第9話 出会いと時計
「服を着替えさせて」
イフリュートとラピィは寝間着姿で紅茶を飲んでいた。
「はい、ラピィさま」
「ラピィちゃん、服くらい自分で着替えないと」
イフリュートの言葉に聞く耳持たずの様子のラピィ。
ユアは、ラピィの着る服を準備し始めた。
「使用人がいるなら、貴族は、自分で服なんて着ないのよ」
イフリュートは、貴族だがラピィ自体は貴族ではない。
言っても言い返されそうだし、黙っておこうとイフリュートは思った。
ラピィは下着まで、ユアに代えてもらっている。
脱いだ下着が、洗濯籠に入れられていく。
女の子って、朝から下着を代えるんだーとイフリュートは不思議に思った。
そそくさと、寝間着という名のパジャマから、制服に着替えたイフリュート。
1人で着替えたほうが早いと思うのは僕だけだろうか?
ゆったりと人生を過ごすのが貴族の生き方なのかもね。
午後のティータイム的な感じで。
とイフリュートは思った。
着替え終わり、洗面台まで進み、洗顔、歯磨きもろもろ準備を済ませた。
今日の授業の教科書の最終確認をする。
文字は未だによくわからないイフリュート。
各教科書には絵が描かれているためそれを見て、確認した。
今日の授業は、紋章学と使い魔学。
使い魔学の教本には、人間の女の子、大きなドラゴン、それと2つの翼に2本の角、それに、しっぽの姿の色っぽい女性、それとこれは人魚だろうか?が描かれている。
人間の女の子が3匹のモンスターを従えているということだろうか?とイフリュートは思った。
読めない使い魔の教本を読んでいると、ラピィたちの準備ができたようだ。
機械式の懐中時計をポケットから取り出し時間を確認するユア。
「そろそろ大食堂に向かいましょう」
3人で、部屋を出た。
正直ラピィは使い魔扱いなので、匹と数えるべきなのだろう。
ユアがイフリュートの荷物を持つ。
こういうのは、使用人に任せないといけないみたい。
部屋を出て、階段を降りていると、下から階段をあがってくる人がいた。
「やぁ、はじめましてだねー。マルック・ルウ・ロストロンだよ、よろしくー」
ぽっちゃり的な感じの体型の男の子がイフリュートにあいさつをする。
愛嬌のありそうな男の子。
着ているマントには、星の数はイフリュートと同じ、ラインの数も2本でイフリュートと同じ、子爵家の2年生みたいだ。
優しい感じの薄い茶髪、くせ毛のようで前髪がくるんとしている。
身長はイフリュートよりも微かに低いみたいだが、横に大きいため、イフリュートよりも大きく感じられる。
後ろからは使用人であろう女の子が付いてきていた。
この子もぽっちゃり体型だ。
マルック君は、ぽっちゃり好きなのかもとイフリュートは2人を見て思った。
「初めまして、よろしくお願いします。イフリュート・ルア・ニイナ・ステュアートです」
「あっ、当主さんなんだね。イフリュートー、うん、覚えた。14歳になる年だよね?同い年だし、爵位も一緒だから、敬語はなしだよ。仲良くしようねー」
「うん、14歳。ありがとう、友達出来るか心配だったから嬉しい」
「じゃぁ、またねー」
「うん、またねー」
挨拶を交わし、朝食を食べるために食堂に向かってイフリュートたちは歩いた。
【懐中時計】
異世界での主な時計。
手動で竜頭と呼ばれる部分をまわすことにより、ぜんまいを巻き動作させる。
ゼンマイは毎日一度は巻かないといけないタイプや数日に1回撒かなければいけないタイプがある。
電気、電池と言う概念はない。
懐中時計を販売するお店、修理するお店などが街に存在するみたいだ。
金や銀を使っているため、平民にとっては、少し高い買い物となる。
貴族に、コレクターがおり、観賞用として収集している者も多い。
お金持ちの平民も、趣味の1つとして集めている者もいる。
執事の懐中時計の所持の仕方、着用方法として、ベストのポケットに時計を入れ、ボタンホールにウォッチチェーンを留めて用いる。
チェーンの種類や、掛け方は複数ある。
ジャケットは着用するがベストを着用しない場合、ジャケットの襟のフラワーホール(ラペルホール)にチェーンをつけ、ジャケットの胸ポケットにおさめる。
ジャケットもベストも着用しない場合、平民や貴族も行なうが、ズボンのポケットに入れる。
懐中時計用のポケットがあるようだ。
この場合、短いチェーンを付け、どこにも留めず垂らすのが正式なようだが、チェーンをつけずに単にポケットに入れておくと言うこともある。
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