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第十三節 SIDE-美和-

 バルトに魔族のお姫様を押し付けてからアレク君たちは野営地を出発し進軍を続けて早五日。


 収集した情報が正しければ、そろそろ帝国軍の殿が見えてくる頃合です。


 貴金属を身に着けていなければEMS(Electrical-Muscle-Stimulation)の餌食になることは無いと分かったものの発信源自体の発見には至っておりません。


 それにお姫様をけしかけた軍師が向こうに居ると思うと次はどんな卑劣な手段を取ってくるのかと気が気ではありませんでした。


 この五日間は妨害らしい妨害を受けていませんでしたので、アレク君をはじめ軍の緊張感も少し緩和されてきている様子。


 私に言わせれば今が罠にかける絶好のチャンスだというのに一度緩んでしまった空気を再び締めなおすにはかなりのテコ入れが必要になることでしょう。


 例えば敵襲だとか?


「前方より敵襲!!数五千!!」


 あらま、まさかのフラグ回収してしまいました。


 それにしても四千とはどういうことでしょう?


 確か帝国軍の総数は一万五千だと記憶していますが、その三割をこちらに投入してきたという事になります。


 前面では公国兵一万と戦闘中のはずですので、そちらを同数にしてまでこちらに戦力を割る理由もイマイチ理解出来ません。


 まぁ公国の戦況はあまり良くないような報告もありますので、余裕があるとでも言いたいのですかね。


 どちらにせよこちらは四千五百。


 軍事国家で職業軍人中心の帝国軍に比べ徴兵中心の王国軍はその兵力は劣ります。


 仮に同数であった場合、どんなに善処したところで負けは目に見えております。


 ではなぜ今回の挙兵となったのか?


 この世界には魔法がありますし、英雄級と呼ばれる人たちがいます。


 結局のところ、一騎当千ともいえるほどの戦闘力を持つ英雄級の人数が戦況を左右するわけです。


 王国は貴族制度が色濃く残る体制ですので、富が集中しやすくなっております。


 必然的に教育や才能が集まりやすく、英雄級を多く保有しやすい体制であると言えます。


 帝国は軍を中心とした体制ですので、平均化に重きを置いております。


 つまるとこと短所を無くすことに特化しており、総合的な軍事力は高いと言えますが個人単位で考えると差ほど脅威とは言えません。


 とはいえ英雄級がまったく居ないわけではありませんので、群れをなす軍と個人技の英雄級がかみ合った瞬間はそれは恐ろしいものになるといえるでしょう。


 公国が苦戦している理由はこれにあたるのでしょう。


「全軍に伝達!英雄級を中心として部隊を展開!横陣にて応戦!両翼を広げよ!!」


 アレク君が吼えて軍を動かしていきます。


 その声に呼応するように伝令兵が各所へ走り、軍が波を打つように移動を始めました。


 現代で言うところの鶴翼の陣に似たような陣形を取ると帝国軍を待ち伏せました。


 視界にぎりぎり捉えれるほどの距離で帝国軍も陣形を整えているようで大勢の人が動くことによる土煙が辺りへ立ち込めています。


 土煙の壁が晴れる頃には帝国軍の布陣は完了しており、こちらと同様に細かい部隊を編成し横長に二列に分けると前衛と後衛をジグザグに配置しています。


 恐らく消耗と共に前衛と後衛を入れ替える為の布陣なのでしょう。


 平均化を良しとするなんとも帝国らしい陣形です。


「百歩前進!!」


 この世界は魔法がある為、飛び道具の類はあまり発展していません。


 ゆえに、大規模戦闘を行う時は互いの魔法による射程距離を探り合うようにじわりじわりと近づいていくのが定石です。


 この射程距離が意外と曲者で魔法の発動自体は誰でも可能ですが、飛距離や威力は込める魔力に応じて変化します。


 これによって魔法を専門に扱う部隊や接敵して剣や槍で戦う部隊などに分けられます。


 ただし魔法専門の部隊を一箇所に纏めてしまうとそこを集中攻撃されて壊滅させられてしまうと後はアウトレンジからひたすら攻撃を受ける羽目になってしまいます。


 つまりある程度の分散は必要だけど纏めなければ意味がないというジレンマに挟まれて世の軍師たちの頭を悩ませている結果になるわけです。


 当然今回の編成でもそこが一番の要となっておりました。


 結果、翼の両先端と中央付近に魔法部隊を纏めることに落ち着きました。


 総指揮官のアレク君は中央付近からすこし脇に逸れた部隊に紛れ込んでおります。


 領主様はじめ他の貴族様は「将たるもの、中央で指揮をとらんでどうする!!」と大きな声で主張しておりましたが、アーチャーモードのデュランダルの狙撃を目の当たりにしては一言も発することなく合意となりました。


 ですので、本来指揮官が居るとされて、今回の作戦では囮となる中央部に魔法部隊を展開することになったのです。


「計測射撃開始!!」


 アレク君の号令が響き数発の魔法が両翼より飛び出しました。


 弧を描くように発射された火の玉は両軍の中央から帝国側の半分、全体の四分の一の場所へ着弾しました。


 この結果をもって込められた魔力と飛距離を計算して、次の行動に移るというのを繰り返していきます。


 直後、帝国からも火の玉が射出され、互いの距離を測るようにじわりじわりと動いていきました。


 そんなやり取りが数回行われると一気に戦局が動きました。


「両翼、全力射撃!目標左翼!!射出後、中央は障壁を展開!!」


 数百発はあろうかという火球が一斉に射出され、帝国軍の左翼へと吸い込まれていき着弾と同時に大爆発を起しました。


 木の葉のように舞い上がる影が何なのか脳が理解する前に視界を逸らすことに成功しましたが、喉の奥から湧き上がる不快感だけは拭いきれません。


 その間に中央部隊では迅速な行動が求められ、全弾の射出と確認すると反撃に備えすぐさま風の魔法による不可視の壁が両翼に貼られました。


 しかし帝国側もそれを読んでいたのか右翼部隊から中央部隊に向かう途中に着弾するよう大きな水の柱が押し寄せてきました。


 風による障壁は物理的な衝撃に対してはほぼ効果もなく水の柱が直撃した部隊はボーリングのピンの様に何人もの兵士が弾き飛ばされていきました。


 重力による減衰を考慮にいれても直線的に迫り来るほどの速度と質量です。


 人間など鎧を着ていたとしてもひとたまりも無いことでしょう。


「被害状況を確認せよ!寸断された右翼の魔法部隊を中央へ吸収する!」


 中央と右翼の間を抜かれる形になった為、右翼の部隊は寸断、孤立することになりました。


 その為、アレク君は右翼部隊を中央に吸収、部隊の再編成を行うつもりのようです。


「左翼は再び全力射撃!先ほどの着弾点より中央を狙え!!」


 先ほどとは比べ物にならないほど少量の火球が宙に舞いました。


 それでも百を優に超える数の火球が自軍左翼から飛び出し敵中央よりへと襲い掛かりました。


 これは帝国の読み通りだったようで、風の障壁によって着弾は憚れ空中で大爆発を起し消え去りました。


「くそっ!」


 その光景を目の当たりにしたアレク君は悪態をつくと次の指示を考えているようでした。


 しかし戦慣れしていない総指揮官では定石以外の奇手など思い浮かぶはずも無くこのままでは地力で劣る王国軍の敗北は時間の問題かと思われました。


(アレク君、中央部隊を前進。右翼と合流の後、通常部隊を伴って右前方へ出ましょう)


(美和さん!?)


 そこは問屋が卸しません。


 この世界よりも何百年先を行く我が故郷の戦闘の歴史を舐めてもらっては困ります。


 特に日本は何百年も内乱をしていたほどの戦闘民族ですよ?


 この程度の小競り合いなんて何度も経験済みです!ただしゲームで!!


(いいから指示を出してください!間に合わなくなっても知りませんよ!?)


(は、はい!!)


「中央は右翼部隊と合流後、両脇の騎兵部隊と共に前に出るぞ!目標は敵左翼前方!!」


 アレク君の指示に対して領主様の右眉がピクリと動きましたが、特に何も言うつもりが無いのか髭を弄びながらアレク君の背中を眺めています。


 その口元は少しばかり口角が上がり、笑いを必死に我慢しているようにも見受けられました。


 私の奇手がお気に召したのか、あまりにも常識からかけ離れた一手がただ可笑しいのか私には判断がつきません。


 それでも作戦を訂正をされないところを見ると前者であると思っておくことにしましょう。


(左翼はもう一度、敵左翼へ火球です!)


(それだと防がれませんか!?)


(大丈夫、私を信じてください)


(わかりました!)


「左翼は再び全力射撃。目標、敵左翼!」


 アレク君の指示に一瞬どよめきが走りました。


 周りの貴族からは「馬鹿の一つ覚えが」とか「血迷ったか」などと誹謗中傷の嵐。


 表情をゆがめただけの奴は許しますが、口に出したてめぇらは駄目だ。


 後で必ずシメてやろうと深く深く心に誓いました。


 それでも軍は命令が全てですので硬直も一瞬。即座に左翼から対角に向けて再び大量の火球が飛び出しました。


(それじゃあ火球が頂点に達したら風の魔法でスライドさせますよ!)


(!?…なるほど、了解です!!)


 弧を描くように飛び出した火球はその勢いを緩め、一瞬停止するように頂点へたどり着き、あとは慣性と重力で落下するだけとなりました。


(今です!!)


「ハイ・ウインド!!!」


 頂点に達した直後で一番運動エネルギーが消失したタイミングで横から風に煽られ新たな運動エネルギーと得たとするとどうなるでしょう?


 答えは簡単。敵左翼へ迫っていた火球はその矛先を変え、綺麗なカーブを描くと敵中央へと降り注ぎました。


 恐らく軌道を計算して左翼上空へ障壁を張っていたであろう帝国はその変化球を受け止めれることなく無防備な中央へ着弾。


 大打撃を受けることになりました。


 文句を言っていた貴族は口をあんぐりと大きく開けて呆けております。


 私は鼻を「ふふん!」と鳴らすと誰がどう見ても完璧なドヤ顔を晒します。


 まぁ誰にも見えないんですけどね。


(さぁ、これで中央からの支援は望めなくなりました。敵左翼を殲滅しましょう!)


(了解です!!)


「敵左翼を殲滅するぞ!俺に続けぇぇぇぇぇぇ!!!!」


「「「「「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」


 地響きと共に馬に跨ったアレク君が飛び出していきました。


 確かに殲滅しましょうとは言いましたが、総指揮官が前線に出て行ってどうするんですか…


 私の溜息にハモる様に領主様もこめかみを押さえつつ溜息を漏らしておりました。


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