貴女はトラックに轢かれ、そのまま還らぬ人となりました。ここは貴女方で言うところの死後の世界といったところです」


「なっ!?死んだ?私が?」


「はい。望まれるのであれば死の直前の映像をご覧になることも出来ますが、いかがなさいますか?」


「…よろしくお願いします……」


 さきほどのトラックの映像が目の前に浮かぶ。


 正直、運転手には思うところが無いわけではないが、もう起きてしまった事を取り消すことは出来ないし、自分の背格好も原因のひとつとして考えるとなんとも言えない気持ちになってしまう。


 これから罪の意識に苛まれながら生きていくことになるであろう運転手には少しだけ同情してしまう。


「…わかりました…ありがとうございます……」


 なんとか搾り出すことに成功した声でお礼を告げる。


「取り乱されないのですね」


 中性的な声からは同情が読み取れる。


 しかし、だからと言って込み上げてくる怒りは押さえ込むことに苦労しないわけが無かった。


 時間にして5分程度だろうか?私は叫びたくなる衝動をぐっと抑えて黙り込む。


 一度だけ深呼吸をし、なるべく感情を押し殺し、答える。


「今ココで、泣き叫んで、転がりまわって、あなたを大声で恫喝して意味があるならそうしましょう。ですが、恐らくそれらは意味がないものでしょうから、その無駄を省いたに過ぎません」


「お気を使わせてしまいましたね。…お心遣いありがとうございます」


「いえ、無駄の無い行動は私の信念ですので」


 強がった。盛大に強がった。


 泣き叫びたかった。まだ生きたいと。まだまだ遣り残したことがあると。


 謝りたかった。大きな愛で包んでくれた両親に。先に逝く身勝手を。


 そしてなにより消したかった。耐性の無い非オタクには確実にトラウマを植えつけるであろうパソコンの中の夢小説達。


「あっ、貴女のパソコンの中にある『アレ』なデータは『不慮の事故』で完全消滅させておきました」


「あなたが神か!!!ありがとうございます!!!!」


 よし、これで憂いは無くなった…訳ではないが大半はクリアになった。


「いえいえ、これもアフターサービスの一環ですので。最近この手の思いが強すぎて残留思念として現世に残ってしまうケースが非常に多くて…」


「神々も大変なんですね…」


「いえ、これも時代の流れということですね…さて、最上美和さん」


 そこまで穏やかだった中性的な声に緊張の色が覗く。


「いま貴女には二つの選択肢がございます」


「選択肢?」


「はい。一つはこのまま天界へ召されること。もう一つは別の世界へ転生することです」


 いよっしゃ!!異世界転生フラグゲットだぜ!!


 先ほど以上に感情を押し殺す事に苦労した。


 しかし完全に押し殺すことは出来なかったようで思わずガッツポーズをしてしまった。


「い、異世界転生と言っても完全に復活することはではなく、英霊として降臨しその世界の住民を導く手助けをしていただくことになります」


 ん?あれ?声に出してないはずなのに会話が成立してる?


「私たちは思念を読み取ることが出来ますので…その貴女がお考えになっている事は全てこちらに伝わって…」


「ジーーーーーーザス!!!」


 なんか可笑しいと思ったよ。意志の疎通がスムーズすぎると思ったよ!!


 ちょっと忘れてたけど頭の中に直接声が響いてるわけだから読み取ることも出来るよね!!


 最初の方のちょっと気持ち悪い感情とかも駄々漏れだったわけですね!


 あはははははははははは。よし、土下座しておこうかな!!


「ん?英霊?住民を導くってどういうことでしょうか?」


 速やかに土下座へ移行する直前にふと私の頭を掠めた疑問がそのまま声となって出た。


 どうせ頭の中で考えたところで同じですしね!


「えぇ、天界が管理している世界は複数ございまして、貴女の住んでいた世界はその内の一つです。貴女の世界にも時々『天啓を受けたような、まったく新しい理論や現象』がございませんでしたか?」


「はい。確かにありました。人類の火の取り扱いやペニシリンの精製などがまさにそれに当るかと」


 他にも思い当たる節が何個か。


「はい。そういった『天啓』は貴女方から見た異世界の住人が与えた知識によるものなのです」


「な、なんだってー!?」


「…なんでございましょうか、その反応。まぁいいでしょう。そこで貴女には文明が低い世界へ渡っていただき神の使いとして『天啓』を導いて頂きたいのです」


 どうもMMRはお気に召さないご様子。駄目だったよキバヤシ!


 しかし、私が異世界へ行く理由は理解できた。


 天界とやらにはあまり興味も湧かないし、異世界で英霊とやらになったほうが面白そうではある。


「ご理解いただいたようで頼もしい限りです。それでは異世界へ送り込んでもよろしいでしょうか?」


 またしても思考を読まれたようですね。


 まぁ声に出さないってのはそれはそれで楽なものかもしれない。


 そこで私はふと自分の背格好を思い出した。


「ちょーーーーとお待ちください!!上下真っ黒なスエットで異世界へ行くのは流石にどうかと!!どうにかなりませんか!?」


 流石に私にも女として矜持がある。


 出来れば多少なりとも身支度は整えたい。


「そうですね。気が回らなくて申し訳ございません。それでは着替えたい服装を頭の中でイメージしてください」


「あっ、はい」


 そうだな…やっぱり少しでも知的な格好のほうが良いか…なんせ知識を与える英霊だしね…


 眼鏡は必須だよね。別に視力が悪いわけじゃないから伊達眼鏡で。赤いフレームがいいかな。


 上着は…白衣でいっか。一番慣れ親しんでるし、知的に見える…といいな。


 スカートはタイトスカートで色は黒。膝丈くらいでTHE・理系って感じの。


 ブラウスは眼鏡と合わせて赤かな?ただ真っ赤だと目に痛いしワインレッドぐらいのほうが落ち着いてて良いよね。


 あとは黒いパンプスと黒いストッキングで…って、これAVに良く出てくる保健医じゃん!!


「はい。では、このイメージで変換しますね」


「あっ、ちょ、まっ!!」


 気が付けば私は光に包まれてそのまんまAV保健医の格好で異世界へ降臨することになった。


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