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第二話「無人島サバイバル」

 帰宅。なんか疲れていたので帰り道コンビニで総菜を買って適当に食べつつテレビをつけた。惣菜のついでに勢いで買ってしまった缶チューハイをあおりつつ。


 ニュースはまだ消えた木星の話題でもちきりだ。何とかいう天文学の権威の教授が「これは科学的にまったく証明不能な事態です。」と言っている。いやいや、それを証明するのが君たちの仕事なのだよ?と一人ツッコミを入れたら、案の定科学的コメントを期待していたであろうキャスターは微妙な顔をしている。

 チャンネルを変える。こっちの番組はスピリチュアル路線でいくらしく、「いかがわしくないデスヨ~」と満面の笑みを振りまくせいで逆にいかがわしい人にしか見えない霊能力者的な人が「近々地球も消滅するかもしれません。」なんて恐ろしい事を発言して、いかがわしい顔を若干険しくしている。


 普段木星なんて誰も気に留めないのに、なくなったとたんこんなに騒いじゃって。


「人間って矮小ですねえ~。」


 誰にともなくつぶやいて、あ、また独り言言っちゃったな…最近独り言増えたな…気をつけよ…と独り言を言う。甘い缶チューハイが突然苦くなる。

 ただでさえ、のろいと密かに悪評を買っているらしい私の仕事ぶりには、上の空という特別オプションが付き一段と磨きがかかっていた。私のは基本的に個人で進める仕事だから、少々とろくても直接誰かに迷惑をかけるわけではない。けど、それはつまり他に誰も助けてくれる人がいないという事だ。完全な無人島サバイバルである。死ぬか生きるかはすべて己の能力にかかっており、極論一人島で死んでいても誰も助けてくれないどころか、ヘタしたら誰も気づかない。


 久しぶりに飲むお酒はよく回る。ねむい。


 ☆


ふと寒気を感じて目が覚める。どうやらいつの間にか床の上で寝ていたらしい。

もぞもぞ床を這ってカバンからスマホを取り出す。電源ボタンを押して待ち受けの時計を確認して、若干落ち込む。はい、午前3時~。


お風呂はいって寝るか。。。。


ザッとシャワーを浴びてベッドにもぐりこむ。


「疲れた…」


もう独り言うんぬんなんてどうでもよかった。もはや昨日になってしまったが、今日は朝から変な事が起きすぎる。木星の影響かな?やだー、もー、オカルト系はちょっと…。人知れず苦笑しつつ、よっ、と体をよじって壁際を向いた瞬間の事だった。


「ひゃあ!!!!」


私は叫ぶと同時に全力であとずさってベッドから落下し気付いた時にはお尻をしこたま床に打ち付けていた。しかし尻の痛みなどなんだというのだ。尻の痛みを気にしていられる事の平和さよ。それより我ながら見事な後ずさりだ。音速を超えたんじゃないか。


「な、な、な、、、なな、えっ、誰っ!!誰っ!!」


暗くてよく見えないが、ベッドの中には明らかに。人型の。


「ちょ、待って怖い!やだ!?」


「何か」が。


いる!!ってか腰抜けました!!


職場と同じく己の力でどうにか切り抜けなければならないサバイバル。それが一人暮らし。私はかろうじて作動した防衛本能により抜けた腰を引きずりながら壁際までたどり着き、震える手で照明のスイッチを入れる。何?泥棒?変質者?ていうか、いつからここにいた?

ぼんやり点灯する仕様の照明が地味に恐怖を煽ってくる。おい誰だこんな仕様にしたのは!!恐怖と相まって照明メーカーへの怒りがはんぱない。まあそんな照明を選んで何の疑問もなく使ってたのは自分なんですけど。

明るくなった部屋の中のベッドを食い入るように見つめる。しかし、ベッドの上の「人型の何か」は布団に隠れてまったく見えませんけども。よしエスパー駆使して布団を透視しよう。…無理だった。あちゃー私パンピーだったわ忘れてたわ。なんという事でしょう。一難去ってまた一難とはこのことですよね。ミッションクリアの後にはさらなる過酷なミッションっていうのは定石ですよお約束ですよ。

 恐怖を通り越した先にあった謎の面白み(相当おかしくなっていた)で、「へ、へへ…」と薄ら笑いと浮かべつつ、部屋の隅のクイックルワイパー(武器)を握り締める。ベッドから適度に距離を保ちつつクイックルワイパーの柄でそっと布団をめくろうと試みるが


あかん…超ノーコンや…


手がガチめに震えてワイパーが全然布団に当たらない。ブルッブルのワイパーは何度も虚しく空を切る。どのくらい時間が経っただろうか、かなりの時間が経過したであろう後、ふと思う。


いやこれむしろ面白いわ


全力で腰を引きながら精一杯腕を伸ばしブルブル震えるクイックルワイパーで自分の布団をめくろうとする自分。およびブルッブルのクイックルワイパーの柄。深夜テンションと飲酒テンションが相まってその状況がなぜか爆発的笑いを引き起こした。


ふ。く、くはははは……!可笑しいついでにえいやっ!と思いっきり布団をめくると、そこにはなんとも美しい少年が眠っているじゃあないですか。


うわっ、綺麗。


家宅侵入もいいとこなのに関わらず私はその寝顔に呆然と見惚れた。オレンジがかったサラサラの茶髪がそっとまぶたにかかり、たおやかに長いまつ毛はまぶたを美しいアーモンド型にふちどっている。頬は健康的なピンク色に染まり、薄く開いたふっくらとした唇からはかすかに呼気が漏れている。微笑んでいるように眠るその寝顔。やばい。さっきと違う種類の胸の高鳴りがやばい。なんですかこのどストライク美少年。何かのドッキリですかね?いや、もうドッキリでもなんでもいいから、猛烈にこの出会いに乾杯したいので誰か最高級のシャンパン持ってきてください。

 そこからの事はあまり覚えていないが、どこからか聞こえる連写音で我に返ると、膝立ちでハアハア言いながら眠る、謎の美少年を連写している自分がいた。大体の方はお気づきだと思うが敢えて言う。何を隠そう私は……美少年に目がない。とりあえずその状況を冷静に夢と判断した正常な私の脳は、美少年の寝顔がスマホおよび脳内のアルバムにしっかりと保存された事を確認してから強制終了した。この辺の確実な仕事っぷりは、なぜか現場ではまったく活きない。


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