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平森逍遥奇譚  作者: 采火
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登下校の追跡者1

 鈴倉茉里(すずくら まつり)って言います。これからよろしくお願いします。


 そうお辞儀をして挨拶をしたのはもう一週間も前のこと。未熟な緑色をした水田の中を歩いてバス停まで行き、のどかな町並みを通り抜けて学校に行く日々にも慣れてしまったあたしは、途端に退屈な場所へと変わってしまったこの町に早くも不満を持ち始めていた。


 両親の海外転勤に合わせて従兄弟の家へと預けられたあたしだけど、都市部と比べて本当に何もないこの場所へ来たのはちょっと失敗だったかもと、早々に思い始めていた。これならたとえ英語が話せなくても、アメリカに行けば良かったかもとさえ思ってしまう。


 だって転校前は、学校帰りは買い食いして友達とお喋りしてゲーセン行って、というのがあたしの日常だった。でも今は、学校終わったら一時間に二本のバスに間に合うように図書館で暇つぶしをするくらい。自転車で通えないこともないけど、ちょっと距離があるから面倒なのだ。もうちょっと公共交通機関発達してればいいのに。バス停だって家の最寄りとは言えないから面倒なんだけど。


 退屈な放課後。友達は出来たけど、皆部活に入っているから遊ぶ暇なんてないし。そもそもあたしは前の学校でも帰宅部だったし。体動かすのも苦手、芸術センスも皆無、そんなあたしにぴったりな部活なんて帰宅部以外にあるわけがないというね。


 今日だって、どうやって放課後を潰そうかと帰りのSHR中ずっと考えていた。とりあえず課題を終わらせて、でも今日出された課題は少なかったからきっと時間が余る。それならいつも通り図書館で本を読もうと思ったのよ。ここの学校、漫画とか雑誌とか沢山置いてあるから、結構読もうと思える本があって暇潰しにはうってつけなのだ。スマホアプリで遊んでも良いけど、充電が気になるし。


 そんな事を頭で展開していたわけですが、今現在、放課後。実際はというと。


 何故かクラスメートの尾行をしてます、はい。ストーカー? 聞こえないかな、何それおいしいの状態です。


 いや、だって。確か名前は佐々文孝(さっさ ふみたか)だったかな。佐々君はいつもならあたしと同じバスで帰る唯一の子なんだけど、なんだか今日はちょっと様子が変だったのよね。


 ずっと口に接着剤を付けてるんじゃないかっていうくらい無口で、友達と居る所をあんまり見た事がなくて、休み時間や放課後はずっと寝てるような子が、課題をせかせかと終わらせてさっさと帰る準備をし始めたんだよ。何かあるのかとちょっと興味が出るじゃない。


 部活なのかなと思ったら、佐々君は生徒玄関で普通に靴を履き替えてしまった。運動部の部室棟に行くのかなと尾行すると違って、校門の外へと出てしまう。帰るのだろうか、と今度は思いながら後を付けると、佐々君はあたしも普段使っているバスの停留所を通り過ぎた。もちろん、まだバスがやってくる時間じゃないから通り過ぎるのは分かるけど、本当にどこに行くんだろう。


 佐々君は学校の前の斜面角度四十五度ぐらいの急なアスファルトの坂道を降って、それから学校裏にあるもう一つのバスの停留所でバスを待っていた。


 日除けの屋根の下にある一つの緑色のベンチに座って、学校指定の藍色のスクールバッグを足元に置いて、ぼうっとどこかよく分からないところに視線を向けている。こんな温かい五月晴れにも関わらずに、ベンチよりも濃い深草色のマフラー……というよりスカーフかな? を首に巻いて眠そうにしている。あのスカーフ、登下校中はずっと付けてるんだよね、不思議。


 そんな佐々君観察をしていたあたしはというと。


「こんな所にもバス停あったんだ」


 さすがにバス待ちしている人に対して隠れて尾行する高度な技術は持っていないので、偶然居合わせた風を装ってみた。ちょっと強引だったかな。


 ……うん、強引すぎたかも。思いっきり胡乱な目で見られています。ええい、ままよ。開き直ってここは一つ、佐々君と仲良くなっちゃいましょう。


 すすす、と近くまでまずは寄ってみる。


「佐々君、だよね? いつも同じバスに乗ってるからキミの名前はもう覚えたんだー。今日はお早い帰りのようですが、用事あるの?」

「……」


 あら?


