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平森逍遥奇譚  作者: 采火
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簪の持ち主2

 帰りのSHRが終わった後、あたしはすぐに鞄へ荷物を詰め込んだ。今日は体育が無かったのでリュックが無い分だけ荷物が軽くなる。お弁当箱の入った小さな鞄だけはスクールバックには入らないので外に出しておく。と、準備が整ったところで佐々君に早く行こうって事なのかな、机をとんとんと叩かれて注意を引かれた。はいはい、分かっていますよっと。


 荷物を背負って、廊下へと出て、並んで下駄箱へ。上靴代わりの、ちょっとデザインが格好良いスリッパが学年を見分けるポイントなんだけど、見事にあたし達と同じ学年の人達があたしと佐々君を振り返っている。原因はお昼と同じかな。佐々君て案外目立つんだという事がよく分かったよ。ちらほらと「佐々に彼女!?」って囁き声が聞こえてくるけど、全然違うからね? 果たして本当に分かってくれる人はいるのかしら。


 いつものバス停ではなく、学校裏の方のバス停へ。時間は昨日とほぼ同じで、発車直前のバスに何とか乗り込むことができた。ちょっとだけ走ったから疲れたよ。佐々君は平気そうだけど。男子高校生の体力恐るべし。


「ねぇ、これからどこ行くの?」


 ずっと気になっていたことを聴いてみる。それに放課後に話があると言ったのはそっちなんだから、そろそろ話してくれてもいいと思うんだけど。


 そう言えば佐々君は簡潔に、


平森(ひらもり)


 とだけ。平森っていったら、昨日あたしが迷子になったあの地域。このバスが平森の地域内で止まるバス停は佐々君がいつも降りる場所しかないから、そこまで行くことだけは分かった。


「どうして平森? 朱居さんに会いに行くの?」

「違う」

「じゃあ何で?」

「……」

「答えたくないのね。……あ、そうだ。別の質問。昨日は何で早く帰ったの?」

「……」

「何で何も喋らないのよ」


 佐々君は目を逸らしたままで窓の外の風景をずっと見ている。じとっと返事をしてくれない佐々君を見ていると、気づいた佐々君はぷいっと顔を背けてしまった。ちょっと、何その反応。


 あんまりにも無視してくれるもんだから、ふふん、こっちだって気を引かせようと策略を練るしか無いんだからね!


「佐々君が無視するなら良いよ、あたし平森で降りたら迷子になってでも朱居さんを探すだけだから」

「それは駄目」


 そこだけ即答て何なのさ。


「だって何にも話してくれないなら、こっちだって都合があるんだからうするしかないでしょ。時間の無駄になっちゃうもの」

「朱居に会うのはやめた方がいい」

「何で駄目なのよ」

「だって朱居は、」


 何かを言い掛けて、佐々君は言いよどむ。これは佐々君、あたしに内緒事がありますな。でも言おうとしているって事は打ち明けるべきかどうか悩んでいるという事で。




 ───仕方ないなぁ。




 その葛藤している表情に少しだけほだされて苦笑しか出てこないけど、あたしは佐々君から話を聞き出すことをやめる事にした。ちょっと甘いかな。でもたとえ今ここで強引に話してもらっても関係悪化で、あたしに明るい未来は無いのです。


 そんなやり取りの後、あたしも佐々君も黙り込んでしまった。佐々君からは何の話題も持ち掛けられないし、あたしも話の種が特に見あたらなかったから。


 バスに乗っている人達は全員無言でバスに揺られる。町の中心部を抜けたら車通りが減って、緑揺れるさわやかな水田と力強く根付く野菜達の畑ばかりが目に付くようになった。水田に囲まれてぽつりと立つコンビニを通り過ぎても、まだまだバスは進む。遠目に団地が広がっているのが分かり、水田や畑の中に間隔を広げて建つ民家が少しずつ目立つようになってから、とうとうバスは平森のバス停へとたどり着く。


 荷物を持って降りると、そこには昨日の着物の麗人が。今日は山吹色の蔓系の刺繍が袖元や袂にあしらってあるちょっと暗めの赤色の羽織だ。下地の着物は昨日と同じ深緑。色だけでもすごく目立つね。


