第131話 とある休日のドタバタ 6（マルティナ編）
書きたい事が多すぎて、またまた厚い内容になってしまいました。
重要な場面ですので、是非お読みください。
「落ち着きました？」
あれから5分程経過した頃、未だにマルティナに抱き着かれたままのトリスは最大限に気を張って自制しながも、冷静を装って聞く。
「う、うん。いきなり飛びついてごめんね。」
マルティナは恥ずかしそうに言うが、抱き着いたままなのはご愛嬌だろう。
「あの、落ち着いたなら、そろそろ離れて貰えませんか？今はちょっとタイミングが悪くて、そろそろ切れそうな予感がするので。」
トリスは、震える声でそう伝える。
一体何が切れるのだろうか？そう疑問に感じるマルティナだったが、辛そうなので一旦離れてみる。
「うん、分かった。…大丈夫？」
「えぇ、大丈夫です。」
全然大丈夫じゃなさそうな声で答えるトリスは、全身を強ばらせている。
まるで、耐え難い何かに耐えるような様子であった。
「具合が悪いなら、光魔法が得意な人呼んでこようか？ホルス君とか。」
「いえ、問題無いですよ。それに、ホルスの邪魔をする訳にはいきません。…正確にはリアさんの、ですかね。」
ホルスを呼んでは、トリスの思い描く構図を、壊してしまう可能性の蓋然性は少ないにしろあったので、頑なに拒む。
「でも…。」
そんなトリスに、『心配なんです』という表情で、食い下がろうとするマルティナ。
そんな彼女に、埒が明かないと、トリスは仕方なく秘密の1つを明かす事にした。
「はぁ…。ホルスを呼んでも、何も解決はしませんよ。」
「え？」
トリスの確信を持った言葉に、マルティナは思わず聞き返す。
「何故ならば、これは病気でも怪我でも無いですから。」
「ど、どういう事ですか？」
意味が分からないマルティナは、完全に混乱しているようだ。
「これは、今までで感情を一定程度封じていた反動ですから。」
「封印ですか？感情を？」
トリスの言葉に、マルティナは『どういう事なの？』というように、真っ直ぐに視線を向ける。
「えぇ。俺は、強い感情を封じる事によって、欲に走る事を防ごうとしたんです。理由は、俺の力です。」
実はトリス、転生後のオール300のステータス時はそうではなかったのだが、魔王軍を殲滅した後の異常なステータスになった際、その力を恐れてみだりに使わないように工夫をしたのだ。
その1つは感情の制御だ。人間は欲に弱い。少々達観しているトリスも例外ではなく、いつ欲に狂うか分からない。金欲、性欲、支配欲。これらのような欲により、抑えが利かなくなった場合、トリスは簡単に実現出来るだけの力を備えている。
トリスとしてはそんな事は望んでいないため、そんな事態が引き起こされる事を恐怖したのだ。
マルティナには嘘は言っていないが、全部は話さないトリス。ドン引きされても、少し寂しいので、躊躇したのだろう。
「た、確かにトリス君は強い力を持ってるけど、でも止められない人が居ない訳じゃ無いよね？ホルス君の方が強いって聞いたよ？」
「む。それはその…。」
だが、勘が鋭い上に『才女』などと呼ばれるマルティナには、トリスの破れかぶれの言葉など通用しなかったようだ。
「…まだ、何か隠しているよね？別に話したくないならそれでも良いけど、今じゃないと色々と言えない事もあると思うの。」
マルティナは、トリスの切れかけのミサンガに視線を向けながら言う。
マルティナは、恐らくは感情を抑えるための、何かしらの細工が施されているミサンガが、その効果の薄い時にでなければ、トリスは素直な感情を伝える事が出来ないと言っているのだろう。
そんなマルティナの言葉に、現状いっぱいいっぱいのトリスは、タガが外れたかのように感情をぶつけてしまう。
「…んな事、出来る訳ないだろ!?自分が如何に化け物かという事を、自分が好意を懐いている相手に言う!?誰がそんな事をやりたいと思うんだ!!」
一気に大声で捲し立てるトリス。色々ぶっちゃけているが、そんな事に気付く余裕の無いトリスは、肩で息をしている。
「…。」
一方のマルティナは、驚きのあまり固まっている。
「…え？まさか俺は、マルティナさんの事を…。」
当のトリスも、自身が感じていた感情の正体に、驚きが隠せないでいた。
まさか自分が、一丁前に恋愛感情を懐くとは、思いもよらなかったのだろう。
まぁあれだけ好意を寄せられ、想われて居れば、誰でも悪くないと感じるだろう。ましてやマルティナは、美人で可愛い上に性格まで良い女性である。
そんなくだらない事を考えていると、いきなりマルティナがボロボロと涙を流しだす。
「ちょ、えぇ!?何で泣く!?実は今までのが演技…は無いか。う、嬉し泣きって事でいいんだよな!?」
トリスは今まででのマルティナの行為は、表面上だけのものであったかと一瞬考えるが、『トリスタン・ラ・トゥールにぞっこん』という、神ですら見た事がない称号を思い出し、冷静に否定する。
たがそうなると、残された答えはただ一つなので、若干吃りながらもトリスは聞く。
「うん！正直、一生振り向いて貰えないとも思ってたから、トリス君に好きになって貰えたんだって思ったら、嬉しすぎて…。」
「…。」
マルティナの言葉に、何も言えなくなってしまうトリス。
マルティナに、そんな思いをさせていたと今更気付き、心の中で自分を情けなく思っているのだ。
「トリス君？」
怒りとも、苦しみとも捉えられる表情のトリスに、マルティナは不安そうに問う。
自分の言葉が、何かトリスの気分を害したのだろうかと思ったのだ。
「…本当にごめんなさい。貴女にそのような思いをさせてしまった自分には、今更『幸せにしてやる』などと言う資格はありません。」
「え!?そ、そんな事は無いよ!!」
いきなり謝り、そして何故か別れの言葉のような事を言い出すトリスに、マルティナは驚愕して詰め寄ってしまう。
「ですので、せめてもの贖罪として、マルティナさんには、|幸せになってもらいます(・・・・・・・・・・・)。」
詰め寄られたトリスは、顔を赤くしながら、『幸せにしてやる』とは若干ニュアンスの異なる事を言うのだった。
見てて恥ずかしくなる、自分ではした事の無い（一生縁の無い）会話です。
ですが、ここはトリスの転換点なので、挫ける訳にはいかないのです（笑）。
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現在、『転生王子は何をする？』以外に、『外れスキルで最強へ〜戦闘スキル皆無!?どうやって魔王を倒せと!?〜』という作品を連載中です。
戦闘スキル皆無な異世界に召喚された主人公、荒井聡が、とある状況が作り出した偶然により、奇跡的に力を手に入れて、無双するお話です。
ここで言う外れスキルは、本当に戦闘に使えないもので、正直私が貰ってもその場で地団駄を踏む自信があります。そのため、外れスキルが実は強いという意味ではありませんので、ご注意ください。
よろしければ下記のURLから、読んでみて下さい。
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