 無視されちゃいました。ちょっとフレンドリー過ぎたかな。いやでも、これぐらいテンション上げてかないと喋っている所を見た事のない相手には間が持たないんだよ。んー、どうしよう。一人で話し続けるべきだろうか。それはそれで辛いけど。


 あたしは気を取り直して、別の事を聞いてみる。今度はもっと取り留めもないような、答えやすい事を選んで。


「因みにこのバスってどこ行き? このバスってあたしがいつも乗るバスと同じコース通ってるのかな」


 今度はちらりとこっちの様子を伺ってくれましたよ、ありがとうございます佐々君。それからすいっとバスの時刻表の方へと視線誘導された。……ああ、はい。時刻表を読めと言うことですね。


 乾いた笑みを張り付かせて時刻表を見に行く。えーと、今は十五時五十八分だから……。


 と、読みとったところでブロロローとバスのエンジン音が聞こえた。え、丁度バスが来る時間だったの?


 佐々君の方を振り向けば、ベンチから腰を上げてとっくに乗り込もうと荷物を手に取っている。あたしも慌てて荷物を抱え直した。


「あ、あたしも乗ります!」


 教科書の詰まっているスクールバッグは肩にかけて、体操服とお弁当箱の入っている茶色のリュックは人形を抱くようにして持っているのだけど、あんまり慌ててバスに乗り込もうとしたからか、スクールバッグが入り口で引っかかってしまった。お客さんは優しそうなおじさんやおばさんばかりで、温かな視線をおくってくれるけど、うぅ……ちょっと恥ずかしい。男子ってスクールバッグ一つしか持っていないけど、あの中に全部詰まっているのかな。そうだったらあたしも恥ずかしい思いはしなくて済んだかもしれない。


 相変わらず佐々君はあたしのことを無視していて、一番後ろの左の窓際に座っていた。あたしの定位置にはお婆ちゃんが座っていたので、あたしもそそくさと後ろへ行って、佐々君とは反対の一番後ろの右の窓際へと座った。


 そうしたら佐々君、とうとう眉をしかめて嫌そうな顔をしてくれましたよ。嫌われたくはないけど、無感動な淡々とした表情を向けられるよりは断然良いかな。何の反応もこないのって、結構傷付くんだよね。


 でもあたしはめげない。佐々君と是非とも仲良くなって、この退屈な登下校を少しでも面白おかしく過ごすという計画は挫折していないのです。


「ねぇ、佐々君。ちょっとくらいお話ししようよ」


 ちらりと一度こちらを伺われて、そしてまた無視の続行。むぅ、なかなか落とせませんのう。興味関心を全く向けられておりませぬ。


 仕方なくその時だけ、あたしはそうそうに諦めて、窓の外の景色に目を向ける事にした。


 さらさらと流れていく景色は、十分くらい町内を回ってから、ちゃんとあたしの家の方へと向かって流れていく。良かったー、このまま家に帰らずに車内に取り残されると思うと気が気でなくてね。うん、でもこれで早い時間にバスが通っている事も分かったから良しとしよう。


 それにこのバスのお客さんである木野山朱居(このやま あかい)さんと仲良くなったし。朱居さんは三日に一度の割合で、買い物の帰りにこの時間のバスを利用しているらしい、ちっちゃくて可愛いお婆ちゃんだ。またお話ししましょうね、と言って大粒の飴玉をくれたとっても良い人。普段、佐々君が降りる場所で一緒に降りて分かれた。


「……」

「たまには寄り道しても良いかなーって思う時とかない? あたしの事、無視してくれてかまわないからさ、ね」


 佐々君の何でこいつがここで降りるんだオーラに先手を打ってみた。そうなのです、暇潰しです、決してストーカーじゃありません、と否定に否定を重ねてみる。内心だけでだけど。


 いつも乗る時間のバスまでまだ一時間くらいあるし、家に帰っても暇なのだ。そうなのです、このバスならいつも待ってる時間より早く帰れるという素晴らしい路線だったのです!


 でもいつもより早く帰ると従兄弟家族はまだ帰ってきてないんだよね。従兄弟とは言え、他人の家に一人ってなんだか不安煽られない?


 だから今日のところはとりあえず佐々君のストーカー……もとい、暇潰しに辺りを散策してみようかな! 行く当てもないから、たまたま、佐々君と行く方向が同じでも問題ないよね!


 うわー、素晴らしい邪魔者扱い視線が佐々君から溢れてる。でも、もう次のバスが一時間後だし、後の祭りという事で仕方ないよね。もう既にバスの時刻表はチェック済みなのだ。


 にこにこと笑って佐々君を振り返れば、あれ? もう姿が見えない。


「え、ちょ、佐々君?」


 どう考えても右か左かの真っ直ぐな一本道。バス停側には茶色の畑と林が広がっていて、反対側には緑の揺れる水田とその奥に点在してる林際の民家という風景画の中において、遮蔽物は限られる。


 どうしよう。いつもバスだから、こういう不慣れな場所を歩いて探索したら迷子になる気がしてきた。それにどうやらあたしは愛想を尽かされて、いや元々無かったか……とにかく、佐々君には完全に嫌われてしまったようである。


 すごくへこみたくなってきた。


 そんなにうざキャラだったかな、あたし。

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