第121話 思ったよりも複雑ですね
いよいよ、フロレンティーナ様に関するお話も、終わりに近付いてまいりました。
あと1話か2話で終わりになる予定です。その後に1話ほど閑話を入れ、本編に戻る予定です。
「とは言っても、別に大した事じゃないんだけどね。」
「「はい?」」
自信満々に謎解きを宣言していたトリスが、いきなり通常の口調に戻ったため、ホルスとトートは間抜けな声が出てしまう。
「結論から言うと、恐らくフロレンティーナ様の自意識は、完全には封じ切れてないという点に、解決の糸口がある。」
唖然とするホルス達に構わず、トリスはあっさりと結論を言ってしまう。
その内容は、トートには信じられない事であったようで、またまたトリスに掴みかからん勢いで問い詰めてくる。
「えぇ!?今までそんな人居なかったのに!?」
「まぁ、たまたま闇属性への耐性があったのか、封印とやらを使った人が未熟だったんじゃないんですか?」
理由については現状重要な事項では無いため、トリスは適当に思いつく事を言う。
するとトートは、何故か複雑そうな表情をする。
「う…。」
「で、まぁ、フロレンティーナ様の自意識については、ホルスに愛称で呼んでくれと頼んだ辺りが怪しいですね。そんな行動は、暗示していないんですよね?」
複雑そうな表情が少々気になるトリスだが、取り敢えずは解く事が先なので、フロレンティーナにかけた暗示について聞く。
「は、はい。私は、日常生活と自己の身を守るための戦闘パターンを出来る限り暗示しましたが、人に愛称呼びを頼むような事は暗示してないです。本人の意思に反して、恋愛の真似事をさせる気はなかったので…。」
「となると、フロレンティーナ様は暗示とは別の行動をとったという事でいいですか?」
「はい、そうなりますね。という事は、トリスさんの仰るように、フロレンティーナ様の自意識は封じ切れていなかったということですか。」
自嘲気味な笑を浮かべながら呟くトート。
その表情にトリスは大体の事情を察する。
「そうですね。不幸中の幸いと言うべきですかね?若しかして、フロレンティーナ様には、トートさん自らが封印をかけたんですが?」
「…はい、そうです。封印は先程も言ったように、私の一族に伝わるオリジナル魔法なのですが、先代の父がフロレンティーナ様に封印をかける前に急死してしまい、急遽私が父の代わりを果たす事になったのです。」
「…なるほど。」
トートの話に、トリスはどのような顔をしていいのか分からなかったため、遠慮がちに頷く。
しかしホルスはデリケートな問題に、ずかずかと切り込んでいく。
「つまり、幼かったために闇属性魔法のスキルレベルが低かったトートがかけたから、完全ではなかったんだね。」
だが思ったよりもトートは父の死について振り切れていたようで、ハキハキと事情を説明していく。
「はい、そうだと思います。オリジナル魔法は、個人魔法とも言われますが、その名の通り一定の人間しか使えません。例えば、同じ血筋の人間という繋がりがある場合のみなどです。」
「だからトートが選ばれたと。しかも何者かに強制をかけられて…。」
ギリッと歯を噛み締めながら、ホルスは爆発しそうな怒りを耐える。
「はい。私に強制をかけた者の正体は分からないのですが、恐らくこの国の暗部かと思います。どうやら旧王家の時代から、その組織は存在しているようです。」
淡々と事実を告げるトート。それを聞き、トリスは何やら物騒な事を呟く。
「ふむ。となると、後でそこはしっかりと潰さないとな…。」
「え?今何と?」
トリスの呟きはトートの耳に入ったようで、トリスに聞き返してくる。
「はい?何か聞こえましたか?」
ニッコリと笑いながら言うトリス。
「い、いえ、何でもありません。」
その笑みに底知れない恐怖を感じたトートは、慌てて否定する。
「?どうしたの?」
何の話をしているのか分からなかったホルスは、疑問符を浮かべている。
「いや、何でもないよ。そんな事より、謎解きの続きだ。」
「う、うん。そうだね。で、僕は何時までこの体勢を維持すれば良いのかな?」
トリスのあからさまな誤魔化しに、ホルスは納得いかないようであったが、無理矢理振り切って話を先に進める。
今の今までフロレンティーナに覆い被さった状態であったホルスは、若干棘のある言い方でトリスに聞く。
「あ、悪い悪い。ちょっと待っててくれ。というか、その体勢が辛いなら倒れ込んでも良いんだけどさ。てか倒れ込んで。」
「何でさ!?」
いきなり妙な事を言い出すトリスに、ホルスは驚愕する。
「まぁ落ち着けってば。」
「これが落ち着いてられるか〜!」
ホルスは叫ぶ。恐らくホルスにもトリスのいう解決方法は何となく分かっているのだろうが、認めたくないため精一杯の抵抗を図っているのだろう。
「ま、まさか、フロレンティーナ様はホルスさんに対して…。」
トリス達のやり取りから、フロレンティーナの気持ちについて察したトートは、驚きのあまり固まってしまう。
「そうですね。愛しているまではいかなくとも、悪くは思ってないようですね。ま、あのホルスの渾身の笑顔を、間近で受ければどんな女性でも落ちるよな…。」
自分が支持したホルスの演技を思い出し、トリスは『仕方ないよな〜』と遠い目をする。
自意識が残っているのなら、あのホルスの笑顔に心を奪われる可能性はあるといっていいだろう。
引き攣った顔でトリスに問うホルス。
「…つまり?」
「つまり、ホルス。君が口付けしてやるしかないっちゅうことっすね!よっ!色男!」
トリスは、なるべくホルスが気恥ずかしくならないように、努めておちゃらけた言い方をする。
「そ、そんな〜!」
しかしそれでも恥ずかしいようで、ホルスは顔を真っ赤にする。
まぁ、誰しも人の見ている前で、ましてや可愛い女の子にキスをするのは恥ずかしい事だろう。
「お、お願いします!フロレンティーナ様の封印を解くには、それしか無いんです!」
渋るホルスに、トートは頭を下げてお願いをする。
「わ、分かったよ…。」
トートに頭を下げらては断れないホルス。意識の無いフロレンティーナに対して、申し訳ないと思いつつも、覚悟を決めるのだった。
大規模な戦闘も想定していたんですが、『転生王子は何をする?』でそんなドロドロしたものは似合わないと思い、途中から新たなヒロインを追加しちゃいました(笑)。今後暫くは、今まで出てきたヒロイン達とホルスのイチャイチャがメインのお話になりそうです。
…書いてて画面を割らないか、心配になってきました。