第58話 満点を取らないように気をつける羽目になるとは…
高校受験を思い出しますね。
「いや〜、結構後ろの方になっちゃったな。」
「でも出入り口に1番近いし、これだけで合否が決まる訳じゃないからいいんじゃない?」
「まぁ、それもそうだな。」
トリス達が受付に行くと、既に人はほぼ捌けていてすんなりと手続きを行うことが出来た。お金を払ってから市民証を見せて番号を貰うと、受付の人から教室の番号を言い渡され、その通りに教室を開けるとそこはいっぱいいっぱいであったのだ。そのため1番後ろの廊下側の席に2人並んで座る。
「君達が1番最後かな?」
試験官の男性が2人に声をかける。
「はい。僕達の後には誰も居なかったと思います。」
ホルスがそう言うと、男性は頷き手に持った書類に目を通しながら言う。
「そうか、分かった。そろそろ時間だし、試験の説明を行います。」
試験官が丁寧な言葉と粗雑な言葉が入り交じらせながら説明を始める。スキンヘッドで大分体格がいいことから想像するに、普段は『ガハハハハッ!』と豪快に笑っていそうな印象を受けるので、先生っぽく振舞おうとして失敗しているのだろう。
そちらに気を取られつつも、受験生達は真剣味を帯びた目で必死に聞く。万が一不正行為と看做されるようなことをし失格となれば、末代までの恥であるからだ。
まぁ、とはいっても普通に受験していれば何の問題も無いのだが。
「これで以上だ…です。」
至って常識の範囲内であろうルールの説明を終えた試験官はそう締めくくる。
トゥール学園では説明した通り、筆記と実技試験の2種類が行われるのだが、その内筆記試験が午前中に行われることとなる。教科は国語、数学、歴史、魔法学の4種類だ。一般に8割程度の正答率で合格出来ると言われているが、ここ入試問題は毎年エグい難易度であり、受験者の内半数は5割取れるかどうかであるらしい。
「ではまず国語の解答用紙を配る。」
こうして、トリスにとって一種の戦いとも言える試験が始まったのだった。
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「終わった〜!」
筆記試験が終了し、試験官が教室から出て行くとトリスは机に顔面を叩きつける勢いで突っ伏す。因みにトリスのような受験生は教室のあちこちにちらほら見られる。あまりに悲惨な結果に、この世の終わりのような表情でなにやらブツブツ言っている人までいる始末である。
「そ、そんなにダメだったの?」
トリスの様子にホルスは心配そうに聞いてくるが、トリスは突っ伏したまま手を振って否定する。
「そんな事は無いけど、己の人生がかかっていると思うと緊張するだろ?」
こうは言っているが、実際の所はそうではない。恐らくはホルスは全ての教科においてトップクラスの成績を修めるであろう。
しかしトリスはステータスが化け物時に本を読み込んだため、落とした今でも脳には記憶として定着しているのだ。そのためやろうと思えば満点を取ることは難しくなかった。
しかしそれでは自身にハイライトが集まり計画がおじゃんになってしまう。そのためトップクラスではあるがホルスには勝てないギリギリを見極めて、且つ不自然ではないように態と不正解の解答を書くなど心がけたのだ。
「うん、確かにそうだね。実際僕も物凄く疲れてるし。まぁ、それよりもお昼にしようよ。」
そう言い、ホルスは机のわきに置いてあったバッグの中からバスケットを取り出して机の上に広げる。
午後の実技試験は、昼食休憩を挟んで1時半から開始されるので、それまでに試験会場である競技場までに向かう事になっている。この教室からはそんなにかからないので、12時10分現在においては焦る必要無くゆったりと昼食に舌鼓を打つことが出来る。
「ところでそのバッグの中によくバスケットなんか入ったな。明らかにキャパシティ超えてない?」
まるで手品のように小さい所から、それよりも大きな物を取り出したので不思議に思い聞く。
「あ〜、これアイテムボックスなんだ。」
「へ〜、アイテムボックス。便利だね〜、ってなるか!」
トリスのツッコミに、教室の中に居た受験生達から何事かと注目を集める。
「おっと、すみません何でもないです。…で、いきなりぶっ飛んだ物を持ってきたホルス君は、何か言い訳はあるかな?」
周りに謝った後、トリスは通常の声量で問い詰めるように聞く。
アイテムボックスはとても貴重であり、決して昼食を持ち運ぶために使うような代物ではない。トリス自身は時空属性魔法の収納内に大量の食料品を持っているが、一般人設定の人間としてはツッコミを入れない訳にはいかない事案である。
「うん?何か僕まずいことやった?」
「はぁ。まぁいいや。ホルスだからって事で納得しよう。うん。…よし、飯だ飯。」
キョトンとした顔のホルスに、呆れたフリをしてトリスはバスケットを開いて中に入っているサンドイッチを口に運ぶのだった。
さぁ、お次は実技試験です。




