第十九節 SIDE-アレク-
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
ミリアさんが叫び声を上げたかと思うといきなり燃え上がった。
その炎は高い天井にまで届く勢いでだった。
俺はすぐ隣にいたが、炎の勢いに吹き飛ばされ3mほど先の壁にぶち当たった。
「不味い!魔力暴走だ!!」
朦朧とする意識の中、領主様の叫び声で覚醒する。
「アレク君!魔力暴走って以前お父さんが説明してくれた奴ですか!?」
「そうです!精霊の準備が整わない内に魔力を行使すると起こる現象で、ほとんどの場合が精霊と同じ属性の魔法が勝手に発動し続けてしまいます!」
「え……でもミリアさんは英霊がついてましたよ?」
「じゃあなんで魔力暴走が!?」
美和さんとの会話の最中もどんどん炎の勢いが増していく。
もうミリアさんの姿は見えないほどの勢いだった。
領主様が奥様をメイドさんがセイル穣を支えてなんとか炎の範囲から離脱している。
「領主様!お怪我はありませんか!?」
俺は領主様へ駆け寄り安否を確認する。
「おぉアレク君も無事か?わしもこやつも無傷だ。セイルも見る限り大丈夫そうだな」
奥様を抱きかかえている領主様の視線を追うと4mほど離れたところからメイドさんがセイル穣を抱えてこちらに向かってきている。
「旦那様。お怪我はございませんでしょうか?」
「あぁ、無事だ」
「お母様!」
「あぁ…セイル!無事でよかった…」
主従と親子の感動の再会劇だ。
さて全員無事っぽいので、この状況の打開策を考えるとしますか。
「領主様。ミリアさんは英霊様を宿しているんですよね?」
「あぁ、槍の名手・クリフト様を宿していると聞いている」
「クリフト様の属性は火なんですか?」
「いや、水の治癒系統のはずだ」
「そうですか…」
領主様から聞いた限りでは今の状況はありえない。
魔力暴走の場合は属性に引っ張られる形で顕れる。
つまりクリフト様の属性が水ってことはそれに見合った姿になるはずだった。
それにそもそも魔力暴走は精霊との意思疎通がうまくいかない時に起きる場合が多い。
英霊であれば会話が可能なのだから発動に支障は無いはずだ。
(美和さん)
(なんですか?)
(クリフト様って今はどんな状態ですか?)
(えっとですね………)
(どうしました?どんな状態なんですか?)
(それが、見当たらないんです)
(え?どこかに行ってるってことですか?)
(いえ、つい先ほどまではミリアさんのすぐ後ろに立ってました。それが今はどこにも見当たらないんです)
(炎に巻き込まれて見えないだけとかじゃなく?)
(それはないと思います。空気と言いますか英霊特有の気配は感じますから、この場にいるはずです!)
(わかりました。もしクリフト様が現れたら教えてください)
気配は感じるのに姿はないか…
俺は美和さんとの念話を終え、思考に集中する。
なぜ、属性が異なる姿で顕れた?そしてクリフト様はどこにいった?
「お姉さま!!」
ふと隣でセイル穣の叫び声で思考が中断した。
「セイルお嬢様!危のおございます!!」
「でもお姉さまが!炎の中で泣きながら立ちすくんでる!!」
ん?セイル穣からはミリアさんが見えてる?
領主様も疑問に思ったのかセイル穣に視線を浴びせている。
「領主様」
俺は疑問を確認する為に領主様へ声をかける。
「あぁ、聞きたいことは分かっておる。わしからミリアは見当たらん」
「やはりそうですか…奥様はいかがですか?」
「私からも見当たりません」
先ほどから領主様に抱きかかえられたままの奥様も首を横に振りながら応えてくれた。
「皆、さっきから何を言ってるの?お姉さまがあんなに悲しそうに涙を流しながら立ちすくんでいるのに!!」
俺達の会話を聞いていたセイル穣が苛立ちとともに感情を吐露する。
やっぱりセイル穣にはミリアさんが見えてる。
俺達とセイル穣の違いはなんだ?
(まさか年齢制限とかじゃないですよねーR指定でモザイク掛かるとか)
(美和さん…こんな時に冗談を言ってるば…あ……い…じゃ………)
年齢制限?あぁ!年齢制限!!!
「そうか!!」
「どうした!?アレク君!?」
俺が上げた突然の大声に領主様から非難を含む驚愕の声が飛ぶ。
「あっ、申し訳ありません。領主様」
こんな時でも忘れない身分の差(実際には同格らしいけど)
「ところで、セイルお嬢様っていまおいくつですか?」
「それはいま関係あるのかね!?」
今度は非難成分100%の声が上がる。
「どうしても確認が必要なんです!」
俺の真剣な眼差しに押され領主様は冗談ではないと悟ってくれた。
「………今年で十歳だ」
「なるほど、ところで領主様は?」
「三十七だ。それで何が分かったのかね?」
「えぇなんとなくではありますが、恐らくあの炎は実際には燃えていません」
「「はぁ?」」
領主様と奥様が綺麗にハモる。
「水しぶきが上がると一瞬虹が見えることってありますよね?あれは水しぶきに太陽の光が乱反射して七色が生まれるんです」
「ほぉ」
興味が湧いたのか領主様が色好い声を上げる。
「詳しい説明は省きますが、光が方向が少なくなると虹は七色から減って行き、理論上、最後には一色になります」
「ふむ。つまりあの炎は水に光が反射しているだけの幻影というわけだな」
「はい、そうです。理解が早くて助かります。」
「なるほど。原理はわかった。だが、それだとなぜセイルの目には我々よりも炎が薄くみえるのかね?」
「それはですね。色をいうのは実は年齢によって微妙に見え方が違ってくるんです。特に赤色というのは幼い子供には見えにくい場合が良くあるんです」
「なに!?じゃあセイル以外にも幼ければ見えにくくなっているはずだな?」
「えぇ、個人差があるので一概には言えませんが、恐らく見えにくくなってるはずです」
「ふむ………ネイア。お前にはどう見える?」
領主様がメイドさん―名前はネイアさん―に向かって問いかける。
いや、領主様。ネイアさんは明らかに俺よりも年上じゃ…
「はい、旦那様。私の目にはミリアお嬢様が見えております」
「はぁ!?」
いやいやいや、見た目妙齢のメイドさんが見えにくいわけないでしょ!?
もしかして年齢の話しちゃったから見栄を張っちゃった?
「やはりな…」
えぇ!?領主様が納得しちゃったよ……メイドの見栄に乗ってあげるとか良い人過ぎない!?
「なにやら非常に失礼な思考が読み取れるのですが……」
笑顔だけど額に血管を浮かべてネイアさんが俺にすごむ。
ヤバイ。ものすごく怖い。
「その…アレク君。勘違いをしているようだから忠告するが、ネイアはセイルと同い年だ」
「「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」」
俺と美和さんの声がハモった。領主様達に聞こえるのは俺の声だけだけど。
「失礼致します」
どすっ!
「ごふっ!!」
ネイアさんから謝罪と同時に放たれた拳が俺のみぞうちへと吸い込まれる。
「今のはアレク君が悪いよ」
「そ、そうですね。ごめんなさい…」
領主様から呆れ声によるジャッジが下り、俺は素直に謝罪した。
それはさておき、お遊びはここまで。
俺は痛む腹をさすりながらキリッと気持ちを切り替える。
その空気が伝わったのか領主様一同に緊張が走る。
「それでは解決編と行きましょうか」
俺は堂々と宣言する。