 スマートフォンのカメラを起動したくなるのを必死に堪えていれば、佐々君がすたすたとあのお兄さんの所へ足を向ける。


「先生、ただいま」

「おかえり。どうやった学校の方は。葵と何か話せたかい」

「もう、お手つきかもしれないって言っていた」

「あちゃー……。遅かったか。誰のかは言っとった?」

「言ってないけど、たぶんあの様子だと朱居だと思う」

「……ふむ」


 やっぱりここでもあたしは蚊帳の外。昔からの付き合いって時々羨ましくなるな。転校したてだから、馴染めるのか心配でそういうのに敏感になっちゃってるんだよね。自分の事ながら情けない。


 で。一体二人は何の会話をしているの。それに二人の関係は何なの。


「あ、あのぅ……。一体なんですか“お手つき”って。それにお兄さんは佐々君の家族の方なんですか……?」

「なんや、フミはお嬢に何も話してないんか」

「面倒だから」



 すぱこーんっ。



 お兄さんは袖口からおもむろに取り出した扇子を振りかぶって、笑顔で佐々君の頭を叩いた。うわあ、痛そう。


「面倒だからって全部をわしに任せんなや! わしはフミをそんな子に育てた覚えはありません!」

「育てられてないし」

「言い訳無用や」


 もう一度扇子で頭を叩かれる佐々君。漫才っぽくなっているけど、止めなくていいのかな。ちょっと自分の存在の置き所に困っちゃって、どうすればいいのか分かんないんだけど。これってコミュニケーションの一種なのかな。


「だってこれ先生の仕事……」

「分かっとるわ。わしが言いたいのはフミのその何事にもやる気を見せない態度で、救えるかも知れんのにほっといたことを怒ってんの」

「放っておいてはいない。ちゃんと葵の“お手つき”は防いだはずだし、登下校中も目を光らせていた」


 ええと、話の方向がいい加減分からなくなってきたんだけど……。


「そもそも先生が朱居の動きを止めなかったのが悪い」

「なんやて、わしとて万能じゃないから全員の面倒なんて見きれるわけがないやらぁ」

「少なくとも朱居は古すぎるから見切りを付けるべきだった」

「長年の付き合いや、そうそう簡単に切り捨てれる訳ない」

「じゃあちゃんと手綱は握っておかないと」

「ここら一体にどれほどそういう奴らがのさばっていると思ってんや」

「や、やめーっ!」


 そろそろヒートアップしてきて収拾が付かなくなると思ったから口を出してしまったけれど、良かったのかな。でも、二人とも口論を止めてくれたから良しとしよう。


 二人の間に割って入って、あたしに注目を強制的に向けさせる。


「あたしの質問に答えてください! まず佐々君、何であたしを連れてきたの!」

「えっ」


 無理矢理話題を佐々君に振れば、佐々君は顔をひきつらせて一歩後ずさるけど、そんな事させない。ブレザーを正面からむんずと掴んでやれば佐々君は後ずさりできなくなるくらいお見通しよ。


 じっと見つめていれば、佐々君はゆるゆると重たい口を開いてくれる。


「せ、先生に会わせるため……」

「じゃあ今度はそこの貴方! お名前と佐々君との関係を簡潔に述べてください!」

「わ、わしっ? わしはえーと、フミの友達や。名前は……長生きしすぎて忘れてしまったわ」


 ふん、そんなおとぼけ回答許しませんよ。


「そんな二十代半ばの容姿をしておいてアルツハイマー病ですか。そんな嘘ついてもバレバレですよ」

「本当やって! な、皆!?」

「皆って誰ですか。ここにはあたし達三人以外いないですよ」


 お兄さんが明後日の方向へと同意を求める。またまた電波な事やって誤魔化そうにもあたしには利きませんよ。


 でもそれがいけなかったのか。ここで佐々君があたしの腕を急に掴んできた。驚いて振り返ると、佐々君の澄んだ瞳と視線がかち合う。


「待ってくれ鈴倉。先生は本当に名前を知らないんだ。だから俺も皆も先生って呼んでる。見えにくいかもしれないけど、ほらあの林の中とか畑とかあちこちにいっぱいいる奴らが」

「さっきから言ってる皆って、誰のことなのよ」


 ここでようやく、佐々君達があたしには見えない何かを見ていることに気づく。向こうも、あたしが同じ風景を見ていないことに気づいて愕然とした表情をする。



 ───ねぇ佐々君、キミは一体何を見ているの。どうして、そんな悲しそうな顔をするの。



 お兄さんがおもむろに、慎重に、選び抜いた言葉を発表するかのように重々しく言う。


「わしは、妖怪や。だから名前を忘れてしまうくらいにうんと長生きしているんよ」






 ……………………妖怪?

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