第一節 SIDE-アレク-
「アレクーいくぞー」
「はーい!」
今日は僕の12歳の誕生日だ。
いまから父さんと一緒に教会へ行って精霊を僕の中に宿すらしい。
ちょっと怖いけど、皆やってることだし今日から魔法が使えると思うとここ最近は興奮してあまり眠れてないほどだ。
「アレクはどの属性の精霊がいいんだ?」
「そうだなーやっぱり水の精霊がいいかなー」
「水?そこは父さんのようにかっこいい火の精霊がいいとか言うとこじゃないか?」
父さんが目に見えて不機嫌になってる。
その程度のことでいい大人が機嫌悪くするなよ、大人気ないよ父さん。
軽くうんざりしながらも僕は答える。
「だってさ、水の精霊を宿したら畑の水やりが楽になるから父さんの手伝いもいままで以上に出来るだろうし、治癒魔法が使えるようになれば村の誰かが怪我した時もわざわざ町の治療院まで行かなくて済むでしょ?それに僕はマジョナリーキャリアーなんだから水不足になっても村中の水を賄えるくらいにはなるんじゃないかな?」
「…………」
僕の説明に父さんからの返答は無かった。
父さんを見ると…少し俯いてる?
僕は不思議に思って父さんの顔を下から覗きこんだ。
「うぐ…ぐす…アレク…いい子に育って……ぐす…死んだ母さんも……きっと喜んで…ぐす…いると………思うぞ!」
大号泣だった。
いくら父さんだからといって大人のマジ泣きってちょっと引くよね。
いや、ちょっとどころかドン引きだよね。
「うおーー母さーーーん!アレクはいい子に育ってるぞーーー!!」
今度は天に向かって叫んでるよ。
感情の起伏が激しすぎるのは正直どうかと思うけどね。
こんなんでも父さんだし、母さんは数年前に死んじゃったから唯一の肉親だしね。
やっぱりドン引きだけど。
このままだと暫くの間、父さんの咆哮が続きそうかな。
「どっか邪魔にならない所にでもいってようかな。日向はちょっと暑いしね」
僕は独り言とともに道の端っこの木陰にまで歩いて行き、腰を下ろして父さんを眺めていた。
「はあはあはあ…あれ?アレク?どこ行った?」
一通り叫んで疲れたのか肩で息をしている父さんはようやく僕が傍に居ないことに気が付いたみたいだ。
「ここだよ。父さん。さあ行こうか」
僕は立ち上がり父さんの手を取って、有無を言わさずに歩を進める。
教会までの道のりはそう遠くないとはいえ、時間を余り無駄にするは良くないよね。
また再起不能になられても困るし、僕としては早く魔法を使えるようになりたい。
「あ、あぁ。そうだな。」
父さんもようやく正気を取り戻したようで素直に僕についてきてくれた。
そしてそのまま畑の事とか、僕の友達の事とか他愛も無い話をしながら教会への道のりを順調に進んでいった。
その後は何事もなく教会に到着して親子揃ってドアをくぐる。
「ライザ村のアレクです。今日は精霊降臨の儀に参りました」
「はい。アレク君ですね。話は伺ってます。それではここからは私と一緒に向かいましょう」
僕が受付のお姉さんに話かけると既に連絡が行っていたらしく、スムーズに話が進んだ。
どうやら父さんとはここでお別れらしい。
僕がふと振り返ると父さんは不安と期待が入り混じったものすごく微妙な顔になっていた。
「それじゃあ、父さん。行ってくるね」
「あぁ。しっかりな」
父さんに一言かけてから別れ、受付のお姉さんと二人で教会の奥へと進む。
そこから扉を2つほどくぐり、階段を降り、教会の地下室まで進んだ。
「この先の扉を開けると司祭様がお見えです。そこに魔方陣がありますので中央に立って、後は司祭様の指示に従ってください」
「ありがとうございます。行ってきます」
「はい。お気をつけて」
一緒に歩いてきたお姉さんの笑顔に見送られ僕は今までの扉とは豪華さが一際目立つ扉を開けて中に進んだ。
中はかなり広い。そして暗い。
地下室という事もあり、空気が少しだけ冷たく、少しだけ重たい感じがする。
ただ単に僕が緊張しているだけかもしれないけど。
僕が数歩進むと入ってきた扉がゆっくりと閉まっていく。
光源を扉からの光に頼っていた室内は扉が完全に閉まってしまうと、真っ暗になってしまった。
次の瞬間、目の前の床に青白い光を帯びた二重の円に囲まれた文字とその円の中央に幾何学模様が刻まれた。
これが魔方陣?
僕はお姉さんの言葉を思い出し恐る恐る魔方陣の中央へと歩き出した。
ちょうど円の中央付近になった時、僕の正面、円の外側に一人の老人が浮き上がった。
そこに居たのではなく突然、浮き上がった。
しかも魔方陣と同じ色で淡く光ってるし、ちょっと向こう側が透けて見える。
え?幽霊??
「君がアレク君かな?」
僕が唖然としていると幽霊(暫定)が話しかけてきた。
「え?あっ、はい。ライザ村のアレクです。」
「そうかそうか。さぞ驚いただろうが、私が儀式を執り行う司祭じゃ。この通り体は当に消滅しておるがの」
やっぱり幽霊(確定)じゃないかぁ!!
ぱっと見は優しそうな笑みを浮かべるおじいさんって感じなだけに僕は余り恐怖を感じない。
ごめん。嘘。やっぱり怖い。
だって幽霊だよ?普通に怖いよね!?
僕は心の中で誰にするでもない言い訳を行う。
「ふぉふぉふぉ。さて、アレク君。今日は君の精霊降臨の儀を進めたいのじゃが構わんかな?」
幽霊(司祭様)は笑みを絶やすこの無く淡々と話を進めていく。
「よ、よろしくお願いします!」
「うむ。よい返事じゃ。それではそのまま力を抜いて楽にしておれ」
司祭様が小声で何かを呟くと足元の魔方陣の輝きが増した。
どんどん輝きが増していき、目を開けているのがつらくなってきた。
これ以上目を開けているのが難しくなるほどの光を発していた魔方陣からいきなり天井に向かって光が伸びた。
円形の青白い光の柱が僕を包み込む。
僕が天井に目を向けると金色の光の粒がきらきらと降り注いできた。
「む?金色の祝福か。アレク君。君は運がいいようじゃな。英霊様の降臨じゃ」
満面の笑みを浮かべる司祭様が僕に幸運を告げる。
僕はそのまま天井をじっと見つめた。
ふと気が付くを何かがゆっくりと降りてくる。
あれが英霊様?
真っ白なコートのように丈の長い上着を羽織った女性が僕の目の前に降り立った。
目を閉じ、とても綺麗な顔をしたその女性は神秘的な金色の光を纏っている。
次第に女性を纏っていた金色の光が弱まっていく。
気が付けば魔方陣の光も収まり、最初の足元だけの光になっている。
完全に金色の光が消滅すると女性の周りをふわふわと漂っていた長い黒髪がぱさりと重力を得て収まる。
女性がカッと目を開き一言放つ。
「汝が私のマスターか?」
「…え?」
これが科学の女神『最上美和』と稀代のアルケミストマイスターとなる僕『アレク』のファーストコンタクトだった。