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 ミーヤのほうはあくまでも強気、小生意気に腕まで組んで俺を見下ろしたままだ。

「ミーヤはねえ、デンスには幸せになって欲しいのよ、わかる?」

「あ、はい」

「なのに、勇者様はデンスのこと、好きじゃないみたいなんだもん、縛り首にしちゃおうかな~と思ってるの」

「さすがに縛り首はきついっす」

「じゃあ、デンスのこと、どう思ってるの?」

「え~と、だから、どうって?」

「恋が始まるかどうか……って、さっきも聞いたよね?」

「そんなこと急に言われてもさあ」

「じゃあ、具体的に聞くね、デンスのこと、好みなの?」

「いや、好みかって言われると微妙なんだけど……」

 何と言ってもデンスはモブ顔――取り立てて美人というわけでもなく、さりとて印象に残るほど特徴的な不細工というわけでもなく、褒めるところのない顔立ちなのである。おまけに年上……

「いいか、俺たちの世界には『オネショタ』というものがある」

「はあ? また意味不明なことを言うし~?」

「まあいいから聞けよ。オネショタとは字面から想像できる通り、年上のお姉さまが年端もいかぬ無垢な少年に性のてほどき……む、子供相手にこの説明はやばいのか」

「いいから、言いなさいよ」

「わかった、愛だ。愛を教えてやるという、尊いジャンルである」

「ふうん、じゃあちょうどいいじゃん、デンスは年上だし」

「ところが、デンスはオネショタの王道から考えると、あまりにも純情すぎるんだ。どちらかというとお姉さまは性……恋愛的に成熟していて、少年をめくるめく快……いや、えっと、こう、恋愛的なダイレクトで、ファンタジーでスペシャルな感じにだな……」

「あんた、途中で解説投げ出したわね? まあいいわ、言いたいことはわかったし」

 ミーヤは腕組みをほどいて、困ったように眉毛を八の字に下げた。

「確かに、デンスは恋愛とは程遠い感じだもの、そういうお姉さまタイプじゃないわ。でもね、それはこの世界の男が腰抜けすぎるのがいけないのよ。自分より強い女は好きじゃないとか、ふざけたことばっかり言って、ちっともデンスのかわいらしいところを見てあげないんだもの!」

「かわいいところねえ……」

 ふと俺の脳裏に浮かんだのは、道の味覚であるはずのカニを頬張ってさえ曇らぬ無垢な笑顔であった。

「笑うと……悪くない」

 ミーヤが目を輝かせ、少しかがみこんで俺の顔を覗き込む。

「あら? あらら~?」

「んだよ」

「他には?」

「スタイルだって悪くはない。胸周りのボリュームとか、むしろ好みだ」

「他にはないの? 他には」

「あの時……」

「え、どの時?」

「他の兵士がみんな怖気づいてるのに、率先して蟹を食いに来た時にさ、あれは……あいつなりの信頼と気づかいなんじゃないかと……内面はいい女かもしれないなと思ったんだよ」

「んっふ~、合格~」

 ミーヤは満足そうに頷いて、俺から離れようとした。俺はそんな彼女に向かって弁明の言葉を吐き散らす。

「べつに、かわいいとか思ってないからな!」

「はいはい」

「あの変な言葉遣いとか、年上設定とか、無理だし!」

「うん、いまはまだ、そういうことにしておいてあげる」

 ミーヤはひらひらと手を振りながら、カニの身をつつく兵士たちの中へと紛れてしまった。

 取り残された俺は納得できずにぼそりとつぶやく。

「だから、違うんだっつーの」

 そんな俺の背中を、誰かがポンと叩いた。振り向けばいかにもごついひげ面の兵士が立っている。

「おう、あんた、カニの食い方に詳しいんだよな?」

「あんたらよりは詳しいけれど?」

「ちょっと相談があるんだが、こっちに来てくんねえか?」

 兵士に手を引かれるまま、俺が連れていかれたのは、すでに味噌の残りも少なくなった甲羅の傍らだった。


